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2021.7.28〜8.21 店の天井から雨漏りしてしーんとなった話

うちの店は小さいビルの1階で、上には賃貸の人と大家さんが住んでいる。
だから雨漏りするとは思わないじゃないですか。
それが天井からぽたりと背中に。つめてぇな、アハハンですよ。

7/28(水)店をひらいてすぐ、ほんとうに懐かしい、1年以上ぶりにいらしたお客さんと嬉しく話していた。と、ぴちっと冷たい感じが。
エアコンから水かな、と思っていると てん てん と天井から水がしたたり出した。お客さんには席を移動していただきつつ「あらー雨漏りかな」なんてそんなわけないですよね外は猛暑のカンカン照りなのに。何の水だよ。心の中で冷や汗が吹き出る。すぐ不動産屋さんに電話しなくてはというその日に限ってお客さんが途切れず、どんどん水のしたたりも大きくなるがそこにバケツを置こうものなら「ピチャン!」という音が店中にこだまするだろう。ここは自然にさりげなく滴下するままに・・・テーブルと床がしっとり水たまりになってゆく。
「あ、いらっしゃいませ、あーそこはちょっと雨漏りしてましてこちらのお席へ」などと言いながら結局閉店時間となった。

不動産屋さんはいい加減で「大家さんに直接電話してくれるー」
大家さんは「今外じゃけえ明日なんとかするわー」

しかたなく滴下するそこにバケツ置いて店閉めて帰った。

翌日11時に工事の人が入るということで10時くらいに店開けてみると
滴下場所が増えてる!!!
入り口直上から滝のように。台所流し上からも。バケツも満杯だ。
おおぅ・・・・
しばし座って呆然とする。店中にピチョンピチャンテンテンピチョンピチョンここは雨の森なのかな?

工事の人到着。原因は3階大家さんちの給湯器の給水管にピンホール。2階の空き家をびしょびしょにしてうちの店まで水浸しにしたらしい。
水は止まった。滴下もしなくなった。あとは天井の乾燥だ。
入り口天井に点検口を作り、店中の開口部を開け、サーキュレーターまわして1週間。店は休みだな。

ちなみに自分の店の保険では漏水によって壊れたものにしか保険が効かず、本が数冊よれよれになったくらいではなーんにも補償がなかった。
大家さんちもテナント保険的なものには入っておらず、とはいえ迷惑かけたけぇ休業分は補償させてもらうわということでちゃっと振り込んでくれた。

不慮の休業、天井の水の輪染みを眺めながら、店を閉じることを思った。

店を開く時って、無知でも無茶でもなんだかんだ勢いがあってどうにかなった。みんなからはおめでとうと言われるし、これからのことにワクワクしながら足りないものを足していくのは楽しいばっかりだった。

しかし店を閉めるというのはなんとしんどいことだろう。

「あのね、結婚するときよりめちゃくちゃ大変なのよ、離婚すんのは」
と言っていた友人を思い出す。

この什器や茶器や、5年で増え続けたこのモノたちは自宅に引き上げるのだろうが入りきるのか?テーブルはエレベーターに乗らんぞ?漆喰で塗り固めた壁を事務所仕様に戻すのにはどんだけかかるのだろう。誰か居抜きで入ってくれる人を探したいが。

店を閉めるめんどうくささにうんざりしつつ、
で、店やめてどうすんの?と。
店やめて、なにして暮らすつもりなの?
まったく、なんにも、想像できなかった。
店やめたいの?
そもそもなんで店開いたの?
べつに喫茶店をひらくのが夢だったわけじゃなかった。
ただ、お茶を飲みながら目を輝かせてみんなで話す場所が作りたかった。
去年からコロナのせいでそれは思うようにできていない。
しかたない、いつかまた、そうやってじっとしてる今、店をやめるなんてあんまりだ。いつか店はやめるんだろうけど、それは今じゃない。やめるときはなんか満足してはーおもしろかった!ってやめたい。とは思うけど、水害で、土石流で、突然全部失うみたいな方も多いわけで、失意のうちに諦めざるを得ないこともあるんだろう。

死ぬのも一緒か。
子や孫に見守られながらはーおもしろかった!って死にたいけど、死に方だけは自分で選べない。

50歳、まだ死なないつもりだけど、そうやっておしまいを考えることの方が多くなった。これから何になろう、どうしていこうみたいな未知へのワクワク感はいつのまにかなくなって、暗く冷たい点ばかり見ている。

17年一緒に暮らした息子が、もしかしたらもう来年から離れてしまうかもしれないという事実も、悲しさを助長していると思う。
彼の人生はこれからやっと彼のハンドリングで始まるわけでそれは素晴らしいことだしどこにだって行ったらいい。そう頭ではわかっているのに寂しい。

東京オリンピック2020
テレビをつけるとあらゆる日本人選手の活躍が華々しく報じられていた。
スポーツにあまり興味もないしこんな時期に強行することに怒りすら感じていたが、人生をかけて鍛錬した選手の最高の集中というのは見ていて心地よい。わーわーいう高揚感でいろんなものが霞んだ。

息子を歯医者に連れてったり、母と買い物に出かけたり、壊れたMacBookをクイックガレージに持ってったり、些事であっという間に時間は過ぎ。
猛暑のおかげで店の天井もすっかり乾いた。
と思ったら、終わる五輪を惜しむかのように、日本の周りに禍々しいうずまきがいっぱいできて、そこから止まない雨が降り始めた。

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店を再開するとしてもコロナの感染者は広島でもみるみる増えてる状況で、喫茶は当分お休みだなテイクアウト何にしようかなと考えてたときは酷暑で、キリッと冷え冷えドリンク考えて店開いたら秋だったよね。豪雨だよね。もはや素足にサンダルは寒いよね。

抹茶トニック
白桃ウーロン
うまいよ
でも
熱いお茶がうまいよ。

オリンピックが終わったら、まあ想定内だったけどコロナ感染の危機ばかりが叫ばれるようになった。まだワクチン打ててない50代以下の感染が増え重症化していると。いつ終わるかと待っていた1年半、ここに来ていちばんやばいじゃん。警報でてるし豪雨だし店閉めて盆休みとする。

豪雨が止まないお盆なんて人生で初めてだ。
この辺りの墓では安芸門徒の風習でカラフルな色紙で作られた盆灯籠を供える。ちなみに初盆のところは真っ白な灯籠。墓参りに行き白い灯籠が並ぶ墓を見たらああ今年亡くなったんだなとしみじみする。
しかしこの雨に打たれ、骨だけになった灯籠が立ち並んでいた。
濡れないようにビニールをかけたのは水の重さで首から折れていた。
線香も消えそうな雨の中で先祖を迎える。

思わぬトラブルで店閉めて暇になった時間を埋めるようにずっとTwitterのタイムラインを繰る癖がついていた。オリンピックは中止しろコロナ病床が逼迫してるネコチャンかわいい桃のうまい食べ方あいつは許せない政治は死んでる国は弱ってる保護猫洗うお茶うまいとにかくあらゆる罵詈雑言がなだれこんでくる。なだれこんでくるままに溺れるように知らない人の吐き捨てた言葉を飲んでいた。さみしさや、どうしようもなさを紛らわせるのにちょうどよかったんだろう。言葉を飲んで飲んで溺死していた。

お盆休みは家族が近くにいて、ぼんやり一緒に過ごすことが多かった。
携帯から目を離して、今をよく見ていたいと思った。やっと息が吐けた。

お盆休み明け、ドゥジエムさんの花のレッスン。
毎月第二木曜だけど今月だけイレギュラーにお盆明け。秋の花が揃うから。

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花のレッスンはたいがい花材が決まっていてそれをいけるのだが、うちでは花屋の店頭さながらいろんな花や枝や葉が並び、そこから自分でいけたい花を選ぶところから始まる。好きな花瓶を選んでいける。

みなさんが迷いに迷い選んで席に戻って切ったり抜いたりしながらいける間、ドゥジエム山村さんと話す。花の産地、最近の花の状況、花のプロから聞く話はおもしろく、みなさんも手を動かしながら耳を傾けている。

しかし今回は休み明けの感覚が戻りきらず、ぼーっと黙っていた。
みなさんがいけるのをぼーっと見ていた。

あ、花瓶が細長いからすとんと中に落ちちゃうんだな
難しそうだな
あっちの花瓶は開いてるからボリュームがつくりにくいんだな
花を追加しに行って 足した うまく止まった

なんか、見てるって、いろんなことがわかるんだなぁ。

8/19は「ハイキュー!!」の日だった。
主人公の日向翔陽が呼ばれてもいない宮城県選抜1年生合宿に押しかけたとき、ボール拾いしかさせてもらえなかった。
いつも自分がスパイクを打つことしか考えなかった翔陽は
「いつもと同じ目線じゃ駄目だ いつもと同じ考え方じゃ駄目だ」
と探し続け、コートの中には情報がいっぱいだと気が付く。

って原作コミックで100回くらい読んでいたのに自分はできてなかったね。

ちょっとその感じがわかったような。ボール拾いなめんなよ、だね。

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力がぬけたのか、ようやくなんか書こうと思えるようになって書いた。
自分の言葉にひさしぶりに会った感じ。よう、元気だった?

しーんと、ぼーっと、よく見る時間が必要だって、よくわかった夏。




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