人間剥製師 第2話「賢者の贈り物」


■第2話概要


 今回の依頼者、背中に『羽』――大きく隆起した肩甲骨を持つ彼は、その見た目からくる軋轢に疲れ果て、すっかりひねくれてしまった。故に自らを剥製とするよう、人間剥製師に求めていた
 屋敷に逗留する青年。そこで同じ様な境遇の少女――額に『宝石』を持つ、と出会い打ち解ける

 一緒に剥製となることを約束した2人。お互いを思う2人は、共に相手のことを冷遇した人類を見返してやれるくらい、相手が美しい剥製になれるよう取り図ろうとする

 青年は自らの『羽』を削り落として金を調達し、少女の額の『宝石』が映える美しいティアラを注文した
 少女は『宝石』を売り、青年の羽の生えた背中にあう、背中空きの特注デザインの燕尾服を注文した

 施術当日、お互いの姿を見て驚く2人
 呆然とする2人に対し、人間剥製師は言った
「ここにいるのはただの1組の人間だよ」

■本編


1.羽


 開幕、大ゴマに男性の背中が映し出される。両サイドの肩甲骨が皮膚の上から分かるくらい大きく隆起している。それは、さながら天使の羽のようである

ナレーション「羽だった」

 次のコマ、丸椅子に座る『羽』の主と、背後から羽を観察している人間剥製師。助手のように人間剥製師に付き従うチサ

 「もう良いだろ」と、さっと服を着る。手術衣を思わせる白い貫頭衣
服の上からも分かる骨の膨らみ

羽の主「わかったでしょ」
 そう語る羽の主は美形の青年、本来ならさながら本物の天使のようでもある
 しかしその表情は、どこか歪んでしまっている

羽の主(以下「青年」)「服を着ても隠しきれないこの出っ張りだ」
「生まれてからずっと、僕はこの『羽』のせいで嘲り、好奇の視線、差別、虐め。そういった全てに苛まされてきた」
 子どもたちに石を投げられる。ひそひそ話される少年の頃の光景などが描かれる
青年「1度なんて頭のおかしい信仰集団に攫われかけたこともある」
人間剥製師「確かに。迷信深い昔だったら、奇異な外見の持ち主はあらぬ偏見で弾圧にあってもおかしくなかっただろうね」
チサ「今も根強い偏見の持ち主っているし」(本当ヤダ)

青年「もうたくさんなんですよ! あいつらの視線に晒されて生きるのは」

人間剥製師「それでも今の医療技術なら、骨を削って整形できる筈だが」

青年「ええ、何度もそれを試しました」
 手術の苦痛を思い出して顔をしかめる。チサ、つられて想像して苦い顔
「でもね。忌々しいことに、骨が修復するにつれてこの通り、元に戻ってしまいましたよ」

 嘆息して
青年「結局僕はこの『羽』と一生付き合う運命なんだ」
人間剥製師「……」
青年「それで思ったんですよ。このまま人間の世界で煩わしさに耐えて生き続けるくらいなら、いっそ『剥製』になってしまおうって」
人間剥製師「それでここに」
青年「ええ。何故ここを知ったかって言うと、こうした『モノ』を持っている手前、色んな付き合いがありますしね。自然通じるものがあるんですよ」

人間剥製師「何れにせよ『剥製』の施術には段取りがある。暫く待ってもらうが」
青年「こちらとしては今すぐでも良いくらいなんですけどね」

2.逗留


 屋敷の中を散策する青年
 通廊や噴水のある広間などを回る
 時おり『先達』の剥製を見ては、「僕もじきにそちらに行きますんで」などと軽口を叩く

 通廊を歩いていると、手すりにもたれ黄昏れている少女に出くわす
 蝶々に手に止まって欲しいのか、手をしきりに伸ばす少女。夢中になって手すりを越えて落ちそうになる。

青年「危ない!」
少女「きゃ」
 慌てて駆け寄り、少女を抱きかかえる
 ほっと一安心する青年
少女「あの、降ろしてもらって良いでしょうか」
 お互い赤面する

 落ち着いた少女
少女「ご、ごめんなさい。助けてもらってお礼も言わず」
青年「い、いえ。当然のことをしたまでで――」

 青年は少女を正面から見、あらためて格好をあらためる。自分と同じ白の貫頭衣
青年「ひょっとしてあなたも……」

 少女の額には、それと分かる大きな宝石が埋め込まれていた

 少し時間が経過。会話を交わす2人

青年「そっか。それでここに」
少女「ええ。治療の手立てもなくて、とうとう人々の視線に耐えられなくなってしまって……」
青年「宝石種、っていうのかな。額に宝石を埋め込んだ種族って。とっくに絶滅したって聞いたけど」
少女「さぁ。私の生まれは至って普通の家族でした。私が生まれて変わってしまいましたが……」
(見世物扱い・非人道的な扱いをされるところ回想)
少女「ご先祖様にそんな人がいたって記録もないですし。ただ私がおかしな体質を持って生まれたってだけですね」

青年「でも、それって手術で取ることはできないの? そしたらもう普通の人間と変わりないんじゃ」
少女「いいえ。それが1度取っても再び額宝石ができるのは変わりなくて。お医者様によると、体内の炭素が未知の理由で凝縮されて、この宝石になるみたいです」
青年「そっか。ごめん」
少女「中にはそれを良いことに、宝石目当てで襲われたことも……」
青年「僕もそうでした」

 思い返す青年。医者に説得され手術を決意する。きつい手術に耐え、後日背中の痛みに打ちひしがれながら裏道を歩いていると、削り取った自らの『羽』が、いかがわしい店で「珍品」として売られていたのを発見する

青年「でももう怖くないですよ。なぜならここで僕たちは剥製になるって決まったんですから」

 それから暦がめくられ剥製化の時期が近づいていくことが示される
 その間2人連れ立って散策するところ。庭で鳥と戯れるなどが、ダイジェストで描かれる

 庭のベンチに座って
少女「あなたの羽が羨ましいな。本当の天使さまみたい」
青年「そんなこと無いですよ」
 少女の宝石を見て
青年「君の宝石の方がずっと綺麗だ。まるで君の心を映しているみたい」
少女「宝石なんてただ輝いているだけですよ。私はどこかへ飛んでいきたい」
青年「剥製になったら飛べませんけどね……」
 暗い否定から一転顔を明るくして
青年「でも、僕たちが剥製になって永遠の身体を手に入れたら、どうでしょう。
 僕たちは悠久の存在となって時代を飛び越える。僕たちを嘲りいたぶった人間たちも老いさらばえ消え去って、人類が滅んで誰も僕たちを害さなくなった時、僕たちは真の安寧を手に入れる。
 その時君が隣りにいてくれたら、どんなに嬉しいだろう」

 最後のセリフ。性急な告白であったことに気づき青年は照れる。
 青年の告白を受けた少女は最初は驚き、その後誠実な顔になってゆっくりと言葉を紡ぐ

少女「正直言うと、まだ怖さはあるんです。剥製になったら何も見えない何も聞こえない。もう何も感じられないんだって考えたらすごく怖い。真の一人ぼっちになってしまうんだって。でもあなたが隣にいてくれるって分かったなら」
青年「!」

 共に黙って見つめ合う

3.プレゼント


 更に暦がめくられる
 より仲睦まじい雰囲気の2人

 1人になった青年は、自室でベッドに仰向けになって、退屈しのぎに本を読んでいる
 壁にかかった暦を確認してつぶやく。

青年「あと1週間か……」
 迫った期日にを前に想像するのは、剥製になった己の傍らにいる少女の姿

 ふと考え込んで
青年「待てよ。僕たちは剥製にされたその姿で在り続けることになるんだ。その時彼女にはもっと綺麗でいてもらわなければ」
青年「大体僕は今まで彼女にプレゼント1つ贈ってないじゃないか。なんて甲斐性のない」
青年「そうだな……何が良い?」

 思い立った青年は、ベッドから飛び起きると、コートを羽織り、街に向かう

 無人の部屋に入り込んだチサが
チサ「あ、これ私が探してた本」

『初めての男女交際~清く正しく~』

 街の小路を歩く青年
青年「そうだな。装飾が良い。彼女に相応しい装飾……あの宝石を飾り付ける髪飾りかなにか……」
 ショーウィンドウで足を止める
 そこに陳列されているのは瀟洒なティアラ
 如何なる理由か中央の宝石がすっぽり抜けていて空枠になり、ちょうど彼女の額の宝石がそこに収まりそう

 すっかり惚れ込んだ青年
 店内に入って叫ぶ
青年「店主!」

 訝しげに見やる店主

青年「表にあるアレだが」
老店主「ちゃんと言ってもらえるか」
青年「ティアラだよ。目立つところにある。アレが欲しいんだ!」

 あー、アレねといった風情で
老店主「ああ見えて落魄した貴族の由緒ある品だ。値打ち物だ」

(関心なく)
青年「それで幾らになる?」
老店主「ふん。金50だ」
青年「(有り金はたけばそれくらい。財産なんて今の僕には無用の長物なんだから」
 懐の財布をガバと取り出し、中身をカウンターにこぼす。

…………

項垂れて
青年「金30足りない……」

老店主「言っておくがビタ一文まからんからな」

青年「金……金……」
決心した目で
青年「そうだ」

4.贈答


 
手術日当日
 ティアラを入れた包みを持って、集合場所に向かう青年
 背中に包帯が巻かれている。そこにはかつての膨らみはない
(手術で『羽』を削って金に替え、その金を持って店で目的の物を手に入れるイメージ)

 先に待っていた少女。やはり手に何かを携えている
 笑顔でティアラを渡そうと駆け寄る青年。はっと気づいて立ち止まる
 衝撃に持っていたティアラを落とす

 少女も青年の姿に気づいて驚き、やはり持っていたものを落とす
 それは服。青年のための、背中の空いた特注の燕尾服だった
(宝石を抉って金に替え、特注の服を仕立ててもらうところのイメージ)
放心する少女の額には、かつてあった宝石がなかったのだ

 お互いの「すれ違い」に気づいてしばし呆然とする2人
 そこに施術のため人間剥製師がやって来る
 来る時を待ち受けるべく、お互いを抱きしめる
 覚悟の表情

 2人の『姿』をみた人間剥製師は肩をすくめ
人間剥製師「ここにいるのは美しいただの1組の人間だな」

 その場を立ち去る人間剥製師と後に従うチサ。抱き合って共に何かを決意する表情の2人

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