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家⑪




娘が滝行に行ったあと、数回ほど霊能者に会って相談をした。

ある夜、霊能者に家に来てもらった時のこと。
主人と霊能者の会話を聞いている時だった。
身体が石のようにずっしりと重くなっていくのを感じた。どうしていいかわからず、でも何か悪い現象なら霊能者がいるから大丈夫だと思ってそのままにした。
話が終わって霊能者が帰ると同時に身体が軽くなった。
色々考えたけど、結局私と霊能者の相性はあまりよくないのね。そう思うことにした。

それからしばらくして、A子ママと霊能者、そして私が紹介した人の間で、金銭トラブルがおきてしまった。

我が家の怪異のことを知った主人側の親戚から、自分達も霊障に悩んでいるので霊能者を紹介してほしいと頼まれたため、A子のママの口添えで霊能者を紹介した。
その人が払ったお礼がかなり高額だったらしい。
その霊能者は欲をだしてはいけないと自分を律しながらこの仕事をしてた。他に自営業を営んでいたので、生活は何とかなっていたんだと思う。
それでも高額な謝礼を前に理性を失ってしまったということなのだろうか。
その謝礼の取り分のことで口論となり、霊能者とA子ママは疎遠となった。

霊能者とA子ママ、そして元凶となった知り合い…。それぞれ話が微妙に違うので、真実はわからない。
でも、何となく感じる。
背後に狐の存在。





霊能者とA子ママの関係が悪化していく中で、我が家も霊能者と距離をおくようになった。
関係悪化の原因となった知り合いは主人の親戚だったこともあり、A子ママとも疎遠になった。というより避けられるようになった。それでも変わらずA子は我が家にご飯を食べにきていた。今回の事でA子と娘の関係にまでヒビが入ったら申し訳ないと思ったが心配はなさそうだ。

A子ママが現在霊現象に悩んでいるかどうかはわからない。だが、A子ママは新たに霊能者を探して相談にのってもらってるようだった。
A子ママと疎遠になる前に、その新しい霊能者からいってみるといいよと言われた寺院に行って、◯◯御上人に家で起こっている事を相談した。

今までの経緯を詳しく話す。

一通り話し終えると、御上人は考え込んで、
「これは恐らく水の障りだと思います」
そう言った。

1時間半ほど相談にのってもらった後、二階にあがった。

よくわからないのだが、そこの寺院は、時々同じ宗派の僧侶が何人か手伝いにきて、訪れてきた人々の悩み事を聴き、それが解決するようにお経(真言なのかな?よくわからない。でも信仰宗教ではなく、由緒正しい寺院です)を唱えるということを定期的にしているようだった。
二階にあがると、タオルと温かく大きな丸い瀬戸物を渡された。それを頭に乗せたり抱えたりして、経がはじまった。

私は最初、どれくらいで終わるんじゃろか…? 最後まで我慢して聴けるじゃろか…? そんなことを考えた。
でも心配はいらなかった。程なくして私の意識は遠のいた。遠のいていったことさえ気がつかなかったし、どういう状態だったのか今でもよくわからない。

気がつくと目の前に砂利が見えていた。気がつくと…というと少し違うのだが、ほかに説明ができない。あとで思い出すとそんな感じだった。

砂利が見えて、底から清水が渾々と湧き出ていた。
湧き出る清水に上から葉っぱがはらはらと舞い落ちていく。
その光景を何を思うまでもなく、無心にただ見つめていた。
ふと、葉っぱの葉脈が透けて見え、その葉脈が赤くて、
「あ、赤いなあ」
そう感じた瞬間、私は現実に引き戻されてしまった。
経を唱える力強い声が、振動となって身体を震わせる。
今、寝てた…?
私は自分でも呆れかえってしまった。こんな、経が空気を震わせ身体にジンジンと伝わってくるような状況で、寝てしまうなんて。せめて、身体がぐらついて倒れたりしなくてよかったと胸をなでおろした。

私は先程の夢の光景を思った。
とても静かな夢だった。本当のことを言うと夢とは思えなかった。
あんな、音のない静かな世界は私は初めてだった。

後日、御上人にこの話をした。すると御上人は
「それは水神ですね」
と言った。
私は、いわゆる龍神を視たわけではない。でも水神と言われて妙に納得してしまった。
私の想像力では生み出せない静謐な世界。でも、赤い葉脈を見て自分の意思がでてきたら消えてしまった。
儚い世界でもあった。

葉脈が赤かったことに対し御上人は、水神なので赤はあまりよくないと言った。
私がそれを視たときの印象を話すと、
「ああ、それなら大丈夫だと思います」
そう話した。

一度、家を見てもらう約束をし、この日は終わった。

※この話は2019年12月15日・2020年1月2日にblogで公開したものを再編集しています。一部を怖話サイトに投稿しています。

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