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シルバー人材日記「タクシー綺談」前編



「人が働いている時に眠るって幸福なの?」

今日は早朝にかみさんひとりに「放置自転車探し歩き」を任せたつもりが、かみさんの身体が心配なので、探し歩きの終り頃に駅前まで迎えに行った。2人で帰宅してから児童見守り歩き(今日は15時45分~18時30分まで)のために出発する時間の2時間前まで眠った。3時間弱眠った。

13時少し過ぎに起きて、ダラダラとテレビ画面を観ながら見守り歩きの準備。同時に病気が再発したと思われるかみさんのための病院探しと治療費の工面をどうしようかなどと悩む。

ま、仕方がない、運が悪いのだと諦めようとしてもどうにもならない。いずれこういうことになるのだと想定しておかなかった自分が悪いのだ。

見守り歩きの時間になった。「イッテラッシャーイ!」3階から屈託なく明るく言うかみさんの顔を仰ぎ見ながら出発場所まで歩く。

「義父に似たHさん」

今日の見守り歩きの相棒は初対面のHさんだった。いつもの歩くコースの途中にHさんの家があることは知っていたが、見守り歩きを初めて2ヶ月、Hさんと組むことはなかったからどのような人なのかはわからなかった。初対面というのは緊張するものだ。たくさん情報があればどのような人なのか想定できるが、Hさんに関しては自宅の位置情報しか情報がないので、とっつきにくい人だったら困るなと思いながら出発場所に向った。

午後は涼しかった午前中とは違って蒸し暑かった。

15分ほどで到着。待ち合わせ場所の休憩場所のテーブルに荷物を置いて座った。まだHさんは来ていなかったので、立ち上がって黄色い「見守り歩きチョッキ」を着ていると、食べものの匂いがした。イヤなにおいだった。見ると、近くのソファひとつを占領して何かを食べているだらしのない男がいた。ここは水分補給するための飲み物以外は御法度。水分補給のための飲料を飲むのはいいが、食事をしてはならないのである。注意しようと思ったが、いかにも言うことを聞かぬ印象だったので、男に聞こえるように大きくため息をついて椅子に座ってHさんを待った。

しばらくして、ひょこひょこといった感じで人の良さそうなお爺さんが歩いて来た。(この人がHさんだな?)と思い、立ち上がって頭を下げながら「Hさんですか?」と聞いた。

AIによるHADさんのイメージ、少し違う

「ワタベさん?」(正しくはワタナベだが別にワタベでもいいのだ。僕は自分の名前なんかに執着していない)
「そうです」と返事をすると僕の横に来て話し始めた。
「Nさん休みだったからワタベさんが来たんでしょ?」Nさんというのは、この日記に2度ほど登場している、あのNさんのことだ。
「そうみたいですね」
「Nさんが休むなんて珍しいよ」
「はい」
それから何を話したのか忘れてしまったが、他愛もないことを話していたら出発時間になった。
「行きましょうか?」
「はい」
「今日はマルBコースだから表から中学校に向って、またここに戻って来ましょう」
「はい」
「ワタベさん、前を歩く?」
「いえ、僕はHさんの後ろからついていきますので、よろしくお願いします」
それにしてもHさんの顔は見覚えがあるというか親近感がある・・・何でだろう?誰だっけ?って考えて、はっと気づいた。かみさんの父親だ。義父だよ。そっくりじゃん。

それからダラダラと話ながらいつものように2人縦一列になって歩く。僕はかみさんの事が気になって仕方がない。そんなこんななんやかんやで悩みは尽きないのだ。

しかし、台風が近づいているとかで雲行きは怪しい。一応、折りたたみ傘を持ってきているが、よくわからない。空は、黒い雲と晴れた空が入れ替り立ち替わりしたり、灰色の空になったり、小雨が降ってきたりするが、気温は高い。まだまだ暑いのだ。なんじゃこりゃ、もういい加減にしろよ!

今回のコースはキライだ。何かいつものコースよりも同じ所を行ったり来たりする感じだし、休憩場所も、2往復した出発地点からかなり戻ったところの公園だからだ。時間の無駄にしているような気がするのだ。

その公園でHさんと話す。

「Hさん、前の仕事は何をやってたんですか?」
「タクシーの運転手だよ」
「へぇ」(やった、タクシー怪談話が聞けるぞ)
「それから石油売って歩いたよ」
「石油?」
「うん、うちを早く出て印西まで行って灯油を積んで、ここら辺を巡回するんだ」
「売れるんですか?」
「売れるよ、要領があってさ、顧客となるそこの地域の住人と親しくなれればこっちのもんさ」
「どのくらい売れたんですか?」
「歩合だからよ・・・70万円くらいかな」
「ええ、スゲーじゃん、あ、すいません、凄いじゃないですか」
「だべ? うちの知覚の軽自動車が止まっている家を知ってる?」(そんなの知らないよ・・・)
「え、Hさんの家の近くにそんな家ありましたっけ?」
「あるよ、俺が灯油を積んだ車を停めて、そこの家の婆さんが出てくるのを待つんだけど、婆さんがなかなか出てこないんだよ」
「お婆さんが石油を買うんですね」
「そうだよ、なかなか出てこないから、ドアを叩いてたらやっと出てきてさ」
(灯油売りの話は面白くないな・・・タクシーの運ちゃん時代の話を聞こうっと)
「あの・・・Hさんさ、タクシー運転手時代に幽霊を見たことがありますか?」
「あるよ」

つづく






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