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【答案の書き方】民事訴訟法(05)|平成27年司法試験

今回は「平成27年司法試験 民事訴訟法」(採点実感)を読んで、答案の書き方を確認してみましょう。

(採点実感)
https://www.moj.go.jp/content/001166215.pdf#page=24


 民事訴訟法科目では、例年と同様、受験者が、①民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を正しく理解し、基礎的な知識を習得しているか、②それらを前提として、問題文をよく読み、設問で問われていることを的確に把握し、それに正面から答えているか、③抽象論に終始せず、設問の事例に即して具体的に、かつ、掘り下げた考察をしているか、といった点を評価することを狙いとしており、このことは本年も同様である。

○ 「基本的な原理・原則や概念」を正しく理解するとともに、「基礎的な知識」を習得する。
○ 「問われていること」が何かを的確に把握した上で、それに「正面から答える」。
○ 抽象論に終始せず、「事例に即して具体的に、かつ、掘り下げた考察」をする。


 答案の採点に当たっては、基本的に、上記①から③までの観点を重視するものとしたことも、従来と同様である。本年においても、各問題文中の登場人物の発言等において、論述上検討すべき事項や解答すべき事項が一定程度、提示されている。
 そうであるにもかかわらず、題意を十分に理解せず、上記問題文中の検討すべき事項を単に書き写すにとどまっている答案、理由を述べることなく結論のみ記載している答案などが多数見受けられたところ、そのような答案については基本的に加点を行わないものとした。上記②に関連することではあるが、解答に当たっては、まずは問題文において示されている解答すべき事項等を適切に吟味し、含まれる論点を順序立てた上で、その検討結果を自らの言葉で表現しようとする姿勢が極めて大切である。採点に当たっては、受験者がそのような意識を持っているといえるかどうかについても留意している。

○ 問題文には、「論述上検討すべき事項」や「解答すべき事項」が一定程度、提示されている。
× 「題意」(=問われていること)を十分に理解せず、問題文中の検討すべき事項を単に書き写すにとどまっている答案
× 理由を述べることなく結論のみ記載している答案
○ 問題文において示されている「解答すべき事項」(=問われていること①)等を適切に吟味し、「含まれる論点」(=問われていること②)を「順序立て」た上で、その検討結果(=問われていること③)を「自らの言葉で表現」しようとする姿勢が極めて大切である。


3 採点実感等
⑴ 全体を通じて
 本年の問題においても、具体的な事例を提示した上で、上記のとおり、登場人物の発言等において、関係する最高裁判所の判決を紹介し、論述上検討すべき事項等を提示して、受験者の民事訴訟法についての基本的な知識を問うとともに、論理的な思考力や表現力等を試している。

○ 問題には、「具体的な事例」を提示した上で、「登場人物の発言」等において、論述上「検討すべき事項」(=問われていること①)等が提示されている。
○ 問題文で提示されている「検討すべき事項」(=問われていること①)等の検討を通じて、基本的な知識(=問われていること②)を問うとともに、「論理的な思考力や表現力」(=問われていること③)等を試している。


全体として、全く何も記載することができていない答案は少なかったが、上記問題文に示された最高裁判所の判決の内容や検討すべき事項等について、その吟味が不十分である答案、自ら考えた結論に向けての論述のためにその活用ができていない答案が数多く見られた。本問のような問題においては、典型的な論証パターンを書き連ねたり、丸暗記した判例の内容を答案に記載するだけでは、題意に応える十分な解答にはならないものであり、問題文をよく読み、必要な論述を構成した上で、自らの言葉で答案を書くべきである。

× 問題文に示された「最高裁判所の判決の内容や検討すべき事項」等(=問題文の指示)について、その吟味が不十分である答案
× 「自ら考えた結論」(=問題文の問い)に向けての論述のために「問題文の指示」の活用ができていない答案
× 典型的な論証パターンを書き連ねる答案
× 丸暗記した判例の内容を答案に記載するだけの答案
× 「題意」(=問われていること)に応えない答案
○ 「問題文の指示」をよく踏まえ、「問題文の問い」について、「必要な論述を構成」した上で、「自らの言葉」で書かれている答案


「優秀」な答案は、問われていることを的確に把握し、各設問の事例との関係で結論に至る過程を具体的に説明できている答案である。

○ 「問われていること」(=論じるべき事柄)を的確に把握している答案
○ 「論じるべき事柄」について、設問の事例との関係で(=事例に即した考察)、「結論に至る過程」(=論理の積み重ね)を、「具体的に説明」(=説明の具体性)できている答案


また、このレベルには足りないが、問われている論点についての把握はできており、ただ、説明の具体性や論理の積み重ねにやや不十分な部分があるという答案は「良好」と評価することができる。

× 「説明の具体性」(=事例に即した具体的な考察)が不十分な答案
× 「論理の積み重ね」(=事例に即して掘り下げた考察)が不十分な答案


これに対して、最低限押さえるべき論点、例えば、反訴請求債権の本訴における相殺主張の取扱いと予備的反訴の意義、その帰結(設問1)、不利益変更禁止の原則の意義と具体的な作用の仕方(設問2)、不当利得返還請求権の要件事実及び事案に即した既判力の作用の仕方(設問3)が、自分の言葉で論じられている答案は、「一応の水準」にあると評価することができるが、そのような論述ができていない、ないしそのような姿勢すら示されていない答案については「不良」と評価せざるを得ない。

× 「最低限押さえるべき論点」(=基礎的な知識)も押さえられていない答案
× 「最低限押さえるべき論点」(=問われていること)について、基礎的な知識に基づき自分の言葉で説明しようとする姿勢(=論理的な思考力や表現力)すら示さない答案


4 法科大学院に求めるもの
 例年指摘していることであるが、民事訴訟法科目の論文式試験は、民事訴訟法の教科書に記載された学説や判例に関する知識の量を試すような出題は行っておらず、判例の丸暗記、パターン化された論証による答案は評価しないとの姿勢に立って、出題、採点を行っている。当該教科書に記載された事項や判例知識の単なる確認にとどまらない「考えさせる」授業、判例の背景にある基礎的な考え方を理解させ、これを用いて具体的な事情等に照らして論理的に論述する能力を養うための教育を行う必要がある。

× 「教科書に記載された学説」(=論パ)や「判例に関する記憶の量」(=判例論パ)を試すような出題はしていない。
× 判例の丸暗記(=判例論パ)、パターン化された論証(=論パ)による答案
○ 「教科書に記載された基本的な事項」(判例知識を含む)を足掛かりにして、「自分のなすべき立論」を「考える」訓練をする。
○ 「判例の背景にある基礎的な考え方」を理解し、これを足掛かりにして、「具体的な事情等」(=問題文の事例)に照らして、「論理的に論述する能力」を養う。


 本年の採点を通じて改めて思うのは、民事訴訟法の授業の受講者は、他方で要件事実の授業を必修として受講していることを自覚的に意識して、教育をすることが望まれるということである。

○ 要件事実との関係も自覚的に意識する。


例えば、既判力が作用する場面には、訴訟物の同一関係、先決関係及び矛盾関係の三つがあるという説明は、通常、民事訴訟法の授業で行われていると思われる。現に設問3への解答においてほとんどの答案がこれに言及していた。確かに、例えば、前訴の確定判決が甲の乙に対する土地Aについての所有権確認請求を認容したもので、後訴が、甲の乙に対する土地Aについての所有権確認請求、甲の乙に対する土地Aについての所有権に基づく明渡請求、乙の甲に対する土地Aについての所有権確認請求といったものであれば、それはそれで正しい説明である。

× 「既判力が作用する場面には、訴訟物の同一関係、先決関係及び矛盾関係の三つがある。」という帰結ありきで、その論拠(=本質論)からの説明しようとしない答案(=設問で問われていることを的確に把握できない答案
○ 「既判力の生じた判断は、これを後訴で争うことができない。」という本質論(=基礎的な知識)からの説明をしようとする答案
○ 「甲の乙に対する土地Aについての所有権が存在すること」に既判力の生じた場合、これを後訴で争うことはできない。(=同一関係
○ 甲の乙に対する土地Aについての所有権に基づく明渡請求(後訴)は、「甲の乙に対する土地Aについての所有権が存在すること」を前提とするものである。したがって、後訴ではこの前提が存在するものとして審判がなされる。(=先決関係
○ 乙の甲に対する土地Aについての所有権確認請求(後訴)は、「甲の乙に対する土地Aについての所有権が存在しないこと」を前提とするものである。したがって、既判力の生じた判断を争うものとして、許されない。(=矛盾関係


しかし、既判力が作用する場面がそれらに尽きるものなのかどうかの検討を求めるのが、設問3なのであって、これに対する解答としてこの一般論を述べても無意味であり、評価に値しないのである。もっと単純に、前訴の確定判決が甲に対する100万円の支払いを乙に命じたもので、これに基づき、乙が甲に支払った100万円について、これを不当利得として、後訴において乙が甲に対してその返還を請求したという事案を例にとると、民事訴訟法の授業では、往々にして、これを矛盾関係だから既判力が及ぶのだと説明して済ましてしまいがちではないかと思われる。

△ 乙の甲に対する不当利得返還請求(後訴)は、「甲が乙に対して100万円の給付請求権を有しないこと」を前提とするものであるから、既判力の生じた判断を争うものである。したがって、乙の甲に対する不当利得返還請求(後訴)は認められない。(=矛盾関係


しかし、受講者は、要件事実の授業において、不当利得返還請求の要件事実は、利得、損失、両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないこと、であることを思考の出発点に置くよう訓練されているのであるから、民事訴訟法の授業としても、前訴確定判決の既判力はそれらの要件事実のうちどの事実の主張を遮断するのかについて説明をしなければ、実務家の卵に対する教育として不十分であると考えられる。

○ 乙が後訴でする「利得、損失、両者の因果関係及び利得に法律上の原因がない」という主張は、「甲が乙に対して100万円の給付請求権を有しないこと」を前提とするものである。したがって、既判力の生じた判断を争うものとして、許されない。(=矛盾関係


 また、設問1を採点していて実感したのは、解除条件の意義を正しく理解していない受験者がいたことである。民法総則から始まる法学部の授業と異なり、多くの法科大学院では、民法についてパンデクテン・システムを解体したカリキュラムが組まれている。もちろん、各法科大学院においては、民法総則の中に置かれた諸制度のうち、例えば代理は契約の締結の箇所で、時効は債権の消滅及び物権の取得の箇所で、適切に学習の機会が設けられていると思われるが、期限、条件、期間といった基礎的概念を学生が実質的に理解する機会が十分に設けられているか、改めて顧みていただきたいところである。

○ 基礎的な法概念(解除条件など)をきちんと理解しておく。


5 その他
 毎年繰り返しているところではあるが、極端に小さな字(各行の幅の半分にも満たないサイズの字では小さすぎる。)、潰れた字や書き殴った字の答案が相変わらず少なくない。司法試験はもとより字の巧拙を問うものではないが、心当たりのある受験者は、相応の心掛けをしてほしい。また、「けだし」、「思うに」など、一般に使われていない用語を用いる答案も散見されたところであり、改めて改善を求めたい。

× 極端に小さな字、潰れた字や書き殴った字の答案(=読み取れなければ、読み手は理解できない。
× 各行の幅の半分にも満たないサイズの字
× 「けだし」、「思うに」など、一般に使われていない用語を用いる答案


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