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[ことばとこころの言語学・12]わたしたちはコミュニケーションでなにを理解するのか?
わたしたちはことばがないとメッセージを伝えることができないと、以前お話ししました。しかし、ことばはことば以上のことを伝えているということをここで確認してみましょう。
まずは、次の文をみてください。
(1) 私の弟はバス会社を経営しています。
(2) 東京は昨日から雪が降っています。
これらの文には、ことば以上のメッセージ、つまり言外の意味が伝えられていることがわかります。つまり
(3) わたしには弟がいる。
(4) 今、東京は雪が降っている。
というメッセージも含まれています。
(5) 私の弟はバス会社を経営していません。
という文はどうでしょうか?私に弟がいることは変わりありません。一方次の文はどうでしょうか?
(6) 東京は昨日から雪は降っていません。
この文からは現時点で東京に雪は降っていないということが伝わります。ここで、考えておきたいことは、(1)と(2)の文をそれぞれ否定すると、それぞれの言外の意味が変わらない場合と変わる場合があるということです。そして前者を前提(presupposition)とよび、後者を論理的含意(logical entailment)といいます。
なぜ、ここで論理的含意という用語を出したかというと、もう一つ「含意」という用語が言語学にあるからです。次の例を見てください。
(7) ちょっと暑くない?
この場合、単に暑いと言ってるのではなく、暖房の温度を下げて欲しいとか、窓を一度開けて欲しいということを言っている可能性があります。もしかしたら、暑いのでビールを飲みたいと伝えているかもしれません。それは、話し手と聞き手がどのような環境にいるかによって、言外の意味が異なってくるのです。そうすると、先にみた「東京は昨日から雪が降っています」という場合と言外の意味の仕組みが異なっていることがわかります。「ちょっと暑くない」ということばには、ビールという言葉が含まれていないにもかかわらず、聞き手はそのように理解することができるのは、いったいどういう仕組みがあるのかについて、このあと考えていくことにしましょう。
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