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選挙野郎!!衆議院議員選挙の参

「清弘さん、今日は、ポスターへの両面テープ貼りとチラシへの証紙シール貼りをしてくださいね。夕方の駅頭で撒きますから。あ、緑の団地へのポスティングも頼んますわ。あとで団地まで送りますから」村野が僕の前にチラシの山をどかっと置いた。

それが聞こえたのか「村野さん、もう証紙シールがないからね!!」事務室の中から秘書の田村伊智子が叫んだ。地獄耳なのだ。

「ええええっ!ほんまですかぁ。ほな、このまま撒かなあかんわ」

「このシールって何ですか?」

「証紙っていって、選挙管理委員会から配布されるんですけど、かなりの数はくるけど、いつもチラシは多めに刷るんですわ。シール貼ってないチラシやポスターは選挙違反になるんですよ。うーん…しゃあないな、清弘さん、このシール貼ってないのを団地のポスティングに使っちゃいましょう」

すると、地獄耳・田村が事務室から慌てて出てきた。

「村野くん、こないだ、野宮のとこの奴らが駅頭で、こっちの写真撮っててさ、“ボランティア以外の者がチラシ撒いてる”ってチクられたばっかりじゃん」

「はぁ…。でも、いっつもやってますやん。選管かていい加減やし、それに団地にポスティングしても団地の人たちはお年寄りばかりやから違反ってわからしまへんやろ」

「そうだけどね…でも、充分に気をつけてやってよ」

「はいな」

田村があきれ顔で事務室に戻って行く。

「ったく、うっさいな、違反なんか、どっこもやってるやんか」と田村に聞こえないような小声で呟いた。

「清弘さんが新顔だから用心してるんやろ」

「これって違反なんですか?」

「そうですけど、こんな細いこと誰も何も言いまへんよ。ポスターもだいぶ余ってるし、どうしよっかなぁ…まいいや、清弘さん、あるだけ貼って下さい」

村野は選挙屋だが、政治家になることを目標としていない。

「実は僕、投票に行ったことがないんですよぅ」と強い関西訛りで言って笑った。

「でも翁議員の秘書をやっているじゃないですか。翁さんの票は入れるでしょう?」

「僕は政治家の再選や政治家になりたい人を当選させるための秘書なんですよぉ。選挙期間に限定した臨時秘書なんです。だから全国どこでも立候補者がいれば、そこまで出かけていって臨時秘書になるんです。そして確実にその立候補者を当選させる。でもね、投票なんかには興味がないんです」

「翁さんにとって、村野さんの1票は大事じゃないんですか」

「僕の1票なんか大事じゃないですよ。僕の1票で翁さんが当選するわけじゃないですやん。僕は翁先生の選挙秘書として、有権者の方々に翁先生がこの国にとって必要なのだということをアピールしたいんです。それで先生が当選すれば僕の株も上がります。全国での選挙時に臨時秘書として使って貰えることにつながるんですよ」

ーーなんだ、結局、自分が選挙屋として仕事したいからじゃねぇか…と心の内で呟く。

確かに村野は千葉に住んでいるが、日々、全国を飛び回って、各地の立候補者の選挙秘書として活動している。当然、彼は、千葉以外では投票できない。そのうちに地元の千葉の選挙応援でも平等に投票をしなくなったのかもしれない。

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