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漫文駅伝特別編 『アル北郷人生挽歌~続きを待てずに』㊿ アル北郷

以前、某番組の中で、
『弟子からの逆襲・ビートたけしの素顔』といった企画があり、殿の面白エピソードや、おっちょこちょい話を、弟子達が殿の前で語る場面があったのですが、わたくし、そのあたりの企画は、割と “得意な方” だったので、夢中になって幾つかの殿のエピソードを語りました。

と、どのエピソードもウケたため、つい調子に乗ってしまい、最後に、実際には殿がやっていない、盛ったエピソードを語ってしまったのです。

笑いの神様とは実に正直なもので、その盛ったエピソードだけは、さっきまでのウケが嘘のように、見事にすべってしまい、なんとも後味の悪い終わり方で、その日の収録は終了となりました。

殿の名前を出してすべった事。さらに、盛ってまで話したエピソードがすべった事に対し、殿は気を悪くして、お怒りになっているのではないか? 

ビビりながら、殿の帰りを見送るため、軍団の兄さん達とエレベーターの前で殿を待っていると、プロデューサーやディレクターに囲まれ、雑談をしながらやってきた殿は、「お疲れ様でした」と、弟子達が一斉に発した挨拶に、「おう」と答えると、エレベーターを待つわずかな時間に、「北郷‥‥」と切り出してきたのです。

瞬時に「やばい!叱られる!!」と身構えるわたくし。

すると殿は、さらっと「北郷。お前の○○のあの話よ、あれ、俺が○○したんじゃなくて、俺が○○に、○○されたって話にした方がウケるんじゃねーか?」と、最後に話したすべったエピソードについて、実に的確なアドバイスをくれたのです。

「はい。ありがとうございます!」
叱られなかった事への安堵から、必要以上に大きな声で返事を返すわたくし。
殿はそれだけ言うと、エレベーターに乗り去って行ったのでした。

殿の懐の大きさに救われたわたくしは、帰り道、己の不甲斐ない盛ったエピソードトークを恨み、ひとしきり落ち込んだのですが、こうも思ったのです、
「そうだ。殿はいつだって、笑に対しては冷静にアドバイスをくれる方じゃないか」と。

あれは、北野映画11作目『座頭市』撮影時のこと。
その日の撮影は広島でした。

時代劇専用の大型野外スタジオが広島にあるため、広島駅近くのホテルを定宿として、一週間泊まり込みで撮影に来ていました。

1日のスケジュールはこんな感じです。
スタッフは朝6時、ホテルから車で20分程行った、大型野外スタジオへ移動して準備にかかる。
役者さんはその1時間程後に現場に入り、かつらや衣装に着替える。そして、最後に監督が現場に入る。

わたくしは監督の付き人でしたから、常に監督と同行するため、7時起床。殿の部屋に朝食を届け、殿が食べ終わるのを待って、車で現場へ移動。北野組はスピーディーですから、押すことはほとんどなく、午後5時あたりまで撮影をして、ホテルへ帰り夕食。夕食後は決まって、殿の部屋で緊張の二人っきりでの晩酌。大体夜の10時ぐらいに、「よし、風呂入って寝るか」と、殿から鶴の一声が出たところでその日の付き人は終了。

そんな流れの毎日が続き、広島に来て4日目、天気に恵まれていた撮影が、朝からの雨模様のため、撮影中止になる可能性が出てきたのです。

で、けして強い雨ではなかったため、とりあえず野外スタジオ、現場へ行って様子を見る事となり、北野組御一行はいつも通り現場へ入りました。
が、現場へ入った途端、雨が本降りとなり、その日の撮影は早々に中止と決定。現場に着いてすぐ、出て来たばかりのホテルへと戻る事になったのです。

こういった時、まずは監督と役者が優先的にホテルへ戻る。
ですから、ホテルへ戻る第一便の車には、監督。そして役者として来ていたガタルカナル・タカさん。そしてわたくしの3人が乗車し、どんよりした雨の中、ホテルを目指しました。

ちなみに、タカさんの事を我々若手は「親方」と呼ぶ。
で、ホテルへ向かう車中、
「北郷、もし雨で撮影が中止になって、監督がホテルへ戻ってくることになったら、すぐに連絡頂戴」と、ホテルで待機しているマネージャーより指示が出ていたので、わたくしはすぐさま、マネージャーに電話をかけたのです。

「お疲れ様です。北郷です。今、雨で中止になりまして、監督と親方と現場を出ました。はい、そうです。雨で中止です。はい。監督と親方が一緒です。今出たばかりですので、20分くらいで着くと思います」
と、正確に現状をマネージャーにお伝えして電話を切ると、なぜか殿がわたくしを見てニヤニヤしているではありませんか? はて? 何か可笑しな事でも言ったかしら?

殿のニヤニヤの意味が分からず、少しばかり不安な顔でとまどっているわたくしに、殿は、「北郷。お前、現場だ雨だ監督だ親方って、オレたちは土方か!」と、見事なツッコミを炸裂させたのです。

殿のツッコミについ吹き出し、「ですね」といった顔のわたくしに、殿はさらっと、「北郷。この話よ、良く出来てるから、どこでも喋れるように練習しとけな」と、アドバイスをくれたのでした。

もちろん、しっかりと練習を積み、何度も客前で話させて頂きました。

殿、この度もまた、ありがとうございました。

文とは何の関係もありませんが、子供の頃大好きだった「アゴ&キンゾー」の桜金造さんと、念願だった“おやまゆうえんち~”を決めたわたくし。 金造さんの『お笑いウルトラクイズ』でのワニとの死闘は、何度も見ても、腹がよじれる程笑ってしまいます

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