右手と旅する男 第3話「首」
【3話概要】
「(強者に)喰われたい」という自身の願望を語る戦闘狂ホムラ
王国の工作員とホムラが戦闘。ホムラが圧倒的な武威を見せ、工作員たちは惨死
ナルセの夢を介して、「娘」の死という復讐の理由の一端が開示される
囚われていた旅人は、単独行動を取っていた工作員の少女に救出されるが、このとき鎖を外そうとした少女が、旅人の「右腕」の異常に気がつく
戦闘後物足りないと詠嘆するホムラの前で、打ち捨てられていた鞄が突如開封。中から「首」が飛び出してホムラの喉笛を喰らった
ストーリー
0.【潜入】
政党本部。格子の途切れた場所から1人潜入を試みる人影。前話の軍服少女、エリカである
短めの回想
エリカ:え、「掌握」ですか
隊長:既にそう言いましたが
エリカ:しかし、【怪異】化した旧兵器は例外なく「回収」の後、「封印」と決まっていた筈では
隊長:かような超兵器は、我が国の管理下に置いて初めて安寧がもたらされるのです
(以下対話も兼ねた世界観説明・スペース次第で説明内容を調整)
エリカ:しかし、かつて【怪異】の力を背景に周辺国家への侵略を始めた帝国は、緒戦は破竹の勢いだったものの、やがて王国を始めとする連合国によって征伐されました
隊長:ええ。そうですね
エリカ:斯様な行為は一部門の増長と諸外国からの不審を招き、やがては帝国と同じ轍を踏みかねません
隊長:(ギロリと睨んで)貴公は我が王国があの帝国と並ぶ凡愚とでも
エリカ:はっ。そんなことはありません
(回想を終えて)
エリカ:はは、結局アレが原因で隊長の不興を招いたせいか、こうして1人単独偵察を言い渡され。出世の道は消え失せた……(涙)
トボトボと建物の裏手に進んでいく
1.【願望】
時は捕縛された旅人が連行された直後
一息つく間もなく、ホムラの元に新たな報告が飛び込んでくる
部下A:ほ、ホムラさん
ホムラ:あ、なにぃ
部下A:そ、それが
部下、侵入した工作員によって既に本部正面が制圧済みなこと。「党首の面会と、【怪異】の明渡し」を要求されていることを報告する
部下B:(気弱な表情で)や、やっぱり。無理だったんだ
ホムラ:(部下Bに顔を近づけて)あぁ、なんか言ったか?
部下B:正規軍を相手にすることになるなんて……
周囲に動揺が広がる
ナレーション:所詮金に飽かせて私兵として集めたのは、十把一絡げのゴロツキたちだ。騒擾や扇動の手駒に使うには十分だが、本気になった正規兵の武力の前では物の数にならない
※ナレーションの正体は【右手と旅する男】と、ラストで開示される
部下B:くそ、ラクして金になる仕事だって聞いていたのに、うわっ
ぐわっ
突如部下Bの顔に食らいつくホムラ
「ぎゃああぁぁ」と顔を抑え床を転がり回る部下B。何事かと狼狽する周囲
「ぺっ」と口から何かを吐き出すホムラ
床に落ちたそれは、部下Bの半分食いちぎられた鼻であった
ホムラ:負傷で離脱する奴が1人出た
ホムラ:他に離脱する奴はいないか。今のうちに言っておけ
一同無言。全員防備につくことに
ナレーション:容易く扇動され、打たれれば黙る烏合の衆
廊下を歩むホムラ。隣の部下に語る
ホムラ:俺はなぁ……。喰われたいんだよ
部下A:は、はぁ
ホムラ:戦って戦って戦い抜いて、いつか俺より強い奴が現れて。そいつに為す術もなく蹂躙され尽くして取って喰らわれる。そんな時を待ちわびているんだ
なぁ。どこにいるんだそんな奴。教えてくれないか
部下A、何も返せず無言
壁に映るシルエットが暴力的なものと化したホムラ
ナレーション:そんな中にも稀に、ただ1人の存在で戦況を変えてしまう「個」と言うものが存在する
2.【対決】
政党本部広間に集う5人の工作員たち
隊長:刻限だ
階段を登ろうとする5人。階上にホムラが立ちはだかる
両肩に金砕棒の様な獲物をぶら下げている
隊長:党首殿のご来訪……の様には見受けられませんね
ホムラ:ナルセさんは娘さんと睦んでいる最中なんでなぁ。貴重な休暇に水を差すなんて無粋だろう
ホムラ:(背後に控える部下たちに)俺1人で十分だ
隊長:大した戯言を吐くな
ホムラ:(舐めるように)ならかかってこいよ
戦闘開始
隊員の1人が左手のブレスレットから長剣を形成。階段を駆け登ってホムラに斬りかかる
それを一歩下がっただけで躱すホムラ。躱したと思った瞬間、横に女隊員が現れ、武器を振るう
最初の攻撃は陽動だった
ホムラ:おっと
女隊員の攻撃も難なく躱す。次に無造作に金砕棒を振るうと、
隊員:!
意識の消えた下段から、本命の攻撃を仕掛けようと思っていた3人目の存在
振るわれた金砕棒が3人目を直撃。隊員は階段下まで吹っ飛ばされる
女隊員:馬鹿な。必殺の三位一体の攻撃が
1人やられて動揺する隊員たち
隊長のみ冷静なまま
隊長:党の私兵にしては腕の立つ者がいるようだな
今度は老齢の副長歩み出る
居合の構え、
副長:やああああああぁぁぁぁぁ
ホムラが金砕棒を振るうと、斬りかかった副長は、自分が上と下に分かれて壁に張り付いた
副長の最期にホムラを睨みつけて
隊長:その強さ、かつて一騎当千の戦闘民族と謳われた「隼人」とも引けを取らないな
左腕のブレスレットを誇示してホムラに宣言
隊長:本気で行くぞ
3【ナルセの夢】
最初に登場した時と同じ椅子でうたた寝をするナルセ
こうして見ると怪異の行使で消耗して、だいぶ頬がコケている
夢の中の回想。以下のシーンが無台詞で展開される
白衣を着たグループに所属するナルセ。(記念写真風に研究者たちが並んでいる絵図)
研究熱心なナルセは、企業で鋼業の研究に従事する
それを促進する役員や資本家たち
パイプからコンクリートの河川に垂れ流される廃液。下流の地域の住民たちの間で公害病発症。搬送される人々
療養所で原因不明の病気に苦しむ発症者たちと見舞いの家族たち。発症者にはナルセの娘もいた
住民から告発されるも、企業は金の力で事態を隠蔽。それに協力する役人・政治家たち
ナルセも告発に加わるが、研究一辺倒で不器量なこともあり上手く立ち回れず、被害者たちからも不審視され爪弾きに
自分のしでかしたことと、娘を守れない不甲斐なさに悲嘆するナルセ
「力」があればと絶望するナルセの頭上に「光」が舞い降りる
人気のない崖で力を振るうと、天から飛来した「柱」が、眼下の大地を砕いた。得た力の重さにゴクリと喉を鳴らすところで夢が終了
夢の外。現実の肉体においては、リゼが椅子にかけるナルセに馬乗りになっていた
リゼ:助けて。お願い、私を助けて
ナルセの耳に口をあて囁く。幼い、しかし蠱惑的で邪悪な笑み
当初の「復讐」から、「娘」の「自分」への協力をするよう、心理的誘導を施すリゼ
その姿を背景に、手前に卓上の写真立て。写真立ての本物のナルセの娘の姿が開示される。柔らかい金髪で、白髪のリゼとは似ても似つかない
4.【決着】
場面が戻ると戦闘は既に決着寸前
死屍累々となった隊員たち
満身創痍といった姿の隊長
そして依然階上で余裕綽々のホムラ
ホムラ:どうした終わりかい
もはや勝負は決し、万事休すとなった隊長。ちらりと自分たちの入って来た入り口を見るも、すぐに前を向き直り
隊長:我が王国に敗北の二文字はない! 永遠の繁栄は己が信仰によって成就せりぃぃ!
左腕に魔力を籠め
隊長:りゃあああああああぁぁぁぁぁ!!
狂信的な、破れかぶれの突撃
ホムラヤレヤレと首を振るう
交錯
ホムラが無造作に突き出した太い前脚が、しかし的確に隊長の顔面を捉える。粉砕
隊長は物言わぬ肉塊と化して倒れ伏す
ホムラ:命は大切にすることだね
あらためてヤレヤレといった風情
ナレーション:原始時代の英雄。一騎当千の驍将。蛮勇誇りし豪傑
5.【救出】
尋問部屋兼牢獄らしき場所に繋がれた旅人
何者かが部屋に侵入する
旅人:……!
エリカ:しっ、騒がないで
エリカ:貴方のことは大体分かっています。(これでも工作員なんで)今助けるんでじっとしててください
旅人、表情でお前こそ誰だ、と
エリカ:私? ……今日の晩ごはんの稼ぎにも悩む、しがない労働階級ですよ
(明日からどうしよう)と大げさに涙リアクション
「答えになってない」と冷ややかな旅人
エリカは一転真面目な顔つきになり
エリカ:正義って国や立場で人それぞれって言うのかも知れません。だけども、こんなこと(拘束された旅人)が間違っているのは分かります。だからこそ、何が正しいのかを自分で確かめたいんです
エリカは左腕の鎖の拘束を解除。次いで右腕の拘束を解除しようとしてはたと止まる
初めから右腕は拘束がされていない。一体どうした訳か確かめると、掴んだ右腕のコートの肘から先の膨らみが無かったのである
6.【首】
戦闘を終え、最初の部屋に戻ってきたホムラが独りごちる
ホムラ:ああ、物足りねぇ
この時ホムラを見ている視点は、部屋に打ち捨てられていた「鞄」からの定点である。
今は閉じていることを示すため、コマ上下に黒い帯
ホムラ:何を喰って(屠って)も物足りねぇ。何を飲んでも乾き(滾り)が癒えねぇ
ホムラ:(天を仰ぎ)なぁ俺の乾きを。空腹を。満たして(喰らって)くれる奴はいねぇのか!?
ナレーション:よろしい、然らばお前を供犠に足る贄と認めよう
鞄の口が開かれる。コマ上下の黒い帯無くなる
僅かな物音に鞄の方、すなわち正面を向くホムラ。同時に、鞄から飛び出す一塊の物体
飛び出した物体は、ホムラの首筋に食いつく
喉に手を当て引き離そうと抵抗するも、もんどり打って後ろに倒れるホムラ
倒れる間際、ホムラは自分を「倒した」存在を認識する
長く伸びた髪の毛。鋭い歯。野性的な目
それは男の生首
ホムラ:ああ、これが……
最後に【念願】が叶ったことを悟り、満足気に目を閉じるホムラ
「材料、妄執に囚われた男の肉体(壮健であると尚良し)」
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