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小野直紀さん×嶋浩一郎さん×上阪徹さん「僕らはこうやって会社を使い倒した」刊行記念イベントレポート(中)

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役員への直談判

小野:本にも書きましたが、今から4年前に、monomを設立するために、役員に直談判に行きました。

プレゼンテーション資料の1枚目に、たった一言、

「辞表」

さらに次のページには「もう広告はやりません」と書いた資料を持って。

そのくらいの覚悟でやらないと新しいことなんてできないと思ったんです。
そして、「何故、博報堂がやるべきなのか」を説明しました。

嶋:「何故、博報堂がやるべきか」をどういうロジックで説明したんですか?

小野:ちょうどその年の春に、博報堂が「未来を発明する会社へ」という中長期ビジョンを発表していました。この中で広告会社が「発明」という言葉を使っているのが非常に印象的でした。ただ、具体的なものが何も決まっていなかったんじゃないかなと思うんです。
IoTとか3Dプリンターとかが出始めていた時期だったので、このスローガンに乗っかって「広告会社だからできるものづくり」というものがある、ということを会社に訴えていきました。

会社と対等の関係を作れる生き方

上阪:ここまでお話を聞いていただいて、どうやったら、嶋さんや小野さんのようになれるのかが気になるところだと思いますので、その辺りを聞いてみましょう。

小野:(僕の場合は)とにかくいろんな人に話を聞きに行きました。社内の人で、特に役員の人に否定されたこともありましたけど、ダメ出しされたとしてもそれをクリア、ネガティブをクリアすれば、前に進む。その人が何をダメだと思っているかを突っ込んでいくと、課題が明確になるんですね。「相談にいく」ということと「手紙を書く」ということが僕が物事を前に進めるために、大事にしていることです。

上阪:嶋さん、これまで「辺境」「マルチタスク」みたいなキーワードが出てきましたけど・・・

嶋:意外にちゃんと見積もり書くのは好きだったりとか、ちゃんとお金を稼ぐことに貪欲だったりと、今でもそうですけど。なんか、自分が興味のある方法で会社に貢献できれていればいいんじゃないかな、やることをちゃんとやっとくというのがすごく大事ですよね。

上阪:でも誰にでも「会社やらない?」って声はかからないわけで、なんで嶋さんに声がかかったのでしょうか?

嶋:「ずっと辺境の部署に居続ける作戦」が功を奏したと思いますけどね、敢えて。辺境にいるのに、仕事がたくさんくる奴がいる、そういうポジショニングを考えて、(俺って)あざといんだな・・・(笑)

「会社を使い倒す」とは

小野:嶋さんの同期で、照井さん、小西さん、斉藤賢司さん、、、などなど超有名なコピーライターの方々がたくさんいらっしゃって、みんな博報堂をやめているんです。嶋さんはグループ会社の社長とはいえ、僕の何倍ももらっているでしょうけど、辞めたらスタッフの費用をみなくてよいとか、もっと儲かるはずなんです。「何で嶋さんが会社を辞めないのか」が凄く気になっていて。

嶋:「会社を使い倒す」っていう意味でいうと、博報堂はいい環境だと思っているんです。
クリエイティビティっていうモヤっとした定義のないような、それって一体なんなの、ってことをよく思うんですけど、昔の辞書とかで調べると「異なる価値観が掛け合わされてできる新しい価値」というようなことが書いてあって。本屋もまさにそういうこと、その集大成のようなもんなんですけど。博報堂のいいところは、博報堂に「粒ぞろいより粒違い」っていう言葉があって、異なる価値観をリスペクトする土壌がある。

今、コンサルの方々も肩書きをクリエイティブディレクターと名乗る方が多い。でも、人ってそんなに簡単にクリエイティブにはなれないと思います。クリエイティビティを生み出す環境ってあるんですよ。「博報堂を使い倒す」という意味では、異なる多様な価値観を持った人たちがいるところを使い倒せる、束ねられるのはとても良い環境で、これは捨てがたいと思っています。結局、アイデアって一人ではできないものだと思うんです。稀に天才もいますけど。

あとよく言うのが、先輩で気が狂ってるくらいできる人がいっぱいいることですね。辞めた人も含めてですけど。最近では、年下でやばい奴がいっぱいいる。いい環境だなと思います。

イノベーションは辺境から生まれる

上阪:嶋さん、やばい奴って、どんな人なんですか?

嶋:うーん(笑)。全てのイノベーションは気が狂ってるんですよ。例えばキャッシュレスとか、日本人あんなにお金大好きなのに、いやいやお金なんてキャッシュレスでいいじゃんって、昭和までの、今までの価値感を100%転換するわけじゃないですか、今当たり前になっていることって、実は気が狂っているわけですよ、ファーストペンギンは。気が狂ってる。
おひとりさま、歴女、鉄子もファーストペンギンは全て気が狂っていたと思うんですよ。

博報堂のいいところは、気が狂ってることを、まず検証してみようかとするところ。気が狂っている人をいい子いい子してくれる会社なんです、博報堂って(笑)

上阪:小野さんは、「どうしたら、小野さんみたいになれるか」と聞かれたら、どう答えますか?

小野:自分は、会社でやっていること以外のスキルを作ることができました。それを博報堂の中のコピーライターだったり、博報堂が持つ職能と組み合わせることで面白いことができるんじゃないかなという思いはありましたね。

ただ、嶋さんと同じように、会社の中で与えられたものは粛々とやりました、ポジティブに。不満があるなら外でやってみようと思ったら、別のスキルセットが溜まっていったというか。

嶋:会社の上司に評価されるんではなく、社会に評価される価値がわかっている人は強いですね。なおかつその状態で会社に属しているというのは非常に健全で、良い会社だと思います。最近、若手が辞めちゃうとかよく言われるんですけど、最近それもいいなと、リクルートみたいな、辞めるのが当たり前、辞めても仲間じゃんと、それくらい「緩い連帯感」でも1つのチームとしていられるのもいいのかなと。

小野:本当に辞めてるんですよ。今、博報堂、死ぬほど人が辞めていて。めちゃめちゃ辞めていて。だから博報堂に転職したいと思っている人は今がチャンスかもしれないですよ(笑)。僕の場合は、めっちゃ辞めているので、逆に居た方がいいのかなと思ったんですよね。辞めた人も面白そうなんですけど、残って面白そうな人っていうのがあんまり居ないので、そこに行ってみよう、と思ったんですよね。

上阪:お聞きしていると「みんなの居ないところに行く」っていうのと「掛け合わせ」というところに、キーワードがあるような気がしますが、、、

小野:「掛け合わせ」という意味でいうと、自分一人でできることに限界があると感じちゃったんですよね。今は博報堂の人たちとお金とネットワークをガンガン使わせてもらっているし、そうすると得だし、自分だけじゃできないことをできるんじゃないかなと思いました。フリーになって独立しても、人と人との掛け合わせで作っていくんですけど、僕は博報堂の人と掛け合わせをしていくことを選んだという感じでしょうか。

上阪:嶋さん、「敢えて辺境に行く」っていう選択はありますかね。

嶋:え、選択というか、、、「ぜひ辺境に行ってください」。今日から行ってください。

やっぱり、みんなが調べるところにもはや価値はないわけですよね。例えば、googleの上位ワードは多くの人が興味を持って調べているという意味では価値はある訳ですけど、「そこから新しい発明は生まれない」。今の当たり前になっていることは、さっきのファーストペンギン理論じゃないですけど、おかしな人が最初全てを始めるわけで、おかしな人に敏感な人でいたいと凄く思う訳ですよ。

例えば、「おひとり様」の発見のお陰で、いろんな「おひとり様」ツアーや飲食店のメニューが生まれた。

でも、一人でご飯を食べている女の人をみて、「今日はこの人1人なんだな」と普通に認定しちゃうか、「もしかしたら、こういう人が結構、世の中にたくさんいるかもしれないな」と思うか、新しい世の中の欲望の胎動とか、欲望の発露として、その日常の違和感を思えるか、周辺に対して配慮している人の方が、そういう企画のセンスとかビジネスのセンスを持っているし、敏感になれると思うんですよね。

上阪:そういう気づきを得たときに、会社に言っても聞いてもらえない、上司が相手にしてくれないって時はどうしたらいいですか

嶋:おかしいことを言っていたら、上司は大抵相手にしてくれないですよね(笑)。ここが難しいところで、、、小野くんだっておかしなことずっと言っていた訳でしょ(笑)

小野:「じゃあやってみれば」とは言ってもらえましたけど、予算がついた訳でもなかったですし、そんな中で一人でやるしかないし。上司が聞いてくれないのは前提かなと思っていましたけどね。ハードルがたくさんあることが前提だと思ってしまえば、あとはどうそのハードルを乗り越えていくか、という気になれるというか。

嶋:6年前に本屋を作るって、僕が言い出した時に「今時、本屋作っても儲かるわけないじゃん」と、頭にくるけど、友達に、いろんな人に言われた訳です。
(言ったのは)雑誌の媒体社の名前、名前、名前・・・の人とか、みんな僕のデスノートに名前を書いた訳ですけど(笑)

おかしなことを言っている訳ですけど、自分の中では、amazonは買うものを決まっている人が買うところ。本屋は、偶然の出会いを作れるところとして機能するし、「偶然の出会いで本を買うことでの喜びもある」、ビジネスになると思っている、やれるはずであると思っているので、その確信があったから、やり通すしかない。

小野:思ったことがうまくいかないと思うのが当たり前。でもそんな中で何かを実現していく、っていうことが広告の仕事です。自分のいく道が決まってしまえば、まっすぐ進んでダメなら違う道を進めばいい、と思うんです。

嶋:すごいわかります。さっきの質問(上司が相手にしてくれない)の時はどうしたらよいかというと、上司が無理なら社内で一緒にやってくれる人を探そう、とか、とにかく形つくってしまって、回り始めば、意外に上司が掌返しすることもあって、そういうことにムカついている場合じゃなくて、それも含めて、全部会社は使い倒して、、、

広告業界によく「あれ俺詐欺」っていうのがあって、「この仕事、俺がやったんだ」と言う人が100人くらいいるんですよ(笑)。でも、僕は逆にそれはいい仕事だと思うんですよ。みんなそれで気持ちよくなれるならいいじゃんと、最初否定していたとしても。名誉を独占しない方がいろんな人が協力をしてくれるので得をすると思うんです。会社のリソースを使い倒せると思うので、それは凄く思いますね。

(下)に続く

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