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【答案の書き方】民事訴訟法(08)|平成30年司法試験

今回は「平成30年司法試験 民事訴訟法」(採点実感)を読んで、答案の書き方を確認してみましょう。

(採点実感)
https://www.moj.go.jp/content/001281222.pdf#page=17


本問においては、例年と同様、受験者が、①民事訴訟の基礎的な原理、原則や概念を正しく理解し、基礎的な知識を習得しているか、②それらを前提として、設問で問われていることを的確に把握し、それに正面から答えているか、③抽象論に終始せず、設問の事案に即して具体的に掘り下げた考察をしているかといった点を評価することを狙いとしている。

○ 「基本的な原理・原則や概念」を正しく理解するとともに、「基礎的な知識」を習得する。
○ 「問われていること」が何かを的確に把握した上で、それに「正面から答える」。
○ 抽象論に終始せず、「事例に即して具体的に、かつ、掘り下げた考察」をする。


本年においても、問題文中の登場人物の発言等において、受験者が検討し、解答すべき事項が具体的に示されている。そのため、答案の作成に当たっては、問題文において示されている検討すべき事項を適切に吟味し、そこに含まれている論点を論理的に整理した上で、論述すべき順序や相互の関係も考慮することが必要である。そして、事前に準備していた論証パターンをそのまま答案用紙に書き出したり、理由を述べることなく結論のみを記載したりするのではなく、提示された問題意識や事案の具体的な内容を踏まえつつ、論理的で一貫した思考の下で端的に検討結果を表現しなければならない。採点に当たっては、受験者がこのような意識を持っているかどうかという点についても留意している。

○ 問題文には、「解答すべき事項」が具体的に提示されている。
○ 問題文において示されている「解答すべき事項」を適切に吟味する。(=問われていること①
○ 「含まれる論点」を「論理的に整理」し、記述すべき順番や相互関係を整理して論じる。(=問われていること②)
× 事前に準備していた論証パターンをそのまま答案用紙に書き写した答案
× 理由を述べることなく結論のみ記載したりする答案
○ 提示された問題意識や当該事案の具体的内容を踏まえつつ、論理的に一貫した思考の下で、検討結果を表現する。(=問われていること③)
○ 端的に表現する。


本年の問題では、例年同様、具体的な事案を提示し、登場人物の発言等において受験者が検討すべき事項を明らかにした上で、訴訟物、重複起訴の禁止、文書提出命令、補助参加等の民事訴訟の基礎的な概念や仕組みに対する受験生の理解を問うとともに、事案への当てはめを適切に行うことができるかどうかを試している。

○ 問題には、「具体的な事例」を提示した上で、「登場人物の発言」等において、「検討すべき事項」(=問われていること①)を明らかにしている。
○ 「民事訴訟の基礎的な概念や仕組み」に対する受験者の理解を問うとともに(=問われていること②)、「当該事案への当てはめ」を適切に行うことができるか等を試している。(=問われていること③


 設問3について、時間が不足していたことに起因するものと推測される大雑把な内容や体裁の答案が一定数見られたものの、全体としては、時間内に論述が完成していない答案はほとんどなかった。しかし、後記⑵イで指摘するもののように、検討すべき事項の理解を誤り、自分が知っている論点や論証パターンに引き付けて、検討すべき事項とは関係や必要がない論述を展開する答案や、検討すべき事項自体には気が付いているものの、問題文で示されている事案への当てはめによる検討が不十分であって、抽象論に終始する答案も散見された。また、そもそも訴訟物の理解ができていないなど、基礎的な部分の理解の不足をうかがわせる答案も少なくなかった。

× 時間が不足していたことに起因するものと推測される大雑把な内容や体裁の答案
× 「検討すべき事項」の理解を誤り、自分が知っている論点や論証パターンに引き付けて、検討すべき事項とは関係や必要がない論述を展開する答案
× 問題文で示されている事案への当てはめによる検討が不十分であって、抽象論に終始する答案
×そもそも基礎的な部分の理解の不足をうかがわせる答案


なお、条文を引用することが当然であるにもかかわらず、条文の引用をしない答案や、条番号の引用を誤る答案も一定数見られた。法律解釈における実定法の条文の重要性は、改めて指摘するまでもない。また、判読が困難な乱雑な文字や略字を用いるなど、第三者が読むことに対する意識が十分ではない答案や、法令上の用語を誤っている答案、日本語として違和感のある表現のある答案も一定数見られた。改めて注意を促したい。

× 条文の引用をしない答案
× 条番号の引用を誤る答案
× 判読が困難な乱雑な文字や略字を用いる答案
× 第三者が読むことに対する意識が十分ではない答案
× 法令上の用語を誤っている答案
× 日本語として違和感のある表現のある答案


× 事前に準備していた論証パターンを持ち出す答案
× 「設問に即した解答」をする上で必要のない論述をする答案



本年の問題は、訴訟物、重複起訴の禁止、文書提出命令、補助参加等の民事訴訟の基礎的な概念や仕組みに対する受験生の理解を問うとともに、事案への当てはめを適切に行うことができるかどうかを問うものであった。

○ 「民事訴訟の基礎的な概念や仕組み」に対する受験生の理解を問うている。
○ 「事案への当てはめを適切に行うことができるかどうか」を問うている。


これに対し、多くの答案において、一応の論述がされていたが、定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案、出題趣旨とは関係のない論述や解答に必要のない論述をする答案、事案に即した検討が不十分であり、抽象論に終始する答案なども、残念ながら散見された。また、民事訴訟の極めて基礎的な事項への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案が少なくなかった。これらの結果は、受験生が民事訴訟の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業をおろそかにし、依然としていわゆる論点主義に陥っており、個別論点に対する解答の効率的な取得を重視しているのではないかとの強い懸念を生じさせる。

× 定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案
× 出題趣旨とは関係のない論述や解答に必要のない論述をする答案
× 事案に即した検討が不十分であり、抽象論に終始する答案
× 民事訴訟の極めて基礎的な事項への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案
× 「民事訴訟の体系的理解」と「基礎的な知識の正確な取得」のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業をおろそかにしている。
× 依然としていわゆる論点主義に陥っており、個別論点に対する解答の効率的な取得を重視している。


試験に合格するため、より効率的な学習の方法を模索すること自体は、誤りとはいえないが、法律実務家に求められる素養は、基本法制の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得という地道な作業によってこそ涵養され得るものと思われる。法科大学院においては、このことが法科大学院生にも広く共有されるよう指導いただきたい。また、民事訴訟法は、現実の民事訴訟の手続の在り方のイメージがないままに学習を進めることは難しいと思われることから、実務をより見据えた指導の工夫も有益であろう。

○ 試験に合格するため、より効率的な学習の方法を模索すること自体は、誤りとはいえない。
○ 法律実務家に求められる素養は、「基本法制の体系的理解」と「基礎的な知識の正確な取得」という地道な作業によってこそ涵養され得る。
○ 現実の民事訴訟の手続の在り方のイメージを見据え工夫も有益である。


法学教育においては、基礎的な事項の正確な理解をし、具体的な事案に応じて論理的に展開する思考力の涵養こそが重要であると考えられる。このことは、例年、指摘されているところであるが、本年も、改めて強調しておきたい。

○ 基礎的な事項の正確な理解
○ 具体的な事案に応じて論理的に展開する思考力


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