壺
越後方面に温泉旅行の際に小さい店の
女将さんから聞いた話し。
町の温泉で親切に
明日はここが定休日、街道沿の湯がやってるなど教えてくれた。
夕飯がてら彼女の店に飲みに行き
いつものように怪異譚をきいてみた。
「んー不思議な話しとか怖い話?ここの町の話でなくていい?
大昔の話だよ。
前に海のある町に住んでいてね、
漁師の女房だった事があるんだよ。
こどもをね、4人目の子を産んで半年くらいの頃3人目と4人目を昼寝させててね。洗い物やら繕いもんやって、疲れてウトウトしちまってね。ハッと起きたら3人目がいないんだ。まだ歩き始めのよちよちなのに。玄関先にも庭先にもどこにもいない。
慌てて末っ子おんぶして、浜で仕事しているお姑さん(おっかさん)や近所の皆に聞いて回った。夜まで探しまわってもいない。
翌朝末っ子に昼寝布団代わりにかけてた半纏が浜にあがったんだり
ひとりで出かけて波にさらわれたんだろう、って事になった。
亭主と2人して探してくれた近所じゅうに頭を下げて、お礼して回って
遺体はないけど仮に葬儀して
まぁ、もう針のムシロってやつ
"あそこの嫁は赤ん坊見ないで昼寝こいて死なせた"
"水商売あがりはやはりダメだ"
そんななかでも
亭主も姑も大姑も何も言わなかった。
「仕方ない事だ」
家族は優しいなーって思ったんだよ。
家の方もそれからは豊漁が続いて
干物の行商も上手くいってね。
残ったこどもの面倒もみるし
すぐに次の子が生まれたし
忙しくしてたら気はまぎれた。
悲しい事があったけど
今は幸せだあと思ったんだよ。
だいぶ経ってね
子を亡くして10年ばかりだったかね
大姑が亡くなった。
その暮らしてた離れを壊して
大きめに家を普請する事になったんだよ。
基礎を掘ってる時に
人夫達が騒いで
土間のところから
古い壺やら人の骨やら出て来たってんだ。
警察が調べたよ。
もう江戸の頃の骨やらだから事件性はないってさ。
なんでも昔は家の敷地に旅人の行倒れや
漁の時引っかかってきた溺死体は
その漁師の家が埋めたり
村が埋めたりして弔ったり
祀ったり
マレビトは豊漁を呼ぶからとか。
小さい壺はながれた水子か育たなかった
赤ん坊だろうって事だった。
あー私もマレビトだった
他所から流れてきた女だった
その
小さい壺のひとつをね
包んでた布は
私がこさえた着物だったんだ
自分の浴衣をほどいて子の寝巻きに
縫い直したんだ。
間違えない。
もうね1番下の子を連れて
行商行くふりして
逃げたんだ。
なんであの子だけ
だったのか
知りたい気もするけど
いや、知りたくないねぇ。
女将さんはタバコをつけ
まるく煙を吐き出した。
どっとはらい
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