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【アーカイブ】レビュー:「警視-K」第9話「オワリの日」

70年代後半から「大都会」3部作、「大追跡」、そして、「探偵物語」。ハードボイルド色が強くアクションも豊富な独自の男性的な刑事ドラマを連発してきた日本テレビ系火曜夜9時のドラマ枠。「大激闘マッドポリス'80(特命刑事)」の終了を受けて鳴り物入りで80年にスタートしたのが、銀幕スター・勝新太郎が監督も兼ねて主演する「警視-K」だった。
主演の勝新を始めとして愛娘(奥村真粧美)、ピッピ(水口晴幸)、谷(谷崎弘一)と言ったレギュラー陣以外にセミレギュラーというべき面々が居た。終盤に登場する小池朝雄や女房の中村玉緒は別格として、前中半におけるセミレギュラーの筆頭は、川谷拓三である。勝新の主人公に心酔するスパイ気取りの情報屋が拓ボンの役。

この拓ボン扮する尾張一(おわり・はじめ)の切ない恋とあっけない末路を描いたのが、第9話「オワリの日」(共同脚本・演出、勝新太郎)。
冒頭からディスコで何者かに刺され衆人環視のなか血まみれでのた打ち回る男を延々映し出す驚愕の演出。このシーンが、実はラストの伏線にもなっているのだ。
拓ボンは小さな居酒屋の女将・時子(松尾嘉代)に惚れこんでいて、弟分のマサを連れて店に入り浸っていた。そして、ある事件で手に入れた大金をお時に渡す。以前から拓ボンの純情に気付いていた時子…松尾嘉代は、客がはけたある夜、拓ボンにこう告げる。
「このお店をね、あたしと一緒にやってみる気ない? 仲良くやっていけそう、ワリちゃんとなら」
2時間ドラマでの濃密な熟女のイメージが強い松尾嘉代が、ココではさばけててカジュアルで、そして美しい。実は彼女この時まだ30代だった。見てるオレの方がその年齢を超えていた事実に、まずは愕然とする。

しかし、拓ボンの有頂天な日々は、少しづつ陰りを帯びていく。
松尾嘉代の前に拓ボンの見知らぬ男が現れ始め、遂には彼女が警察に連行される。
冒頭で男を刺した犯人と松尾嘉代に近付いた男は同一人物で、彼女はかつての恋人だったことがわかり、事情を聴かれたのだ。
不安にかられた拓ボンは、勝新を呼びつけ、松尾嘉代の素晴らしさと彼女への想いのたけを満面の笑みでぶちまけながらも、さりげなく松尾嘉代が連行された理由を聴きだそうとする。勝新はそんな拓ボンの勘繰りには応えず、一言「尾張、悪い夢見るなよ」とだけ告げる。
拓ボン「悪い夢? いい夢見てるのに…」

松尾嘉代は、拓ボンを馴染みの珈琲店に連れて行き、ブラジル直輸入のコーヒーを一緒に飲みながら、自分の過去を話す。相変わらず、男は彼女に付きまとう。思い余った拓ボンは、店から出刃包丁を持ち出し、男を殺そうと近付くが先回りした勝新に止められる。
男に逃走用の車を要求された松尾嘉代に、拓ボンは強引に付いていく。ほんのわずかの間のふたりだけのドライブ。待ち受けていた男。彼は松尾嘉代を連れ、拓ボンをひとり残して車で逃走を図った。しかし、待機していた勝新らにあっさり逮捕される。吹きすさぶ風のなかで、人生をかけた恋が終わったとうなだれる拓ボン。

ひとり街へ戻った拓ボンは酒を呑み、マサを連れ人気のないバッティングセンターで、鬼のような形相でわめきバットを振り続ける。おびえるマサ。路地で立ちションをしながら拓ボンはマサに告げる。
「お前ともはかない縁だった。オレの分まで幸せになってくれよ。オレは…ブラジルへ行く。コーヒーうめぇんだ…、マサ。いい夢だけは見るなよ」

そして…ひとり裏道を踊るようにさまよう拓ボンは、交差点に猛スピードで侵入してきたクーペにひき逃げされ、血まみれで路地でのた打つ。
マサが、松尾嘉代の店に現れる。拓ボンの死を告げる。茫然自失の彼女。店の中で子供のように泣きじゃくるマサ。
拓ボンの最期は、勝新の耳にも入っていた。キャンピングカーの屋根に登り、ひとり拓ボンを偲ぶ勝新。父親を探す真粧美。達郎の「マイ・シュガー・ベイヴ」が流れ出す。

※本稿は、SNS「mixi」ホームへ2013年7~8月寄稿したブログを加筆・修正したものです。

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