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贅沢懺悔 「成田 川豊<2016年 私の食べログより>」



貧乏だから今年の土用の丑の日には鰻が食べられなかった。無職になる前は、毎年船橋の稲荷屋で鰻重を食べていた。それこそ習慣になっていた。今考えると贅沢な話だ。魚嫌いのかみさんは鰻を食べられなかったのだが、はじめは顔をしかめながら食べていた彼女も年を追うごとに鰻が食べられるようになった。今じゃかみさんの好物のひとつまでになっている。食習慣とは恐ろしいものだ。

今年の土用の丑の日は仕方がないから「うの付くもの」ってなことで冷凍うどんを食べた。スーパーで買ってきた398円の天ぷらセットをのせてかみさんと二人で仲よく食べたのだった。

気になることがあった。丑の日の前日に妹から電話があって「明日は鰻食べに行くんでしょ?」と言うので「うーん…今月は金がなくて食えないね、来月収入があったら金町の川千家にでも食いに行くよ」「そうなの…」と電話口で気の毒そうな声が聞こえた。そして妹は「じゃ、そのうちに成田の川豊に鰻を食べに行こうよ」と言った。

8月になって妹から電話があった。「明日さぁ~、成田に行こうよ、鰻を奢るからさぁ」というありがたいお言葉だった。「行く行く、鰻食べたいんだっ‼」8月6日、かみさんと一緒に船橋経由で京成に乗って成田まで出かけた。11時に待ち合わせだったが待ちきれなくて1本早い電車で成田に着いた。早く着いても鰻を2倍食べられるわけではないのにね。

妹が来た。そして3人で参道を歩く。ほぉ~テレビでは観たことがある成田新勝寺までの参道の街並みはイカスジャないか? 今日は鰻の日だから、また成田までぐっとくる写真を撮りに来たいねなんて思いながらダラダラと歩く。そして汗もダラダラである。暑い…どうなってるんだ最近の日本の天候は? 

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そして、念願の川豊に到着。店頭では数人の職人さんたちが座って鰻の切り身の串打ち作業をしている。目の前であっという間に串刺しの鰻が完成していく。面白いので写真撮影させていただいたが、迷惑そうだった。そりゃそうだ、あちらは仕事をしているのだ。

「凄い並ぶのよ、なかなか食べられないんだから…」と妹が言っていたが、お昼前だったので並ばずにすんなりと入店できた。

妹が「特上頼もうか?」と言うので「いや、恐れ多いから、やめてくれよ、真ん中でいいよ」と言って3100円だったかな…の、うな重を頼んだ。記憶にないがレベルは3つあって、僕たちは中間のを注文したのだった。「肝吸いも付けるね、あたしは要らないけど…」と妹が言う。「兄思いの奴だ…全部お前が払うんだぜ…ワルイナ~」と心の中で呟いた。「あたしは肝がだめなんですよぉ」とかみさん。「そうだよね、肝は気持ち悪いよね~」なんて鰻に失礼なことを言っている。結局、僕の分だけ肝吸いを付けてもらった。 

注文してからしばらく時間が経った。相変わらず店頭ではせっせと職人さんたちが串うちをしている。鰻重が来た。何の変哲もない当たり前のお重の蓋を取ると、これまた普通の鰻のかば焼きがドテっと詰まっている。神田きくかわの鰻重や閉店してしまった虎ノ門の鐵五郎のダブルうな丼のようなインパクトはない。印旛沼のい志ばしのようなボテっとした泥臭い鰻重でもない。

山椒をたっぷりとぶっかけて食してみる。「山椒をそんなにかけて…鰻が嫌いなの?」と言われたことがあるが、とんでもない、鰻そのものは美味しいに決まっている、そこに山椒をたっぷりとかけて口中を痺れさせて鰻を喉奥に飲み込むのが本当に美味いのだ。いわば、山椒は口中覚醒剤なのだ。鰻と山椒のトリップ感がわからないやつに鰻を食う資格も参画もないのである。

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んで、味はどうだったか? 妹には申し訳ないが、確かに美味いが、それほどのものではない。特に気になったのが容器の生臭さだろう。地元鎌ヶ谷市内のうなぎ屋も、捌いた手で容器に盛るのであろうか? 物凄く生臭くて閉口したことがある。

「本当の鰻好きはそんなこと気にしない…魚を食いに来て生臭いなんて言うやつは食う資格がない」と言われるかもしれないが、「とんでもない、容器の生臭いのは衛生上よくないのだ」と言い返してやりたい。

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そうそう、川豊の2階に上がる急階段がいい。見学させてもらったが、ものすごく急でおっかなかった。

妹に金を払ってもらって「ごちそうさま」とかみさんと2人で愛想笑いをする。そして新勝寺に向かって3人は歩くのであった。


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