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6. 片耳の聴覚を失うと世界が違って見えた (難聴発症5日目)

今日も右耳からは何も聞こえない。
入院中は1日寝て過ごすことが治療になる。
唯一ごはんの時だけは起き上がって食べる。
ぼんやりとご飯を食べながら、ぼんやりと病室の窓から外を歩く人たちを眺めた。おしゃべりしながら歩いている大学生らしき人たち。携帯で話しながら速足であるくスーツの人。

心底うらやましい。

数日前までは聞こえていることが普通だと思って生きていた。普通のことすら思ってなかった。聞こえることについて意識もしてなかった。
片耳の機能を無くして、耳の凄さに気づいた。
耳は超スーパー緻密で繊細な造形が施されている。いつ壊れても不思議ではない。蝸牛を損傷したのはショックだけども「なんで壊れた?」というよりあんな乱暴な耳抜きしたら「そりゃ壊れるな」という方が納得できる。聴力が回復できる人の割合は3割程度らしい。このデータは誤差がそれなり含まれいるから本当はもっと多いかも知れないし、逆に少ないのかもしれない。

ある人が片耳の聴力を失って「世界の音が半分消えた」と表現していたが、私にとっては5割消えたなんてもんじゃない。7割5分は超えていると思う。

どこかで音が鳴っても距離感はつかめない。音が上下左右どこで発生しているのか、自分から遠いのか近いのか、全てあいまいにしかわからない。

両耳が聞こえることで音が3Dで捉えられていたのだと気づく。右耳が聞こえないことで、全ての音が自分の左側にあると脳が錯覚してしまう。ベッドの右側に物が落ちても、まずは左側を探してしまう。

頭を触る感覚も変わった。頭皮の右半分は局部麻酔でも打たれたような鈍い違和感がある。髪を洗っている時に気づいたが、頭を掻く音とか、シャワーのお湯が頭にあたる振動音が右耳には全く聞こえない。頭皮を触っている感覚が鈍く感じる。

片耳が聞こえないことで、孤独感が不定期にザブーンと波打つ。

今日もひたすらじっと横になって過ごす。
担当の先生が「あくびもくしゃみも、なんとかこらえて。今は我慢、我慢…。」
入院中、内耳の圧が上がる行動は原則禁。
禁というか我慢。

入院のカバンにルービックキューブを入れてきた。数年前に買ってから一度も解けたことがない。友人が「アルゴリズムに従えばできる。ネットを見れば誰でもできる」と言っていたけども、でも自分で考えて解きたい。キューブをひたすら回す。

ルービックキューブを持ってきて良かった。今はあれこれ考え過ぎても仕方がない。あまり考えないようにひたすらキューブを回して過ごす。ぼけっとしてると恐怖と孤独の波がザブーンとやってきて溺れてそうになる。

投薬内容
点滴: 水溶性プレドニン50mg+ソリタT1(200ml)
内服薬:
カルナクリン錠
メチコバール
ムコスタ
キプレス
ネキシウムカプセル
アデホスコーワ
マグミット
アレロック



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