「AIが紡ぐ未来」本編

0.冒頭

 PCのデスクトップに文字列が表示されている

「AI、理想の人類の統治方法を教えて」

 入力した文字が奥に倒れる
 文字自体に厚みができ、奥に、下に伸びて行く

 90度倒れた時、文字はビルディングのシルエットと化す
 シルエットだったビルに現実感が付与される。詳細な街並みが映し出されたところでシーンチェンジ

1.AIを使う少女

 大学の食堂
 テーブルを占拠し、トレーを横にどけてノートパソコンに向かう主人公のアイ
 親友のツムギがやって来る

ツムギ:お待たせ。席取りありがと
アイ:(適当な感じに)うん、どぞー
ツムギ:って、またやってる

 ツムギ、パソコンの画面を覗き込む

 黒塗り画面に白抜きの文字入力欄
 英字でキャラ名やポーズなど、無数の単語が羅列されている
 画面横には、イラストが並んでいる

ツムギ:AIが画像作ってくれるやつだっけ。まだやってるんだ
アイ:大体理想通りの顔つきにはなったんだけどね。ただ思うようなポーズを取らせようとすると、これがまた難しいんだ

(吹き出し外でやりとり)
ツムギ:あんたの好きなソシャゲのキャラだっけ
アイ:そう、ユキきゅん

ツムギ:て言うかそれお金かかるんでしょ
アイ:ローカルに環境を構築したからさ。無料で画像作り放題だよ
ツムギ:ジャンキーか

 ツムギ呆れた感じで
ツムギ:こんな機械生成の絵の何があんたを夢中にさせるんだが

アイ:うーん。自分じゃ絵は描けないんだけどね。頭の中のイメージをAIが代替して描いてくれるのが楽しいかなぁ……。
たまに、素っ頓狂な絵が飛び出してくることもあるけど、それはそれで意外性があって面白みがあるんだ

 AIの創ったとんでも画像を挿入
ツムギ:そうなんだ

アイ:大体AIイラストって、今は色んな子がやってるんだよ

 アイ、ホームページを開く。投稿されたショート動画が並んでいる
 自分の写真をAIで変換して、胸の大きさなど生成結果にツッコミを入れるものなど

アイ:ほらこんな感じで遊んでる

 少女が自撮り画像を「AI編集」する姿や、コスプレイヤーが自分の写真がアニメ調になって喜ぶ様子を描く

アイ:私達だってこの通り
 2人で撮った写真を、フォルダからドロップする

ツムギ:ああ、それこの前旅行で撮った写真!
アイ:にしし……

 アイがマウスをクリックすると、画面が4つに分かれる。
 元の写真が左上に設置され、残りのスペースに、「萌え」風に加工された2人の画像が表示される

ツムギ:もう!
 頬を膨らませる

アイ:それに今は画像じゃなくて何だってAIが創ってくれるんだよ
ツムギ:知ってる。小説とかも書いてくれるんでしょ
 (耽美な文章が並ぶ情景)何故か頬を赤らめるツムギ
アイ:例えばこんな感じにさ

 アイ、「徳川家康について教えて」と打ち込む

 文章が表示される
「1543年岡崎城に産まれた徳川家康は、幼少期織田家の人質となり――」といった文言が羅列される

アイ:知りたいことを何でも尋ねると、AIが調べてまとめてくれるんだ

 「フーリエ変換」「リーマン積分」「ハンザ同盟」など様々な用語が並ぶ空間に、白衣姿のアイが得意げな表情で浮いている情景
 (ツムギツッコミ「意味理解してるんだか」)

アイ:AIを活用すればレポートだって思いのままだよ

ツムギ:大体それってどこかのサイトのコピーなんじゃないの
アイ:もちろんそこは上手くやってさ

(「適当に文言を変えて」など指示を出す様子)

ツムギ:とAIを『活用』していたアイでしたが……

2.教授に叱責されるアイ

 ゼミの教授の部屋。丸椅子に座るアイとツムギ
 部屋の壁に「AI党」のポスター

アイ:どうしたんだろう。急に呼び出しって
ツムギの方を向いて
アイ:ツムギは来なくてよいのに
ツムギ:あんたが心配だからよ
アイ:もう

 教授登場
教授:急な呼び出し悪いですね。何で呼ばれたか分かりますか
 アイ、首を振る
教授:どうやら本当に分かってないみたいですね。(はぁ)この前のレポートの件なのですが
 そう言ってA4レポート紙を卓上に置く
 タイトルは「ルネッサンス時代の芸術家について」

アイ:あ、私の書いたレポート
教授:ここです
 指さした箇所をハイライト
 そこにはこう記されている
「この時代に活躍した音楽家として、ミラノ出身のジェバンニ・ゴンドワが挙げられる。東ローマの古典勃興運動に端を発したジェバンニの――」などと、適当な文言が続いている

 「これが何か」といった表情のアイに対して
教授:そもそもジェバンニなんて音楽家は存在しません
アイ:え(驚き)
教授:一体どの様な経緯で内容を記したのですか
アイ:その、実は……
 AIを使ってレポートを作成したことを白状

教授:そんなことだろうと思いました

教授:ちゃんと裏取りをせずに、AIの記した内容をそのままレポートに転載した訳ですね
教授:AIが語る内容が100%正しいと過信するのはやめなさい
教授:今回は不問にしますが、次回は単位の没収です

 退室した2人
アイ:はぁ。やっと解放された
ツムギ:これに懲りたらAIは控えることね

ツムギ:という忠告も虚しく、アイは懲りずにAIにますますのめり込んでいくのでした

3.異常を訴えるアイ

アイ:むー

 講義後、アイが大講堂で難しい顔をしてノートパソコンに向かい合う

ツムギ:どうしたのよ。そんな顔をして
アイ:最近さ、変なのよ
ツムギ:変って何が
アイ:見てよコレ

 アイが画面を見せる。そこにはAIによる「おすすめ映画」が羅列されている

ツムギ:何が変だかさっぱり
アイ:いやさ。以前はこう、マイナーだけど深みのある。見終わった後も一晩考えさせられるような濃厚な作品がおすすめに挙がったのに、今はただグロさを前面に出したような軽薄な作品ばかりおすすめされるのよ
ツムギ:何でそんな違いが分かるのよ
アイ:過去のAIの回答も全部HDDに記録しているからね
ツムギ:やっぱりあんたジャンキーよ。て言うか結局単純にあんたの趣味と違うってだけじゃないの(呆)

 アイ、憮然とした顔つきで
アイ:何も映画だけがおかしい訳じゃないよ

 アイが次の画面を表示する。
 そこにはやはりAIのまとめた「近年話題の思想家」の一覧

 過去に挙げられたのは、「腐敗する国家」や「権力の監視」といったことを訴える厳つい顔をした人物たち
 一方最近のものは、「自己責任」といった文言を推すインフルエンサー
 ライフハックや自己啓発的な主張をする、若い配信者が並んでいる
 いずれもAI党支持を表明している

アイ:ね、何かおかしいと思わない?
ツムギ:いや、何が違うんだかさっぱり
アイ:このままAIに従っていたら、人類は上から言われたことに従うだけの権力主義に屈し、横並びの軽薄な存在と化してしまう!

 騒ぐ2人をまた「面白いことやってる」と取り巻く群衆
 教授もやって来る

教授:おやおや、またやってるみたいですね
教授:アイさんの訴える件ですが、なに簡単な理屈ですよ
教授:インフルエンサーと言われる人はとりわけネットの使い方に長けているわけですから、「検索」で自分の名前が目立つようにするようなことは簡単でしょう。映画だってマニア向けの作品より、大衆向けの作品のほうがより目立つでしょう
教授:つまりネット上のトレンドがAIの学習内容に反映される以上、ネットの趨勢が(アイさんの言う)「軽薄」だったり、「権力迎合」的なものになっていけば……
教授:AIの回答も自然そういった傾向になっていくという訳です

 教授の説明に、しかしまだ納得いかないといった表情のアイ

4.抵抗

 ツムギがアイに知らない場所に連れて来られる
 そこは人々が集う集会場
 リーダーらしき人物が演説している

リーダー:今この世界に途轍も無い不自由さを感じていないだろうか。息苦しさを覚えないだろうか
リーダー:「右へ倣え」の流行然り。画一化されたネットの世界然り
リーダー:それもこれもAI党の進出以降、世論誘導で人間を衆愚化する計画が罷り通っているのだ

 AI党の躍進する様子を描いた映像を映す

リーダー:最近の政府の出す政策の尽くが場当たり的で右往左往していると思わないか? あれもAIが国民の忍耐力を試す試験をしているのだと、諸君らは知っているか!`
アイ:へー、そうだったんだぁ
リーダー:作られた風潮。作られた答え。もう沢山だ!
リーダー:奴等の支配から脱却し、我々は自由な世界を取り戻す

 一同拍手。得意げなリーダー
 反体制派を名乗るリーダーだが、どこか権力志向的な印象を抱かせる
 感心するアイに対し、ツムギは彼を見て良い印象を抱けない

リーダー:やぁ同士。我らは新たな仲間を歓迎するよ
ツムギ:は、はぁ

 「反体制派」が実際にやっている活動は

カタカタカタ……

 PCに向かい合って黙々とレスバトル

「反AI連合とか、世の技術の進歩について行けないだけの老害」
(匿名掲示板での煽りあいの如き、くだらない文言が垂れ流されている)

 これには呆れるツムギ

 街中でデモをするグループだが、周囲の反応は冷ややか

 熱心に活動するアイ
垂れ幕「AIの自由を取り戻す!」
 恥ずかしげなツムギ

メンバー:AI党支持者の奴等だ!
 挑発する対立団体のメンバー
 挑発に乗ったリーダー、応戦。相手を殴る

デモを誘導する警官:やめないか!

 制止を振り切って揉み合う両者
 振り払った時に警官が倒れ、腰の拳銃がこぼれる
 拳銃の奪い合いと、それを制止する警官。拳銃が暴発する

5.終末

 世の流れがダイジェストで展開される
「警官殉職に国民の怒りの声」
「発砲許可令」
「AI党与党に参画」
「賢人委員会発足」(教授や評論家たちの顔も混じっている)
「国民保護法制定」
「与野党一致で可決」

「反体制派の一斉取締りを開始」

 整列して検挙を開始する警官たち
 次々と連行されるメンバー。抵抗する者は撃たれて倒れていく
 アイも流れ弾を受ける

 ツムギに手を引かれ逃げるアイだが、力尽きてその場に崩れる

アイ:はぁ。もう駄目
ツムギ:(腰を落として)諦めないで
アイ:ツムギは早く逃げてよ
ツムギ:あんたを置いて逃げられないわよ

 アイ観念してため息を吐く
アイ:あーあ、あたしって馬鹿だなぁ。幸せに生きたいなら、ただAIの導く結果に従って世の中の流れに身を任せて、要領よく生きれば良かっただけなのに
ツムギ:何を今更。あんたが馬鹿ならそれに付いてく私は超大馬鹿よ

アイ:結局私はただ自由でありたかったんだ。大昔の人間が自由な空に羽ばたきたくて翼を求めたように、私はAIに自由な世界を夢見ただけ
アイ:だからそのAIの世界が汚されるのが許せなかった。そしてこんなことして。本当不器用よ私

 割り切った表情で
アイ:今度生まれてきたらAIも翼もいらない。ただ馬鹿みたいに口を開けて、世の流れに身を任せて笑って生きて行くんだ
ツムギ:あんたがそれで幸せなら、私も付いていくよ
アイ:でも私。本当にそんな風に生きられるかなぁ(自嘲)

 2人、倒れたまま笑顔で手をつなぐ。そして動かなくなる

6.真実

 2人が動きを止めた後、全てが静止する
 視界が上空へ動き、同時に周囲のビルが3Dモデルと変じる
 冒頭とは逆にビル群が手前へと倒れていき、モザイク模様をなす
 それは次のような文字列と化す

 「理想の人類の統治方法は、AIによる思想誘導です。反発する者たちは所詮些細な変化にも耐えられない繊細な人間たちなので、適当に煽って暴発させ汚名を着せ、体制による強権発動の口実とすると良いでしょう」

 画面に映った文字列を、口を開けて退屈そうに見る青年

友人:何やってるんだよ
青年:いや。最近流行ってるAIってやつを試してみたくてさ

 画面を見る友人。「あちゃー」っといった表情

友人:あれだろ。AIがバグって「ファシズムは最高の統治方法です」とか言い出すやつ。だからAIって胡散くせー
青年:いけね。サークルの時間だ

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 背後には同じ様にPCに向かい合いAIイラストを生成する同級生
「女戦士、敗北、倒れる」などの用語で出来上がった画像は、アイとツムギが倒れる姿に似通っている

友人:何だっけ。「俺たちがもう1つの世界を創れるなら。この俺たちのいる世界も誰かに創られた世界の可能性が高い」とか言い出した人
青年:はぁ。どうでも良いし(それこそAIに聞けよ)

 奥へと消え去る

 2人が消えたあとメッセージ

 「あるいはこの世界もまた」

【幕】

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