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家⑯




2018年4月

娘が北陸の専門学校に進学した。

娘には霊感がある。
幼い頃からその兆しはあった。でもそういったものは誰にでも、大なり小なり備わっているものだと思っているから、娘はほんの少しだけ他の人より強いのかもしれない。
それくらいにしか思っていなかった。
いや違う。前にも書いたと思うけど、娘の気のせい、勘違い。そう思いたい気持ちが強くて信じようとしていなかった。
でも色んなことがあって、娘はこの家の怪異に影響を受けやすいのかもしれないと不安に思うようになった。
1人にすることも心配だったけれど、ここにいるよりはマシに違いない。
そう信じで送り出した。

金沢での一人暮らし。
小さな怪異はあったようだ。
アルバイトの帰り、誰もいないのに後ろから聞こえてくる足音。
バイト先からアパートまではそれほど距離はなく、道も単純で、迷う要素なんて見当たらない。
それなのに迷い、気がつくと神社の前にいたこと二回。
家のことを相談している御上人に話すと、
「狐かなあ? その神社、稲荷と関係ないですか?」
そう尋ねられた。その神社に稲荷は祀られていない。
人を迷わすのは動物の類いが多いそうだが、そうでなければその神社が望まれない形で祀られている可能性があると言われた。

私たちにはどうしようもないことなので、取り敢えず、次に金沢に行ったときに娘と一緒にその神社にご挨拶にお参りさせてもらった。

迷って気がついたら墓場にいたとかいうこともあった。
バイトが終わるのが夜遅いので本当に心配だった。

部屋でも娘しかいないのに音がしたり、何かの気配がしたりと、我が家とあまり変わらない現象があったようだった。

私は休みが取れたら車で金沢まで行くようになった。
高速を使うと6〜7時間で行けるが、私は高速が嫌い。
下の道をゆっくり12〜14時間かけてゆっくり行くのが好きだった。

大体、箱根の峠を越えて河口湖を通って甲州街道を走る。諏訪大社を通って安房峠に向かって走る。この峠の前に道の駅風穴の里がある。ここはいつもトイレ休憩に利用させてらもらっているが、時間によっては仮眠をとることもあった。
でも一度、愛犬と金沢に向かう途中、深夜に怖い思いをしたので、それからはトイレ休憩にしか立ち寄らない。
(詳しくは『道の駅』に記載しているので、ここでは省く)
道の駅をでて2回ほど安房峠を走ったけど、深夜はめちゃくちゃ怖いのでそのあとは昼間でも縦貫道を走ることにした。
縦貫道を過ぎると福地温泉郷に入る。ここはとても素晴らしくて、家族とも何回か宿泊した。温泉も食事も人も、本当に素敵。
そのあと富山に入り金沢へ向かう。
12〜14時間走ると思うと疲れそうだが、道のりは結構楽しかった。

私はずっと自分は怖がりだと思っていた。
でも、深夜に民家のない山道を走る自分は意外と怖がりではないのかもしれない。
安房峠を夜中の1時に走った時は別の意味で怖かったけど。



関東にある自宅と金沢を行き来するようになったある日のこと。
仕事のある夫をおいて愛犬と夏休みの息子を連れて金沢に行った時のこと。

FaceTimeで夫と話しているとき、夫の背後のキッチンの天井から、白く光る滴のようなものが落ちてきた。
あれっ?と思いジッと見ると、また同じものが落ちた。
子供達を呼んで一緒に画面をみたが、そのあと何かが天井から落ちてくることはなかった。




2019年某日 金沢にて
夜。娘と2人、自宅にいる夫とFaceTimeで会話している時のこと。息子は塾で不在。

iPadの画面には夫の上半身が写っていた。
会話中、夫の胸元辺りを画面の右から左に丸いモノが移動した。

今のは何?

私はハッとして食い入るように画面を覗き込んだ。
少しして今度は夫の中央よりの左胸から飛び出るように丸いモノがでてきた。
娘も気がついていて、私たちは手を握り合っていた。

オーヴだ。

よく見ると夫の周りを幾つものオーヴが行き交っている。
何よこれ…?

夫にも今見えているモノのことを話した。

「虫とか埃じゃない?」
夫はそう答えたが、自分の周りに虫なんかいないことは夫が一番よくわかってるはずだ。
動きだって埃のそれとは違う。
話が家の怪異になり、夫が引っ越しを口にした途端、画面の中の夫の姿がグニャリと歪んだ。

注意しながら会話を続けると、夫が引っ越しの話をする時だけ、映像が乱れたり夫の顔色が蒼く変色した。
それを見ながら私は、引っ越しは出来ないかもしれない。
そう思った。

数日後、自宅に帰ったあとiPadを持って、一番でそうな部屋へ向かった。

二階の東の部屋。
私は娘の部屋の机の前に立ち、iPadを反転させて画面の中の自分を見た。
しばらくすると白くて小さな丸いモノが、画面に現れた。
私の身体の前を横切り背後に周り、消え、現れる。
私のお腹の辺りから飛び出るように現れるモノもあった。
これはオーヴなのか?
でもそれらが確認できるのは画面の中だけだ。
実際には私の周りにはいない。見えない。

その後、別の日に同じことをしてみたけれど、オーヴのようなモノは見えなかった。

2019年11月某日。
娘が我が家に帰ってきた。

金沢でトリミングの学校に入学したのだが、アレルギーと手荒れで、夢は呆気なくやぶれてしまったようだった。

また4人の生活が始まった。

※これは2020年5月にblogにあげたものを再編集しています。

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