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エッセー「追悼 山田辰夫 " 狂い咲きサンダーロード "」

 2009年7月26日、俳優の山田辰夫が亡くなった。享年53歳。

 デビュー作「狂い咲きサンダーロード」を劇場で観て以来のファンだった。

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 この映画が公開された1980年、日本はバブル景気に向け、その助走を始め時期だった。

 新進気鋭の若手監督・石井聰亙、無名の若手俳優・山田辰夫のデビュー作である「狂い咲きサンダーロード」は、個人の主義主張が軽視され、国家が金で国民の心を縛る偽善的資本主義(拝金主義)が重視される一億総発狂時代(バブル)へと、全速で走り始めた当時の日本社会に対する痛烈なアンチテーゼであった。

 劇中、狂犬にように凶暴で過激な暴走族のリーダーを演じた山田辰夫の存在感は凄まじいものがあった。

 仲間の裏切りと惨い集団リンチにあい、満身創痍のなりながらも、大人的(政治的)融合を拒み、最後まで一人信念を貫こうとする男は、鋼鉄の鎧を纏い、失った右腕には鋼鉄の鍵フックを装備し、散弾銃と拳銃、ダイナマイトにバズーカ砲で武装して、ケジメをつけるための最期の闘いに身を投じてゆく。

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 バイクで自由に走りたい、自由でありたい。純粋でひたむき青春時代。それを許さない薄汚い大人の欺瞞、体制の管理。バカでもいいからすべてをぶち壊し、自由な心のまま死んでゆきたい。

 ラストシーンで見せた笑顔は、あれから40年を経た現在でも鮮明な記憶として脳の海馬に刻まれている。

 山田辰夫の狂気にも似た迫真の演技は、鬼才石井聰亙の斬新な映像美と相まって、強烈なインパクトと感動を心に刻んだのである。

 一つの時代が終わった。最近つくづくそう思う。日本はまた惜しい役者を失った。


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