「半分は君の顔」 第2話


■邂逅


 前回の引きから。
 教壇に立つ梓。驚愕の表情で固まっている圭佑と碧。

 そんな2人に構わず朝礼は進んでいく。
担任「それじゃあ自己紹介をしてもらおうか」

 梓アップ。皆に笑顔を振りまく。それだけで見惚れてしまっている男子生徒も。

 梓は1度後ろを向き、黒板に自らの名前を書く。

「北條梓」

 チョークを握るしなやかな指。
 制服のミニのスカートから伸びる脚。
 再び振り返った時に揺らめく髪。

 写真で見るだけだった「ミラベル」が、眼の前で動く彼女に、釘付けになる圭佑。

梓「北條梓です。えっと親の転勤の都合で1ヶ月遅れての編入になってしまいましたが、今日から皆さんと一緒のクラスで学園生活を過ごすことになりました。これからよろしくお願いします」

 ペコリ。丁寧にお辞儀。

 教室、拍手。

担任「ありがとう、北條さん」

 早速声をかける一同
女子「どこから来たんですかー?」
男子「Rine登録してる―?」(グループ入ろう)

担任「今は時間がないんでそういった話は後でみんなでやってくれな」

担任「席は用意してあるんで、あそこでいいかな」
梓「はい」

 席に向かう間、両サイドから質問責めにあう北條。

お調子者の女子(中根)「きれいな髪ー。シャンプー何使ってる?」
スポーツマンの女子(三村)「部活はどう? うちにこない?」

「シャンプーですか?」
「部活って何があるか今度教えてください」

 質問を適当にあしらいながら、自分の席まで進む梓。

 ふと鞄の紐を引っ掛けてしまう。

梓「あ……」

梓、よろめいて前方に倒れそうになる。

圭佑「とっ」

 自席の圭佑、とっさに腕を伸ばす。
 圭佑の伸ばした腕に梓が倒れ込む。

そ の時、弾みでふぁさっと広がる、流れるような美しい髪。
 驚きでパッチリと見開かれた眼。
 可愛さが限界突破。

 圭佑思わず呟く

「ミラベル!?」

 梓はその言葉を聞き、つと動揺した態度。

「……!!」

 しばらく腕の中で静止。

圭佑「……」
梓「……」

三村「っていつまで触ってるのよ!」
中根「自分たちの世界に入んなし」

 圭佑、その言葉に自分がずっと梓の身体を抱いていたことに気づく。
 梓もそのことに気づき、パッと身を起こす。
 双方顔が赤い。

大介「圭佑くーん! 転校初日に何アプローチかけてるのー」
吾郎「圭佑ってば積極的すぎ」
笑うクラスメイト

梓「そ、その助けてくれてありがとう」(照れ)
圭佑「い、いえどういたしまして」

 そそくさと自席につく梓。着席後は澄ました風情。

 彼女を目で追わずにいられない圭佑のことを、複雑な表情で見つめる碧。

■授業

 本日の授業が進められる。
 そこで、梓の学校生活が描かれる。

 黒板に板書後
老教師「では、ここを……北條さん」

 (キリッとした態度で)
梓「はい、それは――」

老教師「正解だ」
クラスメイト「おおーー」

男子「今日から授業受けてるのに、ついていけるの凄いな」

老教師「じゃあ、次は」
碧「はい」

 起立して回答する。

吾郎「碧さん。なんか対抗してない?」
大介「クラス委員として良いとこ見せたいんじゃね」

 体育の時間。
 体育館で男子と女子に分かれ、それぞれバレーボールをしている。
 体操服の女子で華やぐ様子。

大介「ああ、いいなぁ……女子の体育」
吾郎「って雨が降って体育館を半分こなんだけどね」(狭いし)
大介「雨だから良いんだろ。こう蒸れる体操服から薄っすら透ける肌っちゅーのが」
吾郎「おっさんみたいなこと言っちゃって」
大介「なぁ圭佑。って圭佑」

 呼ばれた圭佑。ボンヤリした様子。

大介「ん? あの編入生がそんなに気になる?」

 体操服に身を包んだ梓の、華奢な肢体が映し出される。圭佑は友人の質問にもボンヤリしたまま。

 視線の先女子の方では2チームに分かれバレーボールの試合。碧と梓は別のチーム。碧のチームメイトがサーブの体勢。

女子A「いくよー」

女子B「来なさい!」
女子C「いつでもどうぞー!」

 梓の方を見て
中根「って梓ちん、腰がヒケてるけど大丈夫」
梓「だ、大丈夫です」

中根「(そうは言ってもなー)」

 中根先ほどのことを思い返す。準備運動の最中、屈伸をしようとして後ろにひっくり返ってしまい、体操服のお尻をもろ見せ状態になってしまった梓。

中根「(まぁ転校生ちゃん運動苦手そうなのはさっきのでみんな知ってるし、気使ってあげるっしょ)」

 中根の言う通り、ルーズボールを代わりに拾う女子や、梓の方に打ち込まないよう配慮する様子が描かれる。

 梓とは対照的に、俊敏な動作を見せるのが碧。

 空中で身体をくの字に反らし、そのまま反動で華麗にアタックを決める。
 ボールは梓とクラスメイトの間に鋭く決まる。

梓「あわっっ」
ちっとも反応できない梓。

三村「OKOK、今のはしょうがないー」
中根「(って容赦ないし―)」少し崩れたギャグ顔

女子「ナイス―」
 体操服の裾で汗を拭っているところを、チームメイトに囲まれて祝福される碧。

 隣のエリアで女子の様子を伺っていた男子3人。
大介「うわー、あいつ転校生相手に本気出してるよ。てかあんなスポーツできたんだ」
吾郎「碧さんって中学の頃はバレー部と手芸部の掛け持ちみたいだったよ(文武両道……)」
圭佑「にしては碧のやつ、いつもより張り切ってやんの」

大介「逆に編入生の方は――」
吾郎「運動の方は駄目みたいだね」

 すってーんと転ぶ。

 その光景を見て「おお」などと声を漏らす大介と吾郎、それに圭佑。

 梓から視点を外し、真剣な表情の碧の横顔を見ていた圭佑だが……

男子「っていったぞー!」
横顔にボールが直撃する圭佑であった。

■保健室の梓と圭佑

 保健室の天井。

圭佑「う、うーん」

 意識を取り戻す。寝ていたのは保健室のベッドらしい。

?「あ、気づいた?」

 耳元に聞こえる女子の声に、眼を見開いてパッと頭を起こそうとする。

むにっ
 圭佑の頭に柔らかい感触。

 口元アップして
梓「やんっ」

 甘い声に驚いて慌てて振り向くと、そこには梓の顔。
 そして、ついさっきまで、頭を彼女の膝の上に乗せていた事に気がつく。

 その女子――梓は自身もベッドに乗り、圭佑の頭を膝枕していたのだ。

圭佑「ちょ、ちょっと北條さん!?」

梓「ふふ、私も体調が優れないって言って抜け出してきてしまいました」
(周囲の女子に体調不良をアピールするところイメージ)

 ぱっと離れる圭佑。
 ベッドで正座する圭佑。
 一方反対側には、ベタンと座る梓。

圭佑「だからって何故こんな」
梓「何故ってそんなこと」

 微笑んで。
梓「そう、私がミラベルだから」

(作者注:もちろん詐称。梓は自分とそっくりなミラベルの存在を、ネットで見て知っていた。かつ圭佑が彼女を応援していたことも同様に知っている。)

 圭佑モノローグ
「今眼の前に、ミラベルちゃんがいる――」

梓「ずっと応援してくれたでしょ。私のこと」
圭佑「え、ええ。それはまぁ」

梓「嬉しい。最初は弱小だった私が活動も続けてこれたのも、あなたがいてくれたからよ」
圭佑「そこまで言ってもらえると、照れちゃうなぁ。あはは……」

梓「だったら少しくらい、お礼をしたっていいじゃない」

圭佑「お礼」の言葉に何も言えず固唾を飲むだけ。

梓「そう、例えば――」

 前のめりになってもう片方の手を圭佑に差し伸ばし女豹のポーズ。
 体操服の胸元が空いてその向こうが見えそうに――
 そのまま圭佑の身体にしなだれかかるように――

 その直前、圭佑突然発奮。
圭佑「解釈がちがーーーう!」
梓「え」

 両腕で梓の両肩を抑えて制止する圭佑。そのまま捲し立てる。

圭佑「ああ、ミラベルちゃん。突然こんなこと言ってごめんね。でもこれだけは言いたい。俺の中の、俺がずっと見てきたミラベルちゃんはね。決してこんな安っぽいことをする子じゃないんだーーー!」

 圭佑の演説に合わせて、過去の投稿写真で見せていた、凛々しい表情をするミラベルのイメージが投影される。

 更に続ける。
圭佑「仮にそういうつもりでご褒美くれたのなら俺も嬉しいけど、ああ違くて! そもそも俺もミラベルちゃんのことはずっと触れずに見守っている後方腕組みファンでいたいし。だから今日のことは忘れますんでどうかコレっきりにしておいてください。お願いします」
 猛烈な勢いで連続土下座。

 捲し立てる圭佑にしばし呆気にとられていた梓だが。

梓「ふふ」

 圭佑が恐る恐る目を開くと、梓はもう元の体勢に戻っている。

梓「冗談よ」
圭佑「へ」
梓「常識で考えてよ。いきなりこんなところでそんなことすると思う?」(何想像してたの?)

 きょとんとした顔をして
圭佑「そ、そうですよね……」

梓「ああ、でも嬉しいな」
圭佑「え」
梓「私のファンの子が、こんな純粋な気持ちで私を見てくれたってこと」(おっさんからのDMとか、まじキモいんだよ―)

梓「だから、今日のことはお互いなかったことで」

 外から声。

碧「圭佑ー、いるのー?」

圭佑「な、なんだよ。碧」

 カーテンの隙間から、顔だけひょっこり出す。

碧「何って呼びに来たのよ――体育で気絶する馬鹿とか始めて見たわ」

圭佑「悪いか」
碧「もう次の授業始まるわよ」

 一連のやり取りをする圭佑の身体はプルプルしている。
 梓の身体を無理やり乗り越えて、カーテンの外に顔を出す体勢になっているのだ。
 その状態で梓に接触するわけにはいかないので、踏ん張っている。

圭佑「ちょっと待っててくれ」
頭を引っ込める。

 こっそりと
梓「私に構わず先に」
圭佑「おう」

 ベッドから出て保健室を飛び出す圭佑。

残った碧、カーテンのしまったままのベッドの方を眺め、意味深な表情。

碧「……」

■宣戦布告?


 放課後帰宅の準備をする梓。
 机の中に、見覚えのない用紙が入っている。

梓「?」

 取り出してみると、そこに印刷されているのは、ミラベルのXwitterアカウント画面。
 本人にしか表示できないものだ。

梓「ふ、ふふふ……」

 「面白いことになった」と笑みを見せる梓。

<続く>

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