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オシマイサマ

 青白い手を拾う。間違えるはずもない、これは雪の手だ。儂が贈った指輪も、薬指に嵌められている。
 儂は、それをそっと拾い上げる。
 もう、二十一個目の、雪の手だ。
 洪、洪、と灰色の水が足元を流れる。倒れぬようバランスを取りながら、儂は二十一個目の指を閉じ、自分を掴ませた。
 彼奴らが迫り来る音が、背後から聞こえる。儂を嘲笑うために痛ぶっているのだ。無数の黄色い目が無軌道に浮かび上がる。
 儂は腸が煮えくり返る思いで、腰に手をかける。
 アサルトウィッチの残弾は六つ。全部命中させたとしても全く足りないが、どこまでも逃げられるものではない。ここで散るが誉れか。しかし、雪の手を集めなければ。
「!!」
 草むらから、体を縮こませた老婆が飛び出してくる。
 やめろ、と儂は叫ぶ。
「そいつらは儂の仇だぞ!」
 儂は老婆に向けて弾を放つ。老婆は空中で一回転し杖を振るうと、弾を叩き落とす。
 儂が次の静止をかける前に、老婆は背後のけだものを真っ二つにする。儂は口惜しさに歯軋りする。
 仕方なく儂は振り返り、流れる水に逆らって遡上する。両隣は護岸されており、登ることは出来ない。
 曲がり角を抜けると、急に景色が開ける。這い上がれそうな緩やかな斜面の上に、真っ赤な屋根の建物が見えた。
 儂は這う這うの体でその館に転がり込む。乱れる息を整え、ようやく顔を上げて驚愕する。
 建物中にぶら下げられているのは、生首、生首、生首。村の者たちだろう。ここが、彼奴らの根城か。
 儂は目の前の扉の蝶番に弾を二発。これで残りは三発。
 扉を蹴破りながら部屋に飛び込む。儂が一瞬前までいた場所に、無数の鉄の雨。吹き抜けから二階がちらりと見えたのが幸いだった。見えたのは、ガトリングウィッチ。彼奴らの前に此奴をやらねば。天井をぶち抜いて鉄の雨。

「なにがなんだかわかんないけど、だめだぁよ」

 背後から、痰の絡んだような粘つく声。儂は振り返ろうとするが、背中に激痛。








【続く】


 

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