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漫文駅伝特別編 『アル北郷人生挽歌~続きを待てずに』51 アル北郷

ごくたまに、殿の永遠の相方、ビートきよし師匠がテレビの収録現場などで、殿と遭遇すると、殿は決まって、きよし師匠に見事なつっこみを炸裂させます。

以前、きよし師匠が殿の特番に呼ばれ、久しぶりにお会いした時、きよし師匠を認めた殿は、「なんだ? 今日はどうした? 悪いけど金なら貸さないよ」と、早々につっこみを炸裂させ、楽屋はどっと湧いたのでした。

では、思い出すままに、殿がきよし師匠に炸裂させたつっこみを、アットランダムに記します。

「お前はまたKKCか!」(※ご興味のある方は「経済革命倶楽部事件」で検索を)

「お前、違うスタジオで弁当食ってたらしいじゃね~か」

「おい。少しは笑かせよ!」

「どうした、そんなに日焼けして。どうせインチキな社長騙して、ただゴルフばっかりやってんだろ」

「お前みたいな奴が居たから、日本は負けたんだよ!」

「お前、老けたな~。クーデターにあったアジアの大統領みてーだな」

とにかく殿は、きよし師匠を認めると、挨拶など抜きに、必ず第一声はつっこみから入ります。そして、その後も普通に会話する事など皆無で、常にきよし師匠をいじり倒します。

わたくし、そんな光景が大好きで、きよし師匠が殿の現場にやって来る日は、もう朝から一人勝手にわくわくしていました。

きよし師匠が、あのとぼけた顔で殿の楽屋に入ってきた瞬間の、‘‘お!殿がきよし師匠をつっこむぞ”といった空気がたまらなく大好きで、それを見届けると、実に幸せな気持ちになるのです。

そんな、今日までに殿がきよし師匠に炸裂させた、幾千ものつっこみの中でも、‘‘凄げー事言うな。殿”と、驚愕したつっこみがありました。説明します。

当時、きよし師匠は女性の歯医者、女医さんとお付き合いをしていて、その女医さんに、歯を全部綺麗に治療してもらったそうです。そんなきよし師匠がある日、殿の楽屋に来ると、白く光ったその歯を殿に見せつけ、「あ~いぼ、これ、ぜーんぶただでやってもらったんだぞ」と、得意満面に述べると、殿は嫌みなくらい輝く歯をまじまじと見て、「お前、その歯で飯食ってうめーか?」と、つっこんだのです。

なんだろう?少し大げさかもしれませんが、殿のこのつっこみ一発で、わたくし的には、お二人の“人間”としての全てが伝わってきます。

妻でもない、付き合っている女医に歯をただで治療してもらった事を何とも思わず、臆面もなく自慢するきよし師匠。
その発言に違和感と嫌悪を覚え、見事な言葉のチョイスで、つっこむ殿。

お二人の、決定的な価値観の違いが、殿のつっこみにより、はっきりと露わになった瞬間であったと、わたくしは思います。

そんな対照的なお二人が、以前、TBSの生放送、「情報7days・ニュースキャスター」の中で、ゲリラ的に漫才を披露した事がありました。

その日の殿は、ネタのワードを箇条書きしたノートを持参し、放送の2時間前に楽屋に入ると、殿より先に来ていたきよし師匠と、一番広い楽屋へ移動し、人払いをしてドアを閉め、漫才の稽古を始めたのです。

漫才の練習程、デリケートな物はない。

この時、ツービートの貴重な練習風景を見たくてたまらない衝動に駆られましたが、わたくしもスタッフ同様、廊下でツービートの練習が終わるのを待ちました。

そして、ツービートが稽古を始めて30分程した頃、笑いながら楽屋から出てきた殿は、「ダメだよ。兼子(きよし師匠の本名)が笑って練習になんねーわ。お前は俺の客か!」と、殿の横でニコニコしているきよし師匠につっこんだのです。

この時の殿の笑い顔と、きよし師匠の嬉しそうな顔は、今でもはっきりと覚えています。

で、稽古を終えた殿は、自分の楽屋へ戻り、いつも通り「ニュースキャスター」の打ち合わせを終えると、本番での漫才を全く心配してない、とぼけた顔のきよし師匠とは対照的に、「ダメだったらすぐやめるから」「一分もたないかもしんないよ」と、久しぶりに生放送でやる漫才についての不安をもらしたのです。

そんな殿に、「殿、漫才ブームの時は、生放送での漫才って、多かったんですか?」とお聞きすると、
「あれだよ、昔生放送でディレクターから、『1分前からADがカンペで時間を出しますので、5分きっちりで終らせて下さい』なんて言われてよ、時間気にしながら漫才やって、最後の俺のボケが終わった時点で、まだ10秒余ってたんだよ。そしたら兼子が、『よしなさ~~~~~~~い』って、つっこみを伸ばしたんだから」
と、漫談口調になって、教えてくれたのです。

最後に、わたくしの好きなつっこみをどうぞ。
「お前、しばらく見ないと思ったら、詐欺で捕まってたんだって? 保釈金500円だったらしいじゃねーか」

殿の、一発でその場を制す、強度の強いつっこみは、その対象がきよし師匠の時に、より強度の強いつっこみが出ると、わたくしは思います。

漫談最強芸人、ケーシー高峰師匠と。
殿曰く「俺達がまたキャバレーの営業が下手でよ。全然うけてねーんだよ。けどケーシーさんは、どこ行ってもドッカンドッカンうけたからな」

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