「半分は君の顔」 第1話


■冒頭語り


 開幕ナレーション。ヒロイン「園崎碧」による語り。

「『可愛い』って言うのは、本人の努力によって作られるものだ。アニメや漫画に出てくる女の子は、何もしなくたって初めから目がすごくパッチリして可愛くて、お肌だってとってもツルツルだ。

 だけど現実はそうはいかない。

 自分が自慢したいチャームポイントを引き立たせるために、ばっちりメイクする。
 うぶ毛だって生えてくるから、毎日丹念に剃らなきゃならない。

 それは見せたい自分を作るための努力であって、決して『化ける』とか『インチキしてる』みたいな、心無い言葉を投げかけられるようなことじゃない」

 会話中、背景に引き合いに出されたアニメ風の女の子。女子がアイメイクをしているところ、鏡で自分の頬を丹念に見てうぶ毛が残ってないか確認している姿などが映し出される。

 語りは続く。

「もう1回言う。女の子は相手に綺麗に見られるために、何だってする。そのための努力は惜しまない。
その努力の果てに相手に見てもらった姿こそ、その人の本当の姿なのだ。

 ……そして最後にもう1つ。女の子は作り出す。相手に見られたい理想の自分の姿を。それだって見せたい自分を作り出す努力の結晶。誰にも文句は言わせない」

 カメラの前でポーズを決める女性の姿
 スマートフォンを構えて自撮りする女の子。写真の中の彼女は、目が大きくなる

 語りが終わり、(加工のために)スマートフォンを握った葵のシルエット。
場面転換。

■『顔』宣言

 シーンが変わったところで、横向きになった男子生徒の顔ドアップ。主人公の「佐々圭佑」の顔である。

圭佑「やっぱ顔だな」

 カメラが引いて全景が映し出される。

 ごく平凡な教室の風景。
 自分の席に座り、机に頬をべたりと付けた圭佑。左右に友人の「大介」と「吾郎」がいる。
 優男風の大介。ぽっちゃりした吾郎。

大介「はぁ?」
吾郎「まーた突然何を?」
圭佑「何がってこの子だよ」

 そう言ってスマホの画面を2人に見せる。
 そこに写っているのは女性の自撮り画像だ。

圭佑「あぁ。本当良いよなぁ」
吾郎「ああ」(納得の表情)
大介「またこの子かよ」

 身体を起こして雄弁に語りだす。
圭佑「Xwitterに飛来した癒やしの天使『ミラベル』ちゃん。毎日バッチリ決めたコスプレ自撮りをアップしてくれる女の子。最新ソシャゲの人気キャラから、往年のオタクが喜ぶ王道アニメの伝説ヒロインまで、何でもこなす万能さ。そのなりきり度もレベル高しときてる。アカウントを開設して間もないのに注目度もうなぎ登りさ」

 説明するコマの背景に、彼女の自撮り画像(コスプレ装束)や、アカウント情報の画面が映し出される。
 『ミラベル』と呼ばれた子は、金髪のウィッグを被り、目もアイラインがひかれてパッチリ。顔も丸みを帯びていて、ほんわかとして見る人を安心させるような、子犬のような雰囲気を放っている。
 フォロワー数「6,000」の情報

吾郎「相変わらずだなお前」
大介「ほんと飽きないよなぁ。どこがそんなにお前を夢中にさせるのか」

 友人の質問に対して
圭佑「それでさ。色々考えてみたわけよ。ぶっちゃけコスプレイヤーなんていっぱいいる訳じゃん」

 圭佑が突然有り体なことを言い出すのに呆れて
大介「いやまぁそうだけど」

圭佑「でさ。何でミラベルちゃんだけこうして惹かれるのか。俺なりに考えてみたわけよ」
大介「ほう?」(興味深そうに)

圭佑「コスプレってキャラごとに当然毎回違う衣装を着るわけだろ。なのに不思議なことに、そのキャラになりきっているのはこの子だって毎回分かっちゃう」
(色んなキャラのシルエット)

吾郎「そりゃそうだな」
圭佑「じゃあ何がその人を識別するかっていうと、結局は顔なわけよ」
大介「はぁ」

 画面を見てうっとりと
圭佑「見てよ。ミラベルちゃんのこの顔。アニメのようにパッチリとしたおめめ。餅のように艷やかな肌。守りたくなる子犬系フェイス」

圭佑「それでいて凛としたキャラをやってもきっちりと決まるんだけど。そこに不思議と現れる初々しさが俺を惹きつけてやまない」

 和服で日本刀を構えたキャラコスプレイメージ。

 両手を祈りのポーズにして
圭佑「うーーーーーん。たまらねぇーー」

吾郎「出ました! 唐突な面食い宣言」
大介「相変わらずスイッチ入ると人変わるね」

圭佑、構わずに陶酔した風情で背景に長口舌
圭佑「まぁ俺としては群雄割拠混迷極まるレイヤーの世界に天から降った矢のように現れて。燦然と輝く眩さと言うか、推しの子が無名の時からスターダムにのし上がるのを見守っていくファンの気持ちで応援していきたいのもあるけど――」

吾郎「でも結局顔なわけでしょ」
大介「んだな」

 友人のツッコミにむっとして
圭佑「そういう事言うなら、お前らは女の子のどこが好きになるわけ?」(言ってみい?)
2人「何ってそりゃぁ」

 もわもわと浮かび上がる、グラビア画像的な「乳」や「尻」のイメージ。

 やれやれとばかりに
圭佑「はぁ。やっぱお子様だよなぁ。お前ら」
大介「いや、突然女は顔とか言い出すやつに言われたくないし」
吾郎「ほんとデリカシーないよ」
圭佑「なんだとぉ!」

3人「乳だ!」「顔だろ」「いやっ尻!」

 3人がガヤガヤやっていると、そこに女子が割り込んでくる。

圭佑「大体乳や尻の大きさで女性の価値を測ろうなんてお子様も――」
女子「あんたたち!」

 喧騒止まる。

 3人を睨みつける女子は、ヒロイン「園崎碧」だ。
 1つに結ったショートの黒髪。眼鏡のレンズの向こうに、切れ長の目が見える。
 スッと尖った顎。睨みつける表情で、口角は自然つり上がっている。
 先に圭佑が提示した「ミラベル」とは、似ても似つかない

吾郎「あっ、園崎さん」
大介「圭佑くんに、何か御用だったかな」

 ぷりぷりした様子の園崎碧を背景に圭佑語り
「彼女は園崎碧。腐れ縁っつ―か、ただの幼馴染。見ての通り生真面目さを貼り付けたような女子で、うっとおしいっちゃ、うっとおしい」

 何だよという顔つきの3人に対して指を突きつけ
碧「さっきから3人して、『尻』だの『胸』だの叫んで。周りの目も気にしなさいよ」

 3人「はっ」と気づいて周囲を見る。
 にやにやする男子集団。呆れ顔の女子集団。顔を赤める真面目そうな女子もいる。

 納得いかないという表情で
圭佑「いや、俺は冤罪だし!」
吾郎「でもねぇ」(にやにやして
大介「俺たちは圭佑に聞かれたから仕方なく答えただけで」
圭佑「はぁ。なすりつけんなって」
碧「あなたも言ってたじゃないの。『女の胸や尻がどう』って」
圭佑「それはそういう意味で言ったんじゃないって」
碧「同じことよ。そんなに女の子の胸や尻が気になるなら、エロ本でも読んでなさいよ」
圭佑「……てか結局お前が1番『尻』とか『胸』とか叫んでない?」(にやにや)

 顔を真っ赤にして
碧「そういう意味で言ったんじゃないわよ!」

圭佑「一緒だって」
碧「一緒じゃない!」

 喧々諤々言い合う2人
圭佑「―――!」
碧「―――!」

 いつの間にか2人だけの言い合いに
 「またやっている」と言いたげな周囲のクラスメイトたち。
 大介と吾郎も「やれやれ」といった風情で見つめている。

 そこに男性教師が入ってくる。のんびりした雰囲気だが、身なりの整った端正な顔立ちの若い眼鏡の男性。
 この教師は担任の教師でもある。

 牧歌的な口ぶりで
担任「ほーい、授業始まってるぞ―。早く席につけ―」

 言い合いをしていた2人もそそくさと席を立つ。

 授業中の風景。
 授業に身の入らないといった風情の圭佑、大介、吾郎の三馬鹿の様子。

 碧、教師の質問に対してきっちりと挙手して回答を朗読。
「おー」と感嘆のこえ上がる。
当然とばかりに済まし顔で着席する碧。

 席についた後ちらりと圭佑の姿を伺う碧。

■碧<ミラベル>の自撮りアップ


 夜。
 自室で圭佑がスマホの画面に釘付けになっている。

圭佑「まだかなー。ミラベルちゃん更新まだかなー」

 次いで碧の家の外観が映し出される。
 碧の自室。勉強に励んでいる。

 一区切り付けたところでペンを置いて
碧「うーん」背伸び

 ちらりとドレッサーの方を見る。
 「すっ」と表情をあらためると、椅子から立ち上がってそちらの方に向かう。

 押入れの扉が開かれる。
 さっと衣擦れの音。
 碧のスカートがストンと足元に落ちる。続けて服に手をかけ――

ここで圭佑の部屋の場面が挿入

圭佑母「圭佑ー。いい加減風呂入りなさいよ―」
圭佑「分かったよ―」

 ちっと舌打ちして、スマホを置き、ダッシュで風呂に入る。
 猛スピードで服を脱ぐ圭佑。

 場面は碧の部屋に戻る。

 シンプルな下着姿の碧。

 そのまま開いた押し入れの扉から服を取り出す。
 手慣れた手付きで着用する。

 再びゴソゴソと衣擦れの音。
 着衣が終わると、そこに立っているのは、アニメのコスプレ衣装に身を包んだ碧である。
 次いでドレッサーの前でテキパキとメイクを進める。
 まずウィッグネットを被り、髪の毛を頭の上で纏める。
 手慣れた手付きで化粧をしていく。
 下地を全体に塗る。正面の鏡を見ながらファンデーションで肌の色や陰影をキャラのそれに近づける。
 ハイライトで立体感を出す。
 眉を整える。
 アイメイクを施して目をパッチリさせる。
 化粧が完了後、ウィッグを装着。

 するとそこにいるのは、黒髪の真面目少女から一転、金髪のロングヘアーのアニメキャラのような女の子。

 一通り鏡で自分の顔を見渡して全体の仕上がりを確認すると、
碧「よしっと」

 ベッドに寝っ転がると、自撮り棒で固定したスマートフォンを操作。
 スマートフォンのカメラに向かってポーズを撮る。
 仰向けで枕をギュッと抱きしめた可愛らしいポーズ。

碧「(3,2,1……今っ)」

 スマートフォンのカメラのカシャッと言う音。
 早速撮れ高を確認する碧。

碧「うん、上手く撮れてる」

 その後もポーズを変えたり、撮影する向きを変えたりして、更に撮影を進めていくシーンが描かれる。

 撮影が完了する。

 勉強机でスマホをチェックする碧。
 先程撮った一連の写真が画面内に展開される

碧「これ、かな」

 選んだのは、最初に撮れた会心の一枚。
 これだけでも十分に可愛い自撮り写真だ。
 ただし、まだヒロイン園崎碧の面影が残っている。

碧「じゃあ早速」

 スマホの画面をタップする。アプリの起動画面が表示される。
 と同時に、碧の語りが始まる。冒頭の語りの再現。

「女の子は相手に綺麗に見られるためなら、どんな努力だって惜しまない
そして人々が見るその姿こそが、その人の本当の姿と言えるのだ。

 そう、『こう見られて欲しい』という姿を、私たちは作り出す」

 起動したのはペイントツール。

 先程の画像を開くと、慣れた手付きで指で『加工』を施していく。

 眉毛を一本一本線を追加してラインを整えていく。
 髪の毛も同様に盛っていく。
 瞳もキラキラと加工。
 肌の凹凸を取ってツルツルに。
 顔の輪郭も、可能な限り編集していく。
 シュッとした顎のラインも削って、丸みを帯びたものに。

碧「できた」

 作業を完了すると、そこに写っているのは、圭佑がぞっこんだった『ミラベル』の姿だった。

 碧は「Xwitter」を起動すると、アカウントをチェンジ。
 そこに現れたのは、やはり『ミラベル』のアカウントだ。
 早速画像を投稿する。

メッセージ「ギュッとして」

 投稿を機に回想が始まる。

■碧の回想


 学校の教室。会話無しでイメージで展開する。
 いつものように3人で駄弁っている圭佑。
 それを陰気そうな表情で眺める碧。
 3人の差し出したスマホの画面に映るのは、何かのゲーム。
 どうやらそのゲームについて語っているらしい。

 何かを熱く語る圭佑。頭の上にゲームに登場する女性キャラのイメージが現れる。
 どうやら圭佑はそのキャラが好きらしい。

 家に帰った碧は、決心して通販サイトでコスプレ衣装を購入する。
 数日後衣装が届くと、早速着替え、圭佑が好きだと言っていたキャラになりきって自撮り。
 まだこの頃はそこまでコスプレもこなれていない。

 通話アプリで早速自分のコスプレ画像を見せてやろうかと思った碧。しかしここで逡巡。想像するのは、意に反して自分のコスプレ姿を圭佑にからかわれるところ。

 想像にむっとなった碧は、しばし考え込むと「Xwitter」を起動して、架空の人物のアカウント「ミラベル」を作り出すのだった。

 初投稿に早速先程の自撮り画像を載せようとする碧。その前にしばし考えこむ。
 個人特定される自分の顔をそのまま載せるのはNGだ。(SNS講座的なイラストが図示される)

 ふと思い立つと、加工アプリを起動。顔をうんと編集して画像を上書きするのだ。
 その上でXwitterに投稿。

メッセージ「初投稿です」
 作品名やキャラクターのタグも添えるのも忘れない。

 顔を変えたとは言え自撮りアップなんて大それたことに、「やってしまったー」とベッドでジタバタする碧。

 しばらく経って恐る恐るXwitterをチェックする。

 初投稿にも関わらず、ちらほら「いいね」が付き始めている。
 「いいね」してくれる人の顔ぶれに圭佑がいないかチェック。もちろんいる訳無い。

 しかも自分の投稿のすぐ上は、有名コスプレイヤーによる同キャラのコスプレ写真。
 「いいね」の数も圧倒的だ。

 「何やってるんだろう」と自嘲的な表情をして、作ったばかりのアカウントをデリートしようとする碧。
 そんな時新たに「ピコン」と通知が。

 確認するとそれは僥倖にも、圭佑のアカウント(アイコンが圭佑の間抜けな自撮り)だったのだ。

 翌朝、また三馬鹿で集まって会話。l
 圭佑の頭の上の吹き出しの中に、「ミラベル」の顔。
 どうやら早速その子のことが気になっているようだ。
 それを盗み聞きしていた碧、微笑む。

 それから水を得た魚のように自撮りをアップしてく碧。無論「ミラベル」の加工は欠かさない。
 そして毎日「ミラベル」の投稿を待ちわびては、新たに投稿されるたび、その写真に「いいね」を付ける圭佑。
 ミラベル専用の「通知音」まで設定する有様。

 碧が自撮りを始めたきっかけの説明を終え、回想が終了。

碧「あいつが好きなのがあの顔だったのだとしても、私はそれで構わない。
だってその顔だって、私がつくった見せたい自分自身なのだから。だからそれを好きでいてくるなら、私だって嬉しい」

 パジャマ姿になった碧、ベッドに横になり就寝。

 一方圭佑の部屋。通知音がなった途端即反応。
スマホを構えて狂乱。
圭佑「うおおおおおぉぉぉ! きたあああああぁぁぁぁ」
「待ってたよミラベルちゅわああああん!」

 何も知らぬ圭佑。
 自分の枕をギュッとしてゴロゴロ転がりまわる。

■持ち物検査


 翌朝。
 体育館。朝礼で整列する生徒たち。
 圭佑や碧も自分のクラスの列に並んでいる。

 碧は少し眠そうな様子。
碧「(いけない。あの後着替えとメイク落としをしたら、だいぶ遅くなっちゃったから)」
 気を入れ直してシャキッとした顔つきをつくる。

 前のほうが何やら騒々しい。

 教諭がマイクで話す。
教諭「あー、今から荷物検査を行います」

生徒A「えー」
生徒B「聞いてないし」

 生徒たちの抗議を取り合わず、荷物検査が進められていく。
 列に並んだ生徒たちの制服のポケットなどを、あらためて行く教師陣。

 その中にやけに張り切って女子の荷物をあらためる女性教師がいる。
 相手がさも犯罪者予備軍かのような態度で、ねちっこく検査する。
 小うるさいヒステリックそうな外見。

 小声で
吾郎「あー、やっぱりあの先生だ」
大介「中林の奴、また性懲りもなく」

吾郎「あの先生にちょっとでも違反してるものが見つかったら最後」
大介「ああ、ネチネチと時間いっぱい嫌味を聞き続ける羽目になる」

吾郎「『生徒のため』とかいって、その癖気の弱い女子ばかり標的にして」
大介「この前なんか、制服の丈がどうとかで絡み続けて」
吾郎「とうとう泣き出しちゃった子もいたね……」

 2人の話を聞いている圭佑は、飄々とした態度。

 荷物検査の順番はどんどん進んでいく。

 圭佑たちのクラスの女子の荷物を検査するのは、ちょうど話に出た中林だ。

 碧、制服のポケットの中に手を入れハッとする。
 校則違反の色つきリップ。

碧「あの時……」

 昨日の夕方を思い返す。帰りにアニメショップでコスプレ用のリップを買って、制服姿のまま試しに塗ってみた後、ポケットに入れてそのままにしていたのだ。

 そうこうしている間にも、荷物検査の順番は近づいていく。

 女子生徒に「襟が崩れている」だの「ハンカチの柄が派手すぎる」だの粗を見つけて、ねちっこく詰る中林。

生徒「(ハンカチはどうだって良いだろ……)」
生徒「(校則関係ないじゃん)」

中林「これは駄目だって生徒手帳に書いてあるでしょ。良く読みなさい」

 順番が近づくにつれ、碧、表情をキツくする。
 ポケットに入れたリップを強く握りしめている。しかしどうすることもできない。

 あくびをする圭佑、一瞬そちらを見やる。

(生徒を軽侮した態度で)
中林「はい、あなたはOK」

 中林が次の碧の方に向かおうとした時、

スマホ音声「プリプリ~~!!」

 その場の一同、一斉に音のした方を向く。

 そこには「あっ」と言いたげな顔をした圭佑。

スマホ音声「プリティ・プリンセス♪」

圭佑「いけねっ」

 中林、青筋を立ててツカツカと圭佑に歩み寄る。

 「あちゃー」となってる友人たち。

中林「今のは何ですか!」

 ポリポリと頭をかいて
圭佑「えっと、スマホのゲームが起動してたみたいで」
中林「ポケットから出しなさい!」

 圭佑、言われた通りスマートフォンをポケットから取り出す。
 画面にはゲームタイトルが表示されている。

中林「何をやってるんですか、あなたは」

 説教が延々と続く。それを飄々とした態度で聞く圭佑。

 中林のねちっこいなぶり
「ふざけてるの」、「聞いてるんですか」、「そういう態度こそがこれからの人生において――」

 圭佑に助け舟を出されたことで、しばし茫然となっている碧。

 と、ここでぽつりと、しかし毅然とした態度で、圭佑が口を開く。

圭佑「で俺、何か悪いことしたんですか」
中林「あ」(青筋を立てて)
圭佑「確かに集会の最中に空気読まず馬鹿な音声流しちゃったことは申し訳ないと思ってます。謝ります」
 ぺこり。自分から頭を下げる。

 周囲の生徒たちを見渡して
圭佑「でもそもそも俺、何の校則にも違反してませんよね? スマートフォンの持ち込みだってちゃんと許可されているはずです」

気の荒い生徒「そうだー!」
お調子者の生徒「ちゃんと生徒手帳読んでくださ―い」

圭佑「さっき言った通り音に関しては、中林先生に叱られてもしょうがないと思います

 息を吸って
圭佑「でもだからといって、操作を誤ってしまっただけの生徒を、この様に全校生徒の注目を浴びて見せしめのように叱責することが、適切な生徒指導と言えるでしょうか?」

 全校生徒の前で逆に詰問され
中林「ぬぬぬぬぬ……」

吾郎「中林先生何も言い返せないや」
大介「普段弱い女子ばっか狙ってるからな。男子にああやって毅然とされると、脆いんだ」

 と、ここで鐘がなる

担任「中林先生。授業がありますのでこの辺で」

 圭佑の方を仕方ないなという感じで、優しく見る担任。
 圭佑が「わざと」スマートフォンに手を伸ばし、音声を再生したことを気づいている様子。
 気炎を上げて
中林「今日の荷物検査はこれまでですが、また後日行うのでそのつもりで」

生徒「はぁ」、「何だよ」
 教室に戻る生徒たち。
 圭佑も何事もなかったかのように平然とした体で、友人たちと共に戻る。

碧「……」
 圭佑に助けられた碧、しばしその場に立ち何かを思う。

■語り合う2人

 クラブ活動に勤しむ生徒たちで賑わう放課後。

大介「じゃあな帰宅部」(部活用の巾着持って)
吾郎「僕は委員会があるんで」←生徒会書紀
圭佑「うーっす」

 2人と別れ、鞄を持って廊下を歩く圭佑。
 背後から声。

碧「ちょっと」
圭佑「ん」
振り返る。

 碧が立っている。
圭佑「なんだ。お前か」(帰るの?)
碧「私はこれから手芸部。それより、今朝は……ありがとう」

圭佑「どうってことないよ」(俺もあの教師にちょっとムッとしてたし)「どうせやらしいものでも持ち歩いてたんだろ」
碧「あんたじゃないわよ!」

いつの間にか2人して歩いている。
碧「って何でこっち来んのよ」
圭佑「方向一緒だし」

 碧渋い顔をして
碧「というかあんたはあんたでさ。助けるにしてもこう、やり方はなかったわけ。何よ『プリプリ』って」
圭佑「しょうがないだろ。とっさにアレしか思いつかなかった」
碧「もう、みんなの笑い者じゃない」

 今も今朝の圭佑の「武勇伝」を知り、周囲でクスクス・にやにやする生徒がちらほらいる。

 それらの生徒を無視しつつ、ちらりと圭佑を横目に伺って。
碧「そんなに良いの?そのゲーム」
圭佑「ああ、まぁ正直今は惰性だけどな」(ソシャゲの宿命)「でもな。俺の心のオアシスミラベルちゃんの見せてくれた剣聖ユイナのサマーバージョンコスチューム。アレを見ちゃったらもう一生ついていきますわって感じ」(だからゲームも続けてる)

 露出が高めのコスプレ衣装を纏ったミラベルのイメージ図。
 碧にとっても挑戦だったコスプレでもある。

碧「何よ。そんなにその子が良いのよ」
振り向いて立ち止まり。
碧「じゃあさ。突然そのミラベルって子が、あんたの目の前に現れたらどうする?」

 怪訝な顔
圭佑「はぁ、何だよその状況?」
碧「だって気になるじゃない。あんたがどういう反応するかとか」
 「あんたののろける様子を見て笑ってやりたいのよ」

 ポリポリと頭をかいて。
圭佑「まぁ本当に眼の前に現れたりしたら」
間を置いて
圭佑「幻想が壊れて、少しがっかりしちゃうだろうな」

碧「何で!」
圭佑「何でってなんでお前がそんなにムキになってるんだよ」
碧「そりゃそうでしょ。いつもアレだけ推しておいて、その言いぐさは何よ」

圭佑「そりゃさぁ」間を置いて「だって……あれ盛ってるじゃん」

ムキになった表情から一転唖然とした顔になって
碧「は」

圭佑「そりゃさ。俺だってお子様じゃないし、女子が写真をあげる前は、『多少の』加工なりを施すことは承知しておりますし。当然ミラベルちゃんだって自撮りをあげる際は、それなりの加工を施すと思うんだ。俺だってそれくらい理解しているさ」

碧「…………」

 こっから加速して
圭佑「もっとも天使のようなミラベルちゃんのことだから、現実世界?ていうのかスッピンのままでも十分可愛いんだろうなって言うのは十分察せられるさ。たださ。やっぱりネットの画像と現実のギャップってどうしても存在するわけであって、初対面の時に微妙な反応見せちゃったらさ。例え今後良好な関係を築けたとしても、その時のシコリは永遠に残って取り消せないわけでしょ。だから俺はあくまでもネットを通しての関係に留めたい。一生ネットの中での推しを貫いて行きたいと思うし、そうやって距離を置く態度がやっぱりジェントルマンとして相応しい態度というか――」

 ペラペラ喋る圭佑。それを聞く間どんどん怒りゲージを溜めていく碧。

碧「…………###」
 とうとう爆発

碧「このデリカシーなし!」
圭佑「いでぇ」

 一発ビンタ。

 ヒリヒリ痛む頬を抑える圭佑。
圭佑「って何でお前に」

碧、怒りの表情のままズカズカと立ち去る。

 その日の晩の自撮り。

碧「んんんん……」
頬を赤らめて逡巡した末、投稿。

 画像はストックしていた「剣聖ユイナ」のサマーバージョンの写真。
 「ありがとう」というメッセージと共に、コスプレ衣装の襟元や水着のボレロの裾がまくれてやや際どい格好。

圭佑「ひゃっほおおお!ぉぉぉ」
 何も知らずはしゃいでいる男。

■編入生梓<ミラベル>登場


 明くる日

 朝の教室。
 担任が後ろに女子を伴って教室に入ってくる。

担任「おはよう。早速だが今日はうちのクラスに新しくやって来た生徒を紹介するよ」

 編入生、黒板の前でピシッとした佇まい。まだ顔は隠れている。

担任「北條梓さんだ。家庭の事情で1ヶ月皆と合流するのが遅れてしまったが、これからみんなで仲良くしてあげて欲しい」

 クラスから「おー」と感嘆の声。
 皆会話中の影の薄い担任の方よりも、彼女の外見に注目している。
 中には可愛さに見惚れているのか、頬を染めている男子(女子も)いる。
 その様子が、北條梓の背中側から描かれる。

 しかし主人公、佐々圭佑は表情を驚愕に染めていた。
 そして園崎碧も、表情にこそ出さないものの、動揺し通しであった

 ここで北條梓の顔が現れる。

 笑顔で
北條梓「初めまして」

 彼女の顔は、碧が『盛って』作り出した、「ミラベル」の顔と瓜二つだったのだ。
(続く)

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