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漫文駅伝特別編『矢文帖』第11回「フライデーナイトライブと私」如吹 矢ー

むかしむかしあるところにオフィス北野という事務所がありまして、フライデーナイトライブという催しをやっていたそうな。

このライブは西新宿にある関交協ハーモニックホールにて奇数月の第二金曜日に開催されていた。私はこのフライデーナイトライブに、前に組んでいたコンビで2014年11月14日に初めて出演した。

ネット検索で「北野 フライデー」と打ち込んでみるとなぜか「襲撃事件」というキーワードが出るのだが、それに関連してかフライデーナイトライブのロゴマークには傘と消化器のシルエットが交差したものが使用されていた。

暴走族上がりのヤンキーがプロボクサーになり、その勇姿を見ようと駆けつけたヤンキー仲間でいっぱいの後楽園ホールの客席くらい物騒なロゴマークである。

大阪から東京に出てきて数ヶ月経った頃に、このフライデーナイトライブに出演するためのネタ見せがあることを知り、受けることにした。
出演募集の要項には「オフィス北野っぽくない芸人」と記載があって、これまでとは何かを変えようという意思が感じられた。

ネタ見せは状況によって変動はあったが主に所属の芸人のやくみつゆさん、米粒写経さん、ホロッコさん、マキタスポーツさん、そしてマネージャーが見ていた。

正面にネタを見る皆さんがいて、そこに向かってネタをする。待機する芸人はネタを披露している演者の背後にずらっと座るという独特の配置で行われていた。

ネタ見せは和やかではあるけど独特の緊張感があり、私も日本初のミドル級の世界チャンピオンになった竹原慎二氏が試合開始直前にリング上で相手を鋭い眼光で睨みつけて対峙する時くらいの緊張感で順番を待っていた。

ライブに出演できる組数は限られているので、ネタ見せを受けた全ての芸人が出演できるわけではない。
ある芸人はネタ見せ終わりに会場近くにあるジャニーズ御用達の豊川稲荷東京別院で合格祈願をしていた。
皆それくらい真剣に臨んでいたし、どうにかライブに出演して観客をスマイルアップさせたかったのである。

初めてのネタ見せに我々はどうにか合格し、チャレンジコーナーというオフィス北野所属を目指す芸人たちによるネタバトルのコーナーに出演することになった。所属の夢を叶えるための「決戦は金曜日」というわけだ。

本番当日。
ちょっと早いんじゃないかって思うような入り時間を指定され会場入り。
折り込みのチラシを作ったら、すぐに空き時間になった。やはり入り時間が早かった。
ボクシング興行においてアンダーカードの試合が早い回でのKO決着を連発して、テレビ中継の都合でメインイベント開始までの時間を持て余すあの感じのようだった。

しばらくして演者が揃うとライブのマスコットキャラクターであるセクシーJさんの仕切りで顔合わせがあった。
セクシーJさんは「金玉洗い」という芸を得意としていた。金玉を洗浄することを得意な芸にするなよって思った私は「厚顔」無恥だろうか。

そういえば、セクシーJさんとしばらく会っていない。昔、何かの打ち上げ終わり、一緒にJR中央線の高架下を缶ビール片手に歩きながら、空を見上げて「今日は星が綺麗ですね」なんて会話をしたことがある。セクシーJさんと交わした唯一のセクシーな会話である。

リハーサルを終えて本番を迎えた。
ライブ冒頭のオープニングVTRで「オレたちひょうきん族」でも使われていたウィリアム・テル序曲 第4部スイス軍隊の行進が流れる中、本日の出演者が紹介されていった。この曲を聴くといまだにあの時の緊張感を思い出す。

この日、我々は運良くチャレンジコーナーで優勝した。それから何度か出演を重ねて2015年5月8日にフライデーナイトライブ内で所属を決める公開審査会が開催されることになった。

この公開審査会ではネタを披露して、観客の投票で8割以上の承認が得られないと所属ができないという厳しいルールだったが皆さんあたたかく、我々は93%の支持を得て所属が決まった。そう、WBA世界ライト級チャンピオンのガーボンタ・デービスのKO率と一緒である。

同じく所属が決まった、かっぽんかっぽん、昨日のカレーを温めて、がじゅまるの三組と喜びを分かち合った。このメンバーと我々コンビで所属を祝って旅行をしたのも良い思い出だ。

フライデーナイトライブはこれまで自分が出ていたライブとは雰囲気が違っていた。なんだか大人っぽかったし、大人のお客を相手にしていたように思う。

所属していた先輩芸人の皆さんも、ネタに力を入れるのはもちろんだが、それ以外に自分が持つ武器を手に畑を耕し、独自の実を収穫していて、圧倒的にプロだったし、これを生業に食っていく力強さを感じた。

その環境に身を置いて確実に視野は広がったし、良くも悪くも選択肢が増えたように思う。新しい価値観に触れとても刺激的であった。

所属の芸人がどんどん増えていき事務所の勢いが強くなってきた頃、事務所の長であるビートたけし氏の独立騒動の影響を受け、2018年5月11日第52回目でフライデーナイトライブは幕を閉じた。

当時、所属していた芸人は現在散り散りになってしまったが、それぞれの拠点での活躍を見るたびに嬉しく思う。

みんな〜やってるか!

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