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【今日の1問】民事実務基礎(12)|判断の枠組み③

本日は「令和4年予備試験 民事実務基礎〔設問3〕」を解いてみましょう。

(問題文)
https://www.moj.go.jp/content/001376762.pdf#page=2


(答案例)

第3 設問3について
1 XとYが本件契約を締結した事実を直接証明する証拠としては、Xの供述がある。
2 Xの供述の信用性
⑴ 本件見積書①から「本件工事の報酬として1000万円の見積金額が提示されていた事実」を認定することができる。これよれば、XとYが報酬1000万円の契約を締結した事実が推認されるので、Xの供述の信用性が認められる。
 これに対して、本件見積書②から「本件工事の報酬として700万円の見積金額が提示されていた事実」を認定することができる。これによれば、Xの供述に信用性は認められないことになる。
⑵ 両者の供述から「本件工事として外壁工事が施工されている事実」、「本件見積書②には外壁工事に関する部分の記載がない事実」を認定することができる。これによれば、本件契約は外壁工事を含むもの、すなわち、本件契約の見積書は本件見積書①であったとみるのが自然である。
⑶ 両者の供述から「Yが本件見積書①を銀行に提出している事実」を認定することができる。銀行融資は本件工事の費用についてのものであるから、事実と異なる見積書を提出して融資を受けようとすることは通常考えにくい。それゆえ、本件契約の見積書は本件見積書①であったとみるのが自然である。
⑷ 両者の供述から本件見積書②は同①と同時に交付された事実を認定することができる。そして、外構工事について賃貸人の承諾が得られない場合に備え、外壁工事の項目を除いた見積書(本件見積書②)も作ってほしいと頼まれることは何ら不自然ではない。
⑸ したがって、Xの供述の信用性が認められる。
3 よって、XとYが本件契約を締結した事実が認められる。


【MEMO】

◆提出された証拠から認定することができる事実

  • 本件見積書①から「本件工事の報酬として1000万円の見積金額が提示されていた事実」を認定することができる。←Xに有利

  • 本件見積書②から「本件工事の報酬として700万円の見積金額が提示されていた事実」を認定することができる。←Xに不利

◆両者の供述から認定することができる事実

  • 本件工事として外壁工事が施工されている事実、本件見積書②には外壁工事に関する部分の記載がない事実を認定することができる。

  • Yが本件見積書①を銀行に提出している事実を認定することができる。

  • 本件見積書②は同①と同時に交付された事実を認定することができる。


(出題趣旨)
https://www.moj.go.jp/content/001386520.pdf#page=20

(参考文献)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/shihoukensyujyo/304jirekan-honbun.pdf#page=40


(コメント)

  • 本件事案の証拠構造は、「③直接証拠である類型的信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある場合」(参考文献35頁)です。その関係で、問題文には「冒頭に、XとYが本件契約を締結した事実を直接証明する証拠の有無について言及すること」という指示があります。そのため、答案例でも「1」の記載から書き始めています(判断の枠組み③)。

  • 問題文には「提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて」という指示があります。Xが令和3年の年末頃に「700万円程度でできる」と言ったか否か、Xが本件見積書①を交付する際に「1000万円を下回る報酬額で請け負うのは難しい」と話したか否かは、これにあたらないので、答案例では記載していません。

  • 問題文の問いは「XとYが本件契約を締結した事実が認められる」という結論になる準備書面の内容を記載しなさいということです。そのため、この問いに答える上で直接必要な記載は、上記要証事実の「本証」の記載です。Xが本件見積書②を交付する際に「外壁工事分はサービスする」と言ったか否かは、Yの「反証」を基礎づける事実ですが、「反証潰し」に成功しても「本証」に成功したことにはなりません。そのため、答案例では「本証」の方を優先的に記載しています。

  • 問題文には「1頁程度の分量で」という指示があります。そのため、「反証潰し」を記載するとしても、要を得て簡潔なものにとどめるべきでしょう。

  • 判断の枠組み②③は毎年交互に出題されています。令和5年は②でしたので、令和6年は③でしょう。

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