すべて僕の所為です
非常階段を駆け上がる。暗闇の中、等間隔にある緑の灯りが僕に唯一の現実感をくれる。
僕はポケットに指をねじ込み、鍵を探す。鼓動にあわせて指先が痛む。僕は歓喜と罪悪感が混ざり合った息を吐く。
やった。とうとうやってしまった。
初対面の女を殺し、その体に向け性を吐き出したのだ。
そのことを噛み締めると、また股間に熱が集まって行くのを感じる。
心と体が完全に割れている。
「もっと良い女に使えば良かったのに。あと3回しか使えないんだぜ?」
頭の中でリリスの下卑た声がするが、僕はそれを無視して玄関の扉を開く。
数年ぶりの外の空気は開放感があったが、慣れた自宅の空気は澱んでいて僕を守ってくれている気がする。
「あ、あんた」
もう限界だと思っていた心拍数が、さらに跳ね上がる。
廊下の先にいるのは、姉さん。
いつもならもう寝ているのに。なんてタイミングの悪さだ。
「あんた、外に出たの? どうして?!」
姉の表情は、驚愕から狼狽、恐怖、そして怒りへと目まぐるしく変わる。
「私が何回アンタのオムツを捨てたと思ってるの? 外で変なことはしてないでしょうね!?」
僕を罵倒する声が響く。
姉はどうやら風呂上りのようで、シャツ一枚にハーフパンツという格好だ。温められ朱色の姉の身体に視線が向く。
姉をそんな目で見るなんて最低だ。僕は何度も打ち消そうと頭を押さえ、気をそらそうとする。
「聞いてるの?! 本当に───」
気持ち悪い。
その言葉が最後の引き金だった。
どうして。
僕は姉さんに、助けて欲しかったのに。
姉さんの首筋。胸。股。視線をそらそうとしても、また飛び込んでくる。
「お、お前も───」
僕は金色に光る目で、姉のことを見た。
「僕の人形に、なれ!」
リリスが飛び出す。
やってしまった。僕は泣きながら、姉さんの魂に縋り付こうとする。
ぱくん。
リリスは、姉さんの魂をうまそうに頬張る。
「あ、ああ」
姉さんは、死んだ。
「あと二人だ」
リリスは粘つく笑顔で、そう言った。
【続く】