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『カタン』というゲームでコミュニケーションを学ぶということ|⑥


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この記事は僕が寄稿し、メンヘラjpより公開された『自閉症スペクトラムの僕が『カタン』を通じてコミュニケーションを学んだ話』という記事を改めて編集したものです。詳しくは『メンヘラ.jpに投稿した記事をアーカイブする』を参考にしてください
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数年前の話になるのですが『カタン』というボードゲームを買いました。

これは毎年ある定例の親戚集まりのためでもありますが、一番に個人的にやりたいと思ったからです。以前友達の家でボードゲーム(『ニムト』や『アグリコラ』など)に触れて「いつかやってみたいなぁ」と思っていたからでもありますね。

まぁ僕の話は置いておいて。そのボードゲームをやったところ、とてもおもしろくて、皆さんにおすすめしようとこの記事を書いています。

「カタン」というボードゲーム

僕は知らなかったのですが、このカタンというボードゲームはググってもわかるように「人生ゲーム」の次に有名なアナログゲームだそうです。ボードゲームを始めて初めて触れたのがこのカタンって方も多いようで、これのせいでボードゲームの虜になった方ちらほらいらっしゃるようです。それほどまでにおもしろいとか。おもしろかったです(個人の感想です)。

ここでカタンのルールをざっくりと説明しますね。

無人島に到着したプレイヤー4人が島を開拓します。同時に開拓を始めて、最初に開拓ポイント10点に到着したプレイヤーが(島を制圧したということで)勝利となります。ポイントは開拓したり、道を長くしたり、騎士を集めたり、都市を作ったり、カードで加算されたり、など色々手段がありますが、それは各自ルールブックを見てください。

そんな感じで、4人で競い合いながら勝利を目指すわけです。3〜2人でもプレイできますが個人的には4人数推奨です。

さて、カタン最大の特徴であり大きな魅力の一つに「交渉」があります。

カタンの「交渉」というのは「○○大量に余ってるから誰か交換しない?」「○○と××交換やる人いる?」などやりとりをゲーム中に行うものです。プレイヤーは同じ土俵に立つライバルに向かって資材の交換を行うんですよね。これは場面さえ守っていれば誰もが自由に行ってもよく、もちろん拒否だってできます。

ソロプレーでもなんとかなるんじゃ……と思われるかもしれませんが、街道なり開拓地なり作るにしてもバランスのよい資材が必要だというのに、ほぼ必ず資材は偏るようなゲームバランスになっています。よって必然的に「木材多い」「小麦が多い」とそれぞれのプレイヤーは頭を抱えることになるんです。

そこでこの「交渉」を使うと「木材多いから小麦と交換しよ!」となるわけです。交渉1つにしても戦略性があり、自分が有利なのか、相手が有利なのか考えながら発言するというのはゲーム性があります。ちなみに交換も1:1交換と決まってなく、2:1交換になったり3:1でもいいです。これがいい感じの会話になって、かなり盛り上がるんですよ。

勝利を求め交渉をするということ

ここですこし視点を離します。この交渉、自閉症スペクトラムに(僕が自閉症スペクトラムだから自閉症スペクトラムと書いてあるだけで、他の発達障害にも効果がると思いますが、ちょっと断言できないためこう書いています)いい影響があると思うんですよ。

よく自閉症スペクトラムは人に頼むのが苦手だと聞きます。その理由を考えると自閉症スペクトラムは「頼み」ができるほど「口がうまくない」「愛想がよくない」などいろいろ理由が頭に浮かびますが、結局のところ対人のコミュニケーションの障害を持つため「頼み」が苦手なのだと個人的に捉えています。

ただこの「頼み」の本質、実は「交渉」なのではないかと思うんですよね。

相手の様子を伺いながらこちらの必要な条件を伝える……あの「お願い事してる時の空気」が苦手で言葉が詰まるとしても、「交渉」と考えてみれば言葉が出てくるイメージが湧きませんか。

ただお願いしている特有のなあなあを感じると交渉は泣き落としぐらいしか効果的な手が思い浮かびません。一方で交渉となると「これを渡せばどうだ」「そもそも相手はなにを欲しがっているんだろ」「自分でなんとかできないか?」「どこまで手伝ってくれるだろう」「いまタイミングが悪いな」などいろいろ頭に浮かびます。

このいろんなパターンが思い浮かぶ、というのが大切です。いっぱい見えて混乱するかもしれませんけど、何も見えていないよりは遙かにましです。選択肢が生まれているわけですから、それが大切なんですよ。

交渉というのは「自分が利益になる」ように行わなければなりません。損を少なくする交渉もありますけど、基本は自分がいいようにするために相手と対話することを指します。そのためには「自分のほしいものを明確にする」次に「相手のほしいものを考える」そして「相手に提案をする(しかも相手に利益があるように)」で、成功するあるいは失敗する……。

この「交渉」を簡易的にできるボードゲームがあるらしいですよ。カタンっていうんですけど。……って冗談は置いておいて「頼みとは交渉ではないか」と考えた上で「交渉」をよくするカタンでは結果的に「頼みをするいい練習になるのではないか」と思ったわけです。

いい教材として

交渉に限らず、自分が優位になろうとすると(沈黙したほうが有利になる場合もありますが)だいたい自分から発言しなくては勝てません。それが話を切り出すいい練習になると思います。加えて書くなら自閉症スペクトラムからしてみれば「対人で発言すること」すらもいい練習になると思います。

一方で発言された場合、なにか提案を受けた場合には「どうするか」を判断しなくてはなりません。判断力もここで練習できますし、なにより断る場合には「断る」ことの練習になると思います。断ることも大事ですからね。

カタンに限らずボードゲームは顔に出してはならないよう(有利だと悟られてはならないように)立ち回らなくてはなりません。それはつまり「生真面目な正直さは不利」ということです。周りに合わせて、周りを伺う練習になります。

自閉症スペクトラムは基本正直なので、「◯◯何枚持ってる?」と聞いたら正直に答えてくれるかもしれません(大体のゲームは手札は非公開です)。けれどもそれでは不利になるし、なにごともバカ正直に喋ってると「不利になることもある」なんなら「騙されることもある」という前例を実践で学ぶこともできるかもしれません。

ゲームこそ大人から見ればお遊びみたいなものですが、やってみるといろいろ(子供は特に)学ぶものが多く、あの桃鉄で地理を覚えたり、信長の野望で歴史を知ったり……など、そうった「遊んでいるうちに覚えてしまった」的なものがボードゲームにもあると個人的に思います。

じゃなにが学べるのか、と言われたら具体的に「これ!」と挙げれないのですが……、僕の感覚的にいうとテレビゲームよりかは「現実寄り」なものが学べると思うんですよ。現実的な対人スキルのようなものです。

僕はカタンをやったきり、このボードゲームというものを一種の教材として利用できるのではないかと思ったわけです。

ツールとしてボードゲームと選択する恩恵

教材として使えるとは書いてありますが、「教材としてボードゲームをしよう!」と言っているわけではありません。そんな堅苦しいボードゲームなんて楽しいものも楽しくないです。基本は楽しむことが一番です。

仮に教材として考えなくとも、そもそも「交流するツール」としてボードゲームを考えるのは十分にありだと思います。

僕やってて「自閉症スペクトラムとボードゲームは相性いいのでは?」とよく思うんです。だから例えば普段は喋らないで一人でいる子とかそういった人たち、あるいはその孤独な本人が交流する手立て(本人が対人と交流を望んでいているとして、けれどもなにからすれば良いのかわからないときなど)のボードゲームこそ最高のツールになるのではと個人的に考えたりしています。(「個人的に」ですからね、何事にも相性があります)。

そもそも自閉症スペクトラムがコミュニケーションが苦手だという理由は、「相手がなに考えているのかわからないから」という理由が大きいと思います(個人的にはそうです)。

この回答がボードゲームにあり、ボードゲームは基本だれであろうと「勝ちたい」という意思で動いています。これはゲームだからで、ゲームだからこそと言えるわけなのですが、そのシンプルな前提というのが(少なくとも僕にとって)とてもありがたいんです。

よくよく考えてみると、ボードゲームのいいところは日常にある雑談特有の不完全さ、不透明ある自由度がないところにあります。

みんな「勝ちたい」と思って「勝つために」いろいろ交渉や嘘やハッタリをかましてきます。それがわかりやすくていいんですよ。その先に複雑な感情が何もないわけですから(あるいはある場合もありますが)、無駄なあれこれを考えないでゲームに集中できるわけです。そしてこちら側も「勝ちたい!」をシンプルにぶつければいいところもわかりやすい。

加えて「基本ルールさえ守ってればいい」ってところもいいですよね。自分はルールを守っていればいいし、相手が間違えてたら気軽に指摘ができます。そこに嫌らしさもなければ、足を引っ張ることもありません。たまにルールで揉めたりすることもあるかもしれませんが、有名なボードゲームはルールが決まっているので、話し合いながらそれを守っていけばいいと思います。

逆に言えば「ルールさえ守っていれば」勝つために様々な戦略が練れますよね。それはえげつない戦法でもよく、(さすがに度を超えた初心者狩りや、過度な煽り、感情的にプレイヤーを襲うなどはダメだと思いますけど)、そういう環境が自閉症スペクトラムにとっておもしろい環境となり、結果としてプレイヤーの表現を豊かにしてくれるかと思います。

おわりに

最後に注意しておきますが、もしボードゲームをするなら周りプレイヤーのレベルに合わせたボードゲームを選択してください。(幼い子に対して)ルールが複雑すぎとか、(計算が苦手な子に対して)早く計算ができないと不利、(反応が早いほど強いゲームで)反応が遅いと不利、などそういったゲームを選択してしまうとコミニケーション取ろうと思っていた相手を失望させかねません。

反射神経を重きにおいたゲーム、心理戦や読みに重きをおいたゲーム、カスタマイズ性のある戦術的なゲーム、嘘やハッタリをうまく付くことに重きに置いたゲーム……人数も柔軟に対応します。2人用、3人用、4人用……中にはプレイヤー同士で協力するボードゲームもあります(やったことないですが『パンデミック』など)。

これら僕は詳しくないので紹介できませんが、他のサイトを見ればたくさん載っているので気になる方は各自調べてください。

ルールを学ぶことでどんどん強くなる「成長感」、ルールさえわかれば真剣に勝負できる「勝負のドキドキ」、そういったものはとても楽しいです。仮に勝てなくても、無駄だと思っていた能力が活きるのもゲームの醍醐味だったりします。日常で役立たないけど、ゲームでは役に立ったみたいな満足気な感情も大事です。勝敗をではないこうった小さなところに、自己肯定感やら自信やら育つヒントがあると僕は思うんですよ。

でもゲームである以上、勝つのが一番たのしいです。


追伸:
写真はフリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)より、
透明なサイコロのフリー素材 https://www.pakutaso.com/20121130307post-2094.html

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