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「リーダー」になりたい

実は、ここ数ヶ月間、大阪市某区にて地域子育て支援拠点事業の仕事に関わらせてもらっていました。学部時代の親友の紹介です。子どもの遊び相手をしたり、保護者の方々と色々お話ししたり。同僚の皆さんにも地域の方にも本当に良くしていただきました。大変気持ちのよい職場でしたが、そろそろ広島に戻ることを考えると延々続けるわけにもいかず、いよいよ今週で退職ということになりました。いくら縁故があったとはいえ、保育士資格も持たず、勤務も週一、勤続期間も短いことがわかっていた私のような人間を、よく雇ってくれたものだと思います。さすがに少々無理な勤務をしていた節は否めず、何かと慌ただしいこともありましたが、学びも多く、充実した日々でした。私にとっては、この分野の経験は0が1になったようなもので、とにかく大きなことでした。

一方、短い時間の勤務のなかで、全体から見ればわずかな部分の仕事だけで満足してしまっていた節もあるのではないかと感じています。部分的な仕事では、どうしても疎かになることが出てきます。全体像にコミットメントしながら仕事を進めたい、というのが私の常々の希望です。もちろん「目の前の親子と向き合う」ということに関しては丸ごと引き受けるつもりでやってきましたが、当然のことながら、事業所全体のこと、延いては社協のこと、地域福祉のことに関してはわからないことの方が断然多い。やってみたいこと、そのために学ぶべきこと、あまりにも沢山あります。

私のボスは「自分の中に『世界のマップ』を作ること」が趣味だと書いています。五年前、最初にこのフレーズを読んだとき、大いに共感しました。私なりにもう一言足してみるなら、描き出した世界と主体的に関わること、となるでしょうか。趣味らしくもない表現ですが、事実なんですから仕方ありません。そういう生き方が気持ちいい。しかし、それがどういう実践につながるか、というのは必ずしもよくわかっているわけではありません。やりながら考えるしかない。子どもの日常と関わる仕事は、私にとってはまさにそういう実践の一例でした。

最近、改めて将来のキャリアのことを考えています。皆さんからも色々アドバイスをもらいますが、そういうアドバイスを丸ごと引き受けるわけにもいかないので、こちらで勝手にブリコラージュさせてもらって、一つずつできることを積み重ねていきます。一方、生来あまり大きな目標を持たない人間ですが、ビジョンくらいはわかりやすく書き下しておくべきだろう、ということも感じています。先に書いた「全体像にコミットメントする」ということは、有体に言えば「リーダーになる」ということです。しかし、今の私のようにビジョンが曖昧な状態では、ひとまとまりの組織のリーダーにはなれるかもしれませんが、より大きな世界のリーダーにはなれません。

松田道雄という人がいます。『定本 育児の百科』の著者として知られる小児科医です。様々な形で育児の啓蒙に努めた人でした。一方、彼には歴史研究者としての顔もあり、河出書房新社の「世界の歴史」シリーズのうち『ロシアの革命』を執筆しています。歴史研究者というのは後付けでしょう。松田先生には思想があり、活動がありました。こういう社会派の医師は珍しくありません。最近で言えば、鎌田實先生の仕事にも通じるところがあるでしょう。彼らは、私が思う「リーダー」のひとつのあり方を体現していると思うのです。思想を共有している、という話ではありません。世界を射程に入れた思想を持ちつつ、自分なりの活動によってその世界にコミットメントする、ということです。こういうリーダーは決して少なくないと思うのです。

まあ結局は模索の日々なんですが、ときにはこういう大きなことをイメージしながら、自分の将来の具体的な道筋を考える助けにしたいと思います。

蛇足です。十代の頃の私は、松田道雄よりも、その息子・松田道弘の著作を手に取る機会が多かったことを覚えています。彼はマジシャンです。私はカードマジックを嗜んでいたのでした。しかし、執筆スキルというのは遺伝するものでしょうか。いや、環境要因のほうが大きいかもしれませんね。昨晩の記事で言及した鶴見一家のことを思い出しつつ……

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