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Back to the late 90’s 第8話 決別

「なあ、ラップやれやー!」


と、ヒデが私に言ってきた。「えっ?」と思ったが、確かにこのパーティーをやるにはDJ、ダンサーはいるがラッパーがいない。第7話にも書いた通りナスは、まだ本格的にラップをやる前だった。そこでヒデからDJの隣でホストMCをやって欲しいと打診された。それに私の風貌が「ゴリゴリのラッパーぽい」と言うのも理由だと言われた。


「まあ、ええかあ……」と、妥協じみた感じで承諾したが、内心は「DJユニット『Slow Down』じゃなかったのか?」とヒデに対して不満を抱くようになっていた。


イベントは京阪樟葉駅近くにあった今は無きBOB'S BARで開催され、イベント名は確か『Very Speial』だった。フライヤーは、アメリカの女性R&BデュオZHANEの画像を白黒コピーしたものに、出演者の名前を手書きで書いたチープなものだったが、今はもう手元に1枚も残っていない。私はホストMCと、ヒデが準備したインスト・トラック(確かJAPANESE REGGAEアーティストMOONIN『Move On』のインストだったと思う)で予めリリック書き下ろした曲を演じた。


「YO!俺の名前はMC KUO♪こう見えて歳は19才 まだまだこれからの青二才♪」


こんな感じのリリックを書いて披露したことを今でも覚えている。下手なりに、なんとか韻を踏んでラップをした。緊張しながらのステージだったが、イベントが終わる頃には開き直って、吹っ切れた感じで叫んでいた。けど「やはり自分は、ラッパーには向いてない」そう確信した夜だった。


そして間もなくして、私とヒデは袂を別にすることになる。ユニットを組んでやる以上は、本来対等な立ち位置で、意見を交わさなければならない。しかし、徐々にヒデが主導権を握るようになり、結果、それに私がついていけなくなったからだ。これ以外にも様々な理由があったのだが、今思えば一番の原因はこれだ。


結局DJユニット『Slow Down』は幻のまま現在に至っており、今後も復活はないだろう。その後のヒデは、1999年の年始にCLUB DONFLEXで開催された新人DJイベントで華々しくミナミでデビューしたものの、その後は名前を見かけなくなってしまった。今はもうDJを引退し、地元を離れて、結婚し子宝にも恵まれて幸せに暮らしているとの事なので、何よりだと思う。


そして、私自身「今後の音楽活動において、ユニットやクルー、チームやグループは入らないし、組まない。1人でDJとして活動する」と心に誓った。そのポリシーを未だに曲げずに、現在に至ってもピンで活動し続ける事になる。

つづく……

ヒデと一緒に写っていた唯一の写真。
一番右が筆者で、その左隣がヒデ。
うーん、顔がわからない……(苦笑)

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