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嫁姑③




母の死がずっと心に引っかかっていた。もしかしたら母は祖母に連れて行かれたのではないか? 
そんな思いが棘のように心に突き刺さっていた。もしかしたら次は私かもしれないという不安もあった。
祖母は私のことも嫌いだったから。
でも私は今も生きている。

母が亡くなって数年後、母方の祖父が死んだ。母が胃癌になるよりも前に肺癌を宣告され、手術を勧められたが、
「今更手術とか、はあ ええわ」
と言って手術を拒否した祖父は、その後も元気に生きて、元気にあの世に旅立った。
楽しいといったら不謹慎かもしれないが、私の時もこんなふうだったらいいなと思うような通夜だった。
みんなが祖父の思い出を語り、大爆笑しり泣いたりと、とてもにぎやかだった。

告別式が終わって一息ついたあと、祖母がポツリと言った。
「○○子(母の名前)がお父さん(祖父)を迎えに来とった」
祖母は暗い表情で続ける。
「泣いとった…ずっと泣いとった。死ぬいうんは辛いことなんじゃのう」
私は何も言えなかった。

時は流れて祖母も亡くなり、一生結婚はしないと決めていた私も結婚した。

二度と帰らないと思っていた実家には、結婚して20年間で6回ほど帰省した。
母が癌になったことで父と連絡を取り合うようになり、また、闘病中の母を支える父を見て私の中で父に対する気持ちが変わった。
父自身も変わったんだと思う。
姑に責められる自分を守ってくれなかった父を嫌いだと、離婚しないのは子供のためと言っていた母が、横浜に治療に来た時、父にもたれているのを見て、やっぱり二人は夫婦なんだなと思った。
母は父を嫌いだと言っていたが、きっと胸の内には違う気持ちもあったんだろう。人の心は言葉で示していることだけが全てじゃない。
そんなふうに思うようになった。

母が死んでからもたまにだけど、父と連絡を取り続けてる。母の闘病がなかったら、私と父の関係は改善されなかったと思う。
結婚生活の中で、父の言葉に救われたこともあった。
父に感謝してる。

母の話に戻る。
数年前に知り合いから霊能者を紹介され、家でおこる怪異を相談した時に前から気になっていた母の、蛇の夢のことを尋ねた。
霊能者は私の話を一通り聞くと、次に私の背後に視線を向け、確認をとるようにうなづいたりしながら話しだした。
「お母さん可哀想ですね。泣いてますよ。これ可哀想だ。どうしようかな…」
霊能者が話してくれた内容は以下の通り。
祖母はとても気の強い人。
母の死は祖母の影響によるものが大きいと思われる。無関係とは言えないだろう。(ここはオブラートに包んだ言い方だった)
祖母は母のことでどうしても許せないことがあるが、(霊能者に)それを今話す気はない。
今の状態は一つの部屋に気の合わない二人が一緒にいるのと同じで、気の弱い母はずっと泣いている。同じ墓に入っている者の中で、一族の中でも群を抜いて気の強い祖母を、たしなめる者はいない。
と、こんな感じだ。これを聞いて母方の祖母が言っていた、泣いとるというのはそういう事だったのかと納得した。
(この世でもあの世でも、人のすることは変わらないね)
お墓を別にしたほうがいい。仏壇も別がいい。と言われた。

今、父は弟家族と同居しており、遠慮もあって、お墓や仏壇のことはお願いできない。一応父には話したが、やっぱり無理だと言われた。そもそもこの話を信じているのかも怪しい。まあ普通はそうだろう。
だけど、それでも父に約束してもらった。
母が生きている時には出来なかったこと。

死んでお墓に入ったら、母を守ってあげて。

電話の向こうで沈黙のあと、
「おう」
短い、だけど力強い返事を聞いた。

※この話は2019年8月にブログにあげたものを再編集しています。また、怖話サイトにも①~③をひとつにまとめて投稿しています。

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