八人の悪魔

　畦倉潤子は、取り柄のない女である。
　その、強い正義感を除いて。

「本当にここですか？」

　廃墟寸前の団地、6階。
　畦倉は、傍の連れに尋ねる。

「私様の消化器官だぜ？何処にいても分かる」

　答えるのは、髑髏の女。
　髑髏はガミースマイルのまま煙草を吐く。
　畦倉は僅かな逡巡のあとドアノブを回すが施錠されている。畦倉は意を決し扉を蹴破る！
　その思い切りの良さに、髑髏は喜悦を上げる。

「何？！」

　中にいた老婆が喚くが構わず肩を掴み、後方に逸し進む。

「警察です！望口紺太を出しなさい！」

　畦倉は手帳を突き出しながら部屋に押し入る。
　そこにいたのは、罅割れた鏡餅ようなシルエットに、イソギンチャクを思わせるグロテスクな突起がいくつも生えている、完全な怪物。
　畦倉は呆気に取られ反応が一瞬遅れた。それが致命傷だった。
　畦倉の両腕が、溶かされ無くなった。

「美味ィ」

　脈動する突起から虫のようなものが湧き出し、触れた部分から肉がとろけて液化した。
　畦倉は激痛に悶絶する。
　脳裏に浮かぶのは、数ヶ月前に見た光景。

　…部屋いっぱいに満たされた赤黒い液体。検察によると、その体積は人間4人分。その家に暮らしていた家族と同じ数。部屋に飾られた写真の中で笑う両親と姉妹。

　何の罪もない一家が、殺された。
　絶対に、犯人を捕まえる。

　難航する捜査の中、現れた骸骨。

（私様の消化器、排泄器、呼吸器、神経器、循環器、生殖器…全部見つけるまで、お前のこと使ってやる）

　畦倉は痛みに耐えて立ち上がる。虫は塊となって殺到する！

「紺ちゃ─」

　畦倉と肉塊の間にいた老婆は、あっという間に腐り水溜りと化す。

「お袋の味ぃ」

　目の前で人が殺された。畦倉は己の不甲斐なさに震える。

「相棒！」

　骸骨の身体が弾け、畦倉の両腕へと取り付く。
　出来上がったのは、骨のガトリング。
　畦倉の意思とは関係なく腕が動き、銃口を合わせるとシャフトが高速回転。無数の骨が放たれる！

「─弾捨離！」

「だめだ、殺すな！」

　畦倉は叫んだ。

【つづく】