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ひよこ

子供の頃の話。

母の実家は農家だ。
家屋は藁葺屋根で、縁側の下はに鶏小屋になっていた。

今はもう見なくなったが、子供の頃お祭りの縁日にはピンクや水色をしたひよこが売られていて、私はお小遣いで緑色のひよこを買った。
わかってはいたが、母に怒られた。
母曰く、縁日で売られているひよこは弱くて長生きしない。選別もされていて雄ばかりで卵も生まないから田舎にもっていっても、食べられてしまうだけ。
極めつけは、可愛いのは最初だけ。
あっという間に大きくなって凶暴になるよ。
(母は子供の頃、鶏に何かされたんじゃろか…?)
そんな母を無視して私はひよこをピキと名づけ、可愛がった。

本当に可愛かった。
そして母の言った通り、ひよこの可愛い時はあっという間に過ぎていった。

ピキは立派な鶏冠をもった、大きな鶏に育った。
見た目の可愛さは失われても、愛しさはかわらない。
だが、その頃私たちは県営団地に住んでいて、早朝のコケコッコーは近所迷惑だった。
間もなくピキは母の実家に連行された。

食べられたらどうしようと心配したが、祖父母は他の鶏と一緒に飼ってくれた。
祖父母がもう少し若かった頃は鶏も生活の糧で、卵を生まなくなった雌や、繁殖に使えなくなった雄は食用にしてたようだが、今は残った鶏を育てているだけになっていた。
ピキは他の鶏と争うことなく無事に仲間入りすることができた。

祖父母の家は前は山と畑、右は公道へでる私道が長く続く。背後は竹藪でその先は田んぼ、左の小道も田んぼで竹藪の先の田んぼに続いてる。
鳴き放題、叫び放題だ。
ここでならピキはきっと幸せに暮らせる。
そう思った。

その後、老いた鶏は冬を越せずに去り、残ったのは雌鶏二羽とピキの三羽となった。
数が少なくなったので鶏は縁側の下から、牛舎がある場所の小さな鶏小屋に移されていた。

ある日の深夜。庭先に繋がれていた犬があまりに吠えるため、不審に思った祖父は外に出てみて、すぐ異変に気がついた。
だが遅かった。

鶏小屋に行くと、祖父に気づいたイタチの姿は既になく、そこには食い散らかされた雌鶏の死骸が一羽、瀕死の雌鶏が一羽、そして、バタバタと鶏小屋の中を駆け回るピキがいた。

ピキは独りぼっちになってしまった。胸が痛んだが、早朝に甲高い声を出すピキを集合住宅に連れ帰ることはできなかった。

翌年ピキも死んだ。
朝、祖母が餌をやりに行くとピキの軀は既に冷たくなっていた。
蛇に襲われたそうだ。
以前、イタチが掘った穴は塞いだらしいが、新たに穴が掘られていてそこから蛇が侵入したのだろう。
だがその蛇にとって、丸呑みするにはピキは大きすぎた。
途中で諦めピキを吐き出し、退散したようだと祖父母は教えてくれた。
蛇は獲物を頭から呑み込むため吐き出されはしたものの、ピキは窒息してしまった。

昨今、お祭りの露店で色様々なひよこは見かけない。虐待とか色々問題視されることもあるのだろう。大きくなったときの鳴き声とかね。

ひよこ可愛かった。
大きくなってもピキは可愛かった。
田舎で、仲間と一緒にいつまでも元気に暮らしてほしかった。


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