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軸装/薄紙を継ぐ技 サイエンス伝統工芸カフェ

2020年12月12日(土)
「掛け軸ってなに?サイエンス伝統工芸カフェ」を開催しました。

表具という超絶技巧と美しさの風圧にやられた。

雲間に新しくかかった軸を表装してくださったのが
◎美術表装 鬼笙堂
広島県広島市安芸区阿戸町という里山の中にあり、築126年の古民家の蔵を改装した二階建ての表具工房。
そしてそこを含む周辺の場所が、農林自然とアートの一体化・・・「文化」を創り育て伝える拠点としてすこしずつ始まろうとしています。

その鬼笙堂併設cafe「ku-ga」から出張大人カレーが雲間に登場。
まずは腹ごしらえ。
掛軸を眺めながら本格大人カレーをご堪能いただきました。

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140歳古樹ディンブラの茶と茶葉で作った「茶なマサラ」が登場。シェフ天才。めちゃうまい。

いよいよサイエンス伝統工芸カフェが始まります。

話し手は表具師の中山なぎさん。
雲間の軸がどのように出来上がっていくのか、その経過を写真や動画を交えて教えていただきました。

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「祝婚歌」の世界観を増幅するような布選び、デザイン、裏打ち・・
いやあ、知らなかった・・・
紙を幾層にも貼ってある、くらいの認識しかなかったが、考えてみれば軸は巻くものだ。貼り重ねていって厚みが増していけば巻いたときに不具合が生じる。
「内輪差って知ってる?」サイエンスポイント登場。
巻いて保管することを前提とすると、紙の厚さは均一にしたい。しかしどう考えても4種類くらいの布や紙の重なりがある。そこは切りついだり、くり抜きをしたり、糊代数ミリでつないでいくのだ。
裏から貼っては切り抜いて貼っては切り抜いていくので、表から見たらどんどん標高が下がっていくような重なり。

さらに「そこも!?」「そんなとこまで!?」という細部にまで仕事がされている。もうあっけにとられてしまう。

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そして伝統工芸というのは究極の分業制で、あやうく成り立っているという現状も知る。
裏打ちに使う極薄の和紙の職人さんが無形文化財になられ、紙が市場に出回らなくなって困った、とか。そのパーツを作る人がいなくなったらたちまち生産できなくなる。替えのききにくい専門性と携わる人の希少さ。
それは掛軸の世界だけでなく伝統工芸周辺の今なんだ。

掛軸って、実家とか田舎の家とか行くと床の間にかけてあって、なんか中国あたりの山水画みたいなやつで、下の両側に石とフサがぶらさがってて、その脇には博多人形とか刀剣とかいろいろ飾ってあって。
そんなイメージでした。

和室も床の間も絶滅しそうな今、掛軸を担ってるのは茶道界くらいのものかな。それでは表具の仕事も減っていくだろう。

しかし今回、恩師の手紙をどうにかしたいという思いが叶って、自分の店に軸としてかけてみて、こんなに美しいものはないなと思った。
床の間でなくても、空間をドラマティックにしてくれる装置として、もっと注目され生活にあるべきだと思った。

いつだったかなぎさんが指令をうけて京都の布屋さんにいったら、
「これだけの予算でいいと思う布を好きなように買ってこい」というおつかいだったそうだ。なんという勉強。

その指令を出したのは鬼笙堂の親分にして絵師の船田奇岑画伯。

「あのね、文化って港町に興ってるのよ」
外から流入してくるものが混ざり合い変化して発展を遂げていったと。
彼女のようなセンスの選ぶ布はやっぱり違っていて、そういうことが大事なのだと。

後半は奇岑画伯ご持参のお宝が次々雲間に掛けられました。
「美術館以外で掛けるのははじめてかな」
ええええええ

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軸を掛け下ろすって、なんという演出だろう。
その瞬間、どんっ、という風圧感じた。
わからないのに、総毛立つ感じ。すげえ。
掛け変わるごとに店の空気が一変する。

やがて話は「美しい」ってなんなんだ、ということに。
絵を見たり音楽を聞いたりするときの美しさ、心地よさにはなにか「基準」があるのだろうか。詳しく勉強しないとそれはわからないものだろうか。
掛軸のこと、超絶技法をなにも知らなかったとしても、あの風圧はだれもが体感したと思う。それはなんでだ?

官能
つまり、すべてはそういうことなのではないか、と。
お茶だってそうだ。
なんじゃこりゃあ!というそれに打ちのめされるから沼に沈むんだ。
本来わたしたちにはみな備わっている。美しさセンサー。

センサーが反応し、血圧が上がり、紅潮し、血がめぐり、
生きてるって感じられる
そんな美しさを拝見しました。はぁ・・・・

広島市はこの日から来年1月3日まで外出自粛を要請し、公共機関を一斉に閉館、イベントは中止に踏み切った。
ギリギリのタイミングだった。
しかしやってよかった。この余韻で年を越せる。
生きている限りこの喜びを求めるのは自然なことだ。来年もまたぜひ。
ありがとうございました!



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