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家⑫




我が家がある住宅地は今から50年くらい前に、山を切り拓いてできた住宅地だ。

我が家はその住宅地の中にあった、企業の社宅の跡地を分割して新築された10棟のうちの1棟だった。

この家を購入してから15年ほど経つ。その間、色々な怪異があり霊能者にもみてもらったが、解決には至っていない。

土地に原因があるのかもしれないと、過去に事件があったか調べてはみたが、何もでてこなかった。

今から3〜4年くらい前(2017年頃)の話。

あるお寺の御上人に相談する機会に恵まれ、その際に話の中で、時々水が臭うという話をした。

我が家は引っ越してきた当初から、時々水が臭っていた。だが調べても何の異常もでないし、それを怪異と関連づけたことはなかった。

だが御上人は少し考えて、近くに川か池がないかと尋ねてきた。もちろん川はない。だが過去に川や池があったかもしれない。

この話は前回投稿したときの寺院での話の内容で、御上人が我が家にくる日までに、私たちは過去に川か池があったかどうか調べてみた。

結果、昔この近辺に川は流れていた。だが住宅地として開拓されるときに埋め立てられてしまったようだ。

その川は我が家を含めた10棟に平行して流れていて途中でカーブしていたようだった。そこまではわかったが、その川と家が建つ土地が重なっていたかとうかまではわからなかった。(川はあった。だがその位置が正確にわかったわけではない。家のある処に川があったのか、家の前の道路が川だったのかわからなかった)

某日、夕刻。御上人が我が家に来た。

「やっぱり水の障りだと思いますよ」

開口一番、御上人は言った。

御上人は今朝からずっと胃が痛かったそうだ。

御上人曰く、水の障りに関わるときは必ず胃がキリキリと痛むそうだ。

私は近辺に以前、川があったことを伝えた。

御上人は少し考えてから言った。

「できることなら引っ越した方がいい」

それからひとつの提案をして帰った。

引っ越した方がいい。

できることならそうしたい。でも家にはまだローンが残っている。家を売却したとしてもローンは残るだろう。

そして我が家には愛犬がいる。ペット可の賃貸は少なく、あっても賃料は高い。

ローンを抱えた状態で新たに家を購入することも、賃貸することも不安だった私たちは、退居することを躊躇してしまった。

私たち家族は考えた末、御上人の提案を受け入れることにした。

提案、それはこの地を住処とし護っていた水神を祀ること。(御上人はこれを「ゴヘイカンジョウ」と言っていた)

正直な処、提案を受け入れることには躊躇いがあった。

私は無神論者ではない。でも宗教色の強いものは恐ろしく感じてしまうのだ。

ただ、御上人の御寺は宗派は違うのかもしれないが、私の実家や主人の家のお墓が入っている御寺と変わらない、ごく普通の御寺だ。なので御上人の提案を受け入れ、この家に住んでいる間、水神を祀ることとなった。

とは言っても、神棚を用意したわけではない。

後日、御上人から、横5cm 高さ15cm ほどの大きさの形代をいただいた。

形代は人が集まる場所に置くように言われたので、居間に置くことにした。

その形代に水道のお水を供えて毎日交換するように言われた。

水を捨てる場所は、私たちの場合は北側。理由は隣の土地にあり、そこに霊が集まる場所があるからだった。

神社などで理由もなく火事があったときは、祀り方に問題があると、以前御上人からきいたことがあった私はその不安を御上人に話した。

「これで大丈夫ですよ」

と言われた。

形代を居間に祀った翌日の夜。

日付けが変わって他の家族が寝たあと就寝した。

布団に入ってすぐに眠れなかった私は、ふと眼を開けた。そしてすぐに違和感に気づいた。

眼がおかしい。

和室には窓が二つあって、南側の、庭に出入りできる窓はシャッターが閉まっていたが、東側の小さな窓にはシャッターはなく、電気を消していても真っ暗にはならない。ましてや和室は常夜灯をつけていた。

なのに、室内は真っ暗だった。だがおかしいのはそこではなく、とにかく眼がおかしいのだった。

うまく説明できない。まるで自分の眼ではない感じだった。

しばらくすると暗闇が動いている感じがした。違和感のある眼でみていると、目の前の空間に蛇のような龍のような、そんな生き物が現れた。

それはもつれた長い身体をよじらせながら、空間いっぱいに広がっていった。

私は動くことができず、息を潜めてその姿を見ていた。

やがてそれは消えていった。同時に疲れ果てた私は意識を失うように眠りについた。

朝になって私は昨夜のことを夫に話そうかどうか迷った。何となく恥ずかしい気がした。何故だろう…?

多分、前回 お寺で清水が湧き出てそこに葉っぱが落ちるのを見た時に、からかわれたからだと思う。

また、勘違いオバさんと言われるのが嫌だったんだと思った。

でも結局、翌日夫に話した。

「実はね…」

夫は以外にも真剣に聞いていた。そして私が話し終えると、夫も話し始めた。

「実は俺もさ…」

私が水神(龍)をみた時、夫にも異変があったらしい。

夫は二階の西側の部屋で寝ているのだが、深夜3時頃トイレに起きた夫は階下から水の音がしたそうだ。

ちょうど、洞窟とかの閉鎖された空間で、水がいっぱいに満たされた処に水滴がぽしゃぁんと落ちるような音がしたらしい。まるで一階が水の中に沈んでいるような感じがしたとのことだった。

御上人に話すと形代を置いた影響だと言われた。

龍は幸運の生き物で、見た者に幸運をもたらすという。

けれど勘違いしてはいけない。私が見たものは水の神すなわち龍神であるかもしれないが、私に幸運をもたらすものでは決してない。

遥か昔よりこの地を護り続けてきたのに、あとからきた人間に、挨拶もなく住処を奪われた恨みは計り知れない。知らなかったとはいえ、今そこに住んでいる私たちにも責任の一端はあるのかもしれない。

あの夜、私は現れた龍神の顔を見ていない。

それに意味はあるのかないのか…。

だけど、多分向こうは私を見てる。

昏い闇の水辺から。

※この話は2020年9月22日にblogで公開したものを再編集したもので、内容は2017年頃の話です。怖話サイトでも公開しています。

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