「半分は君の顔」 第3話

■圭佑と碧


 翌日の昼休み。お昼になるというのにボケっとしたままの圭佑。

 馬鹿騒ぎしてる大介と吾郎。

 彼らと距離をおいて自席で圭佑が黄昏れている。
 圭佑のスマホ画面には、昨晩本物のミラベル(碧)の投稿画像。
 しかしそれを見るわけでもなく、浮かない顔。
 「いいね」のハートも付いてない(白抜き)のままである。

 碧の方から話しかけてくる。馬鹿騒ぎしつつも、それを脇で見て「やれやれ」となっている友人たち。

碧「どうしたのよ。柄でもなく黄昏れて」
圭佑「あー、碧か」

 圭佑依然浮かない顔。

圭佑「いや、ちょっとな」
碧「悩みでもあるなら話してみなさいよ
圭佑「何でお前に」

と最初はつっけんどんな圭佑。

 しかし、間を置いて態度を融和し、

圭佑「いやさ、仮にの話だけど」
と前置きを語って切り出す。

圭佑「俺の眼の前にそれまで憧れていた人が現れたとしてだ。その子がだよ。思っていたのと違った。いや、決して性格が悪いとか幻滅したとかじゃなくて、実際会ってみたら凄くいい子なんだけどね。でもどうしてもギャップを感じてしまう。ああ、やっぱり憧れの存在は遠くから見る存在に留めておくべきだったんだ。俺はどうしたら良いんだろうってね」

 語りの最中に、それまで圭佑がネット上にミラベルに抱いていた「清楚」、「可憐」のイメージ。
 そして、現実の梓に相対した時の「挑むような」、「肉食」的な態度をとるミラベルのイメージが展開される。

圭佑「って何でこんなことお前に」

碧「はぁ」とため息をついて「あんたこそ何でそんなこと」とばかりに

碧「あのね、勝手に好きになって幻滅とかあんたそんな殊勝なこと言うようになったの」
圭佑「そりゃそうだけど」

碧「そもそもあんたは何でその子を好きになったのよ」

 圭佑キョトンとする。

碧「自分で言ってたじゃない。あの子の『顔』が好きなんだって。そんなデリカシーのないことを、よくもまぁ堂々と」

碧「そんだけ自分の思い入れ語ったんだったら、それを貫いてみたらどうよ」

1話の圭佑の演説シーンイメージ、挿入。

碧「それなのに2言3言話したくらいで『思ってたのと違う―』とか、彼女に失礼にもほどがあるんじゃない。大体あんたってそんなこと気にするタマだっけ。圭佑が解釈違いだっつーの」

碧の「熱意ある」説教にしばし呆然としていた圭佑だが、我を取り戻したようにシャキッとして。

圭佑「そうだな。ちょっと話したくらいでイメージ崩れたとか、俺のほうこそミラベルちゃんに対して信心が揺らいでるだけだな」

圭佑「もう1度彼女と話してみるか」

圭佑「碧、ありがとな」
振り返って笑みを見せる。

 圭佑の立ち去った後、しばらくすると碧も化粧ポーチと手提げ袋を携えて、どこかへ赴く。

作者注:圭佑がミラベルに対する【現実】と【イメージ】のギャップに悩んでいることについて、碧がこの機に「ほら、憧れと現実は違っただろ」とばかりに圭佑のミラベルへの関心を引きはがすことを試みるのではなく、逆にポジティブに現実の(偽者の)ミラベルとももう一度話してみろよ語るのは、圭佑がこれまで持っていた『ミラベル』への憧憬を消したくないから。自分自身の思い出をも否定したくないからだ。その上で「偽」ミラベルと己のどちらが圭佑の関心を惹けるか。勝負したいからである。

■梓の事情

 廊下を進む圭佑。

圭佑の携帯メッセージ「to 北條 もう1度話しませんか?」←編入初日にクラスのRineグループに加入してた(注)

返信「from 北條 ここでどう?」
画像添付。階段を登った先の屋上扉に繋がる空間。そこに今梓がいるようだ。

 返信を確認し、待ち合わせの場所に向かう圭佑。

 一方校舎脇で待つ梓。

 彼女のモノローグで、彼女の身の上が語られる。

「中学時代引き籠もってた。理由は良くあることで、クラスでのイジメ、嫌がらせ。身に覚えのない理由で標的にされて、それからは些細なことでもあげつらわれ、からかわれる。体の良い獲物が、たまたま私だったてことだ」

 屈託のない笑顔を浮かべる、中学生時代の梓。それはまさに幼い頃の<ミラベル>と言った趣きで、とても可愛らしい。
 そこから一転画面が暗くなる。
 教室の壁際に追い詰められる梓。クスクス笑って彼女を見るクラスメイト。

「引き籠もった果て、劣等感に苛まされていた私は、何にも希望を持つことができなかった」

 暗い部屋で椅子の上に膝を抱えて座り、PCに齧りつく梓。
 ボサボサの髪。部屋着をだらしなく着こなす。目の下の大きい隈。

「そんな時、私は彼女に出会った」
 画面に釘付けになる梓。

 そこに映っているのは、碧の「ミラベル」の写真。
 既に増え始めたファンから持て囃される様子。

「自分と瓜二つの姿の子が、こうしてみんなを元気づけ、みんなから愛される。私がなれたかもしれないもう1人の私」

 ミラベルがネット上で着々と人気になっていく様子を追っていく梓。
 彼女のアカウントに付く、「可愛い」「大好き」と言った称賛のリプライ。

「なんだ。劣等感まみれの私だって、その気になれば人から可愛いって言ってもらえるんだ。褒めてもらえるんだ。私は彼女<ミラベル>を見ているうちに、自分自身勇気づけられていることに気がついた」
鏡の前に立って、久しぶりに身だしなみを整える梓。

「そしてもう1人」

 回想内の梓、もう1人のアカウントに目を留める。
「ミラベル」のファンの中でもいつも目立つ、毎回彼女に熱い称賛のリプを送るアカウント。
 それはアイコンで間抜けな顔を晒している圭佑だった。

K助(圭佑のXwitterアカウント名)「ミラベルさん今日も最高です!」
K助「いつ見ても惚れ惚れします」
K助「ミラベルさんに斬られるモンスターが羨ましい(ぐぬぬ」
K助「今度はどんな衣装着てくれますか?と言っても何でも嬉しいですけど!!」

「いつも彼女に付き従う同年代の男の子。調べたら偶然にも、この近くに住んでいる子だったのだ」(中学は違うけど)

 中学時代の圭佑。修学旅行で大介や吾郎、その他女子たちのグループで集まって撮った写真。体育祭ではりきりすぎてヘマした瞬間の写真などがイメージで現れる。

「しかも4月からこの近くの高校に通っているらしい」
 カーテンの隙間から、窓の外を眺める梓。視線の向こう側、圭佑の通う高校がある。
 高校生になった圭佑のイメージ。

「もちろん彼が慕うのは彼女<ミラベル>だ。私じゃない」

「けれども」

 先ほど現れた圭佑の写真に、中学生の自分が混じっているところを想像する梓。
 そこに写っている梓は、今の自分とは違い髪も手入れされてるし、目の隈もない。

「彼の視線の先にいるのが私だと思うことに、罪はあるだろうか」

 制服に袖を通す。
「気づいたら、外に出る決心をしていた私がいた」

 鞄を持って外に出た梓。通学路を歩く。周囲には自校の生徒たち。

■圭佑と梓

 階段を登った先に梓が待っている。梓を見上げる形になる圭佑。

 スカートから伸びる太もも。風で微かに翻るスカートの裾。
髪を撫でる仕草を取りつつ、圭佑を見下ろしている。
 それはともすると、「睨めつける」とでも表現できそうな風情。

 そこにいる梓はかつての引き篭もりの気弱な「梓」ではなく、圭佑の憧れるミラベルを演じている「役者」だった。

梓「話って何かしら?」

圭佑「あー、その昨日は、色々あって――」
梓「それは済んだことでしょ」(お互いなかったことにしましょうって)

圭佑「それもそうなんだけどな。ただ俺の言いたいことはそうじゃなくて……」

 意を決して
圭佑「昨日はその、梓のこと解釈違いだなんて言ってごめん」
梓「え?」

圭佑「考えてみたらさ。『ミラベル』って言う存在は君のものじゃないか。それなのに、1ファンの分際で本人に向かって『解釈違い』とか、思い上がりも良いところだよなって」

圭佑「正直言う。俺はただネットの『ミラベル』を見て君のことが気になってただけだし、現実世界の君のことはまだ良く知らない」

圭佑「ただその。あんなにキモイリプ送りまくってたにも関わらず、俺のこと好意的に受け止めてくれたこと、嬉しく思ってます」(また昨日のこと蒸し返してごめん)
 (昨日(第2話)の、「純粋な気持ちで見ていてくれて嬉しい」と語った梓のイメージ挿入)
圭佑「ああ、ミラベルさんって現実でもいい人なんだなって」

圭佑「だからその」

 頭を全力で下げて
圭佑「まずはお互いをよく知るために、友達から始めてください!」

 圭佑の交際宣言に対して

 梓の心の中「(名前で呼んでくれた――)」先ほどの「梓」呼びのシーンリフレイン。

梓、キュンとなる。

 一方頭を下げたままの圭佑。返答が無いことに対して、

圭佑「て現実でお付き合いとか何言ってんだー、あはは……」

 ふわっとした感触。

圭佑「――!!」

 階段を2,3段降りた梓が、そのまま圭佑を抱いて(ハグして)いたのだった。

梓「本当そういうところが見境なくて

圭佑「ミ……梓さん?」

 自らの腕を梓の背中に回すこともなく。かといって突き放すこともできず硬直したままの圭佑。

 しかしそのまま梓の暖かい感触を受け止め続けるのであった。

■もう一人のミラベル現る?

 こうして打ち解けた圭佑と「偽」ミラベルであるが――。

 その時圭佑のスマホに通知音。

圭佑「この通知って確か」

 慌ててスマホを取り出す圭佑。空いてる腕でXwitterの画面を出す。

 「ミラベル」からのメッセージ。画像が添付されている。
 果たしてそこに映っているのは、この学校の制服姿の「ミラベル」。しかも後ろに映っているのはこの学校だ。

 正体は変身した碧だが、もちろん圭佑は気づかない。

 眼の前にいる梓には、このメッセージは送信できなかった筈だ。

 慌てた風情で眼前の梓<ミラベル>とスマホの画面に映った<ミラベル>を交互に見る圭佑。

圭佑「これって――」

 2人の「ミラベル」の登場に、事態は混迷する。

<続く>

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