「YUN–ROCKIN'ON WORLD」最終回(ユンボ安藤 自作自演インタビュー)知りすぎた男の章

この作品はあらゆる並行世界(パラレルワールド)において、各ジャンルで世界的成功を収めてきた希代の天才、奇跡のタイムスリーパー、ユンボ安藤氏のロングインタビューである。

今回お送りする並行世界は、「知りすぎた男」として世界中の政界、財界、医学界、スポーツ界、芸能界、婦人会、青年会、阿波踊り保存会、コロンビア名店街、浅草うまいもの会、イングランドおよびウェールズ芋煮会、消防団、合唱団、西ユーラシア喜劇人協会、有志のサークル、なんでもやる課、等々、各組織のトップシークレットを知ってしまったとされ、その命を狙われていると噂されるコードネーム『ユンボ』。ただ、その存在を目撃した者はいないとも囁かれ、もはや都市伝説との暫定的な世の結論の中、「偽ユンボ」が世界中に現れる現象が起こる。今回こそ本物のユンボなのか？「私こそユンボだ！」と名乗る男から届いた往復ハガキを元に遂行したインタビューという名の『新・世界史』となる。

□インタビュアー(以下●)
ユンボさん、今日は極秘インタビューありがとうございます！
やっと本物のあなたに辿り着けました。

□ユンボ安藤(以下○)
わざわざごめんね。こんなとこまで在来線３本、路線バス５本、窃盗チャリ３台、乗り捨てレンタルラバ２頭を乗り換えて。

●どうしてそれを！
さすがっ！知りすぎてる！

○お分かりだとは思うが、今、私はある組織から命を狙われていてね。

●はい。

○逃亡中なんですよ。そんな状況だから夜中に誰もいない空き地、そうバイク買取の『バイク王』跡地に君を呼び出してしまったんだ。

●バイク王だったんですね、ここ。

○ちなみにここのバイク王で最後に買い取られたバイクは１９６７年製の「ヤマハスポーツ３５０Ｒ１」

●なんでそんなことまで！知りすぎてる！
やはり今度こそ本物だ。

○ちなみにヤマハスポーツ３５０Ｒ１というのは？

●わからないです。

○１９６８年１２月１０日、府中で起きた劇場型犯罪の最高傑作『三億円事件』で使われた偽白バイのベース車両ですよ。

●そうなのか。やはりなんでも知ってるなぁこの人。
もしかして、買取されたのはその犯行に使われたバイク？

○そんなわけはない。

●それは私も知っていました。

○余談だが犯行に使われたバイクのナンバーは『１１２９』

●いろいろ知ってますねぇ。

○１１２９を例えば暦に変換すると１１月２９日とも解釈できる。

●ですね。

○苦肉祭の日だね。

●演芸事情まで精通しているとは。
なんでも知ってるなぁ。

○そしてこの跡地には次に『まいばすけっと』が出来ます。

●知りすぎてる！

○セルフレジ対応の。

●知りすぎてる！

○冷凍コーナー、デカめの。

●知りすぎてる！

○あと大事なことだけど、まいばすけっとはPayPayは使えないので注…

●大丈夫です！もう大丈夫です。
まいばすけっと情報はもう大丈夫です。
ありがとうございました。

○いいのかい？

●ええ、大丈夫です。
先程のお話ですが組織から命を狙われている理由というのは？

○わかってるでしょ、ブンヤさん。

●まあ。

○なんせ、知りすぎちゃってね。

●ええ。

○ウッフン♡

●ウッフン？
あなた、まさかそっち？

○違うんだ。
身を隠すために私は性格、性癖、時には足のむくみまで自在に操るんだ。

●なるほど！逃亡者が整形なんかはよく聞きますが。

○整形？アレは良くない。
両親から授かった大事な身体にメスを入れるなんて！

●そういう方なんですね！感動だ。
あなたは思っていた通りの男だ。やっと会えた本物ユンボだ。

○ちなみにむくみとはカリウム、カルシウム、マグネシウム等のミネラルや、ビタミンB1、たんぱく質不足で発症しますのでご注意を。

●そんなことまで知ってるとは！

○ヤバい！ヒトスジシマカの一味だ！(身を隠す)

●そっ組織ですか！

○ヤブ蚊だ！

●ビックリさせないでください！
ロシア系マフィアかなんかの組織だと思ったじゃないですか、そのネーミング。

○もう行った？

●最初から見えてないです。
しかし咄嗟に蚊の種類まで…
この男、やはり知りすぎてる…

○危ないとこだった。
組織が蚊を使ってデング熱や、遠足熱を運んでくることも考えられるから。

●遠足熱はないです。
で、今日ここに呼ばれたということは、もちろん答えられる範囲で構わないのですが、この辺りにユンボさんのアジト、隠れ家があるのですか？

○いや、隠れ家は新高円寺駅Ａ２出口を左に出て青梅街道をすぐ横に入って、必ず２回吠える犬がいる文化住宅横のコーポ・THEオープンの２０１だよ。

●言っちゃダメでしょ！隠れ家を。
しかも逃亡者がTHEオープンて。呑気な建物だ。

○カモフラージュかもしれないぞ。

●そうか！ホントはそこには居ない…

○君、逃亡者の言うことを全部信じちゃいけないよ。

●じゃあ今のは？

○事実です。

●事実かい！
じゃあそこで会わせてください。こんなとこまで呼んで。
ラバは乗りにくかったし。

○ちなみに君はコーポとハイツの違いというのを？

●そういうの好きです！さすが、知りすぎた男。
教えてください。違いはなんですか？

○法律上の明確な定義はない！

●解答にはガッカリだがやはり知りすぎている。

○オーナー様の任意でどうぞ。

●承知しました。

○え〜なんの話だっけ。
そうだ、なので私もこの地は初めてですよ。

●ということはアジトは東京にあるものの、今は全国を転々と逃げ回っていて今夜はこの土地にいるということですね。

○いや、『るるぶ』で見てね。

●…

○裏山に出入りする違法産廃業者が運転するダンプのフォグランプ・イリュミネーションが実に綺麗だと読んだもので。

●るるぶに載ってるか！そんな情報。

○まあ、気ままな一人旅ですよ。

●…

○君もどうだい？一緒に一人旅。

●一人旅じゃなくなってるよ！

○そういえば、さっき君は私に「まさかそっち？」なんて言ったね。

●あれは大変、失礼しました！
何も知らなかったもので。もしやと。

○いや、そっちなんだ。

●えっ！

○洗ってきてるかい？

●…

○ボディさ。

●私はそういう趣味は…

○さあ！

●…

(２時間経過)

○ワッハッハ！ジョークだよジョーク。逃亡者ジョークだよ君！
君はホント素直な男ですなぁ。父親譲りだ。

●なぜそれを！やっぱ知りすぎてる！

○目元なんかもパパそっくりだ。
血は争えないよ。

●私が影響を受けた父は母の再婚相手で二人目の父です。
ですので血は争ってないです。無論、目元も。

○ウッフン。

●ごまかしましたね。
失礼ですが、あなたホントに知りすぎた男ですか？
会った時からどこか怪しくて。

○さあ飲もう！ハラショー！

●逃亡者なのにド派手な全盛期・志茂田景樹ファッションですし、友達になりたい位に底抜けに明るいし、今後の逃亡経路及び人となりをベラベラと喋ってくれるし、しかもその逃亡経路には必ず温泉があるし、そして何よりあの２時間はジョークじゃなかった！
あなたは何も知らない！
あんた偽物だろ！

○Anyway、インタビューを進めようではないか。
明日は早いもんでね。午前中にタトゥーの予約を入れていてね。

●両親から授かった大事な身体じゃないのか！

○しかし今宵は満月が綺麗だ。

●ごまかすな！

○君はさっきから何をカリカリしているんだい？
私こそ本物の知りすぎた男ですよ。
世間を騒がせている知りすぎた男ですよ、旦那さん。

●独身だ！

○まあ、楽しくおしゃべりしようよ。なぁ、長男坊。

●次男だ！

○怖い顔はやめてよ〜。この、おじいちゃん子が。

●おばあちゃん子だ！
もう帰る！くだらない。
ユンボなんて男はそもそもいないんだ！
ユンボもパラレルワールドもそんなものは存在しないんだ！

○じゃあこの話を聞けば私が本物の知りすぎた男だと信じてくれるんじゃないかな。
見上げてごらん、あの満月を。

●どうせまた適当なことを言うんだろ！

○日本では月の模様は、うさぎが餅をついている姿なんて古くから伝わっているだろ。
でも海外ではまた違うロマンチックな伝わり方をしているんだよ。

●…

○例えばインドだったら月は、タイガー・ジェット・シンが繁華街でチャイを販売する屋台青年に無慈悲にコブラクローをキメている模様と言われているし。

●…

○ロシアではアレキサンダー・カレリンが知人の引越しの手伝いで２ドア冷蔵庫を団地の８階まで担いで運んでいる模様と言われているし。

●…

○ドイツでは野犬に襲われたらどう仕留めてやるかを常にシュミレーションしているカール・ゴッチが、いささか小さめの野うさぎを相手に本番さながらのスパーリングを郊外の貸しホールで行っている模様と言われているし。

●…

○メキシコ北部では三拍子のリズムで…
おい、待て！
こっからがおもしろいんだ！

●…

○南フランスでは疲れ果てた吟遊詩人が…
おい！どこ行く！待ちなさい！

●帰んだよ！
時間の無駄だった。
付いて来るな！

○ごめん、ごめん。
じゃあ普通に遊ぼ。

●遊ばねえよ！
だから付いて来るな！

○これ雑誌に載る？何月号？

●載るわけねえだろ！
付いて来んなって言ってんだろ！

○…

●…

○せめてラバ乗り場まで…

「YUN–ROCKIN'ON WORLD」最終回
【知りすぎた男の章】完