炭酸は万能だ
炭酸は万能だ。
お酒の飲めない私にとって、飲み会の救世主となる。
「なま8つ!!」
「・・・あと、ジンジャエール・・・1つ」
下戸であることを恥じるようなご時世ではないのだが、やはりこの瞬間だけは少しの勇気が必要だ。ただ 、この一言を乗り越えれば問題ない。乾杯さえすれば、気分はもうハイボール。誰も気にしない。グラスにプカプカと浮かぶストローだけを除けば。
バーベキューでラムネ菓子をポケットに忍ばせておけば、我が子へのサプライズも可能だ。少々肉が固かろうと、大嫌いなピーマンが入っていようと、買った花火が湿っていようと、魔法のような炭酸噴水イリュージョンで父親の威厳は無事復活する。
アイスやかき氷と組み合わせれば、猛暑にぴったりの爽快デザートにも変身する。おまけにインスタ映えも間違いない。上手くいけば、バズらせることも夢ではないだろう。原宿か渋谷か、はたまた表参道か、今日もどこかの店主が、スマッシュヒットを狙っているはずだ。
JPOPの歌詞にも最適だ。「君はまるでサイダーのように、パチパチと僕の心を弾くよ~」とでも歌えば、青春の淡いラブソングの完成だ。Bメロくらいに持ってくるのが丁度よい。ステージからシャボン玉でも飛ばしておけば、きっと盛り上がるはずだ。ぜひ、今年の文化祭で披露してみてほしい。
炭酸は万能だ。
でも1つだけ欠点がある。それは、短命であることだ。
キャップを開けた瞬間からカウントダウンが始まる。飲みきれず冷蔵庫にしまったまま忘れ去られた数日後のコーラは、何度味わっても虚しさの味しかしない。息を吹き入れてみたり、かきまぜてみたり、氷を入れたりしてみるが、一度気が抜けてしまえば、もう二度と元には戻らない。当たり前の話だ。でもそんな当たり前が、ひとときの刺激であると知っていることが、炭酸が長く愛されている理由なのかもしれない。
何かと慌ただしい日常を、私たちは生きている。
炭酸のように、キャップを強く締めたり、放置しないよう注意したり、欲張らず小さめを選択したりしながら、何とか踏ん張って生きている。お酒の飲めない私も、噴水イリュージョンに目を輝かせる我が子も、大バズりを狙う店主も、あの子を想い歌う名もなきシンガーも。
それでもたまに、間違ったり、失敗したり、傷ついたりして、少しずつ気は抜けていく。抗おうとしても抗えない時もある。でも大丈夫、それは決して自分だけのせいじゃない。自分の努力が足りないからじゃない。世界のコカコーラだって、数日経てば気は抜けるんだから。
今日もまた、三ツ矢サイダーでも飲んで、自分を労わってあげよう。
「開けたての 炭酸片手に 気を抜こう」
何だかステキな川柳までできた。
やっぱり炭酸は万能だ。