見出し画像

「翠の寝所」


目を覚ましたら驚いた。自宅の寝室で寝ていたはずなのだが、森の中に布団を敷いて寝ていたのだった。

そこは、空を覆うように生え伸びる数種類の落葉樹の森で、幾重にも重なった葉の間からキラキラと陽光が射し込んでは消えている。

薄暗い緑色の世界のには、むせかえるような植物の匂いが充満していて、はじめは呼吸することもできなかったが、やっと深呼吸できるようになると、自分の汚れた肉体や精神が浄化されるような実感があった。

幾年も経て地面に朽ち積もった湿った落ち葉が額縁のように樹木たちを結んでいる。画布に絵の具を置いたばかりのような深緑の蘚が密生していて、僕はその中心に横たわっているのだった。

見れば、それは鬼薊のようで、人のようにうねうねと蠢いている。次の瞬間、鬼薊は自分たちの柄の先端から紫色の花をはじくようにポンポンと咲かせるのだった。緑の絨毯は紫色の花の勢いに負けて緑に紫が混ざって不可思議な色に変わっていく。

僕は、そんなことよりも、彼らの葉につく鋭い無数の棘が周囲に発射されて僕の眼球を突き刺すような気がして恐ろしかった。

よく見ると、鬼薊は少しずつ僕への包囲網を縮めているようで、このままでは僕は彼らの棘に全身を突き刺されて死んでしまうかもしれない。なんとか目だけは守らなくてはと目を両手で覆った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?