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【#一日一題 木曜更新】 地図にない場所

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。

地図にない場所を探しに行こう、こんなすてきな表現を最初に使ったのは誰だったんでしょうか。使い古された表現という感じもするけれど、子どもの頃に何かの本でこの言い回しをはじめて見たとき、思わず地図を開きました。そしてはたと気が付き、自分で自分を笑いました。

スマホで世界中の地図が見られる昨今です。地図だけではなく、衛星写真も町の様子も手元で確認できます。もしかしたら、令和を生きる子どもたちは「地図にない場所を探す」、この言葉にさほど揺さぶられないのかもしれません。

ある日、私は壊れた時計をポケットに入れて知らない町を歩いていました。

とはいえ自宅から車で15分ほどの、正確には「車やバスでしか通ったことがない町」です。出発前にスマホで目的の場所の位置と情報を確認したところ駐車場がなさそうだったため、天気もよいし歩いてみるかと思い自宅から30分ほどかけて歩いてきたのでした。

目的地は時計屋。時計メーカーに「生産終了。修理不可能」と見限られた古い時計を、町の時計屋さんに見てもらおうと思ったのです。しかし着いてみると、Googleマップでは「営業中」となっていたものの店のシャッターは降りていました。

量販店やチェーン店ではない町の時計店なのだから、電話をしてから向かうべきでした。せっかく歩いてきたのにとがっかりしかけたところに、1階の窓のカーテンから白黒のハチワレ猫がひょいと顔を出しました。こちらの姿をうかがうように一瞬動きが止まりましたが、すぐに陽の当たるその場所にスフィンクスのように座りました。

猫を目線で愛でてからビルの先に目をやると、隣にはビルの間に無理やり建てたようなプレハブが。たい焼き屋でした。焼き手はダルそうな小さめソフトアフロのおばあさん…いや、おじいさん…? 頭の中に有名なメロディーが流れてきて、買わずにはいられなかったのでふたつばかりいただきました。

時計屋は無駄足だったなあと思いつつ、でも私はGoogleマップに出てこない情報を知っているのだと思うとちょっと愉快になりました。

今日は時計屋は休みで、この時計屋にはハチワレ猫がいて、横のプレハブではソフトアフロのおばあさんがダルそうにたい焼きを焼いている。おばあさんはもしかしたらおじいさんかもしれない。

そんなことを頭の中にメモしながら、私は来た道を戻りました。







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