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フィーロ


ねぇ、眠ったまま聞いてよ。

これは夢だからね・・・。


あのね、私が住んでいるのはね
とある所の、とある湖の真ん中にぽっかりと浮かんでいる小高い山でね。

この山は、季節に応じて、春には緑を濃くしてもくもく大きく育ち、冬には枯れた枝を揺らしてユサユサと、まるで大きな一つの生き物がダンスしているみたいに見えるのよ。

なぜそんな風に見えるのか、それはまだあまり知っているひとはいないんだけどね・・・。


あ、自己紹介が遅れちゃった。
私はブタのフィーロ。この小高い山に、お父さんお母さん弟や妹たち大家族で住んでるの。

毎日が家のお手伝いで明けては暮れる日々で、本当は踊り子になりたいっていう夢があるのに、絶対叶わない気がして毎晩泣いていたのよね。

小高い山が、黄色や赤に彩られて、まるでドレスをまとった様になる頃に、私は知ってしまったの。どうしてこの山が生きている様に感じるのか。

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その日私は、その晩にみんなで食べる美味しい木の実を探していて、いつもより少しだけ森の奥に行ったの。
草をかき分けて少し開けた場所に出ると、目の前に見たことのない大きな扉があったの。
でもそれは、家の入り口とかじゃなく、ドアのまわりは草や木が生えてるだけで何もないから、とっても不思議になってゆっくり近付いたのよね。

重ーい扉をゆっくり開いたの。
そしたら目を開けていられないくらい眩しい光が差してきて、驚いてしりもちついちゃった。
目が慣れてきて更に驚いたわ。
ドアの向こうに、ずっとずっと上まで続いている様に見える、真っ白で綺麗な階段があるんですもの。

それを見てたら、なんだか不安とか怖いなんて気持ちかき消しちゃうくらい、そのキラキラした階段を登ってみたい気持ちに駆られちゃってね、思い切って入ってみたの。

随分と長い階段、上り切れるのかなって思ったけど、好奇心て抑えきれないものよね。私、一気に登っちゃうんじゃないかって思うスピードで、上がっていったわ。

しばらく上がったときに、前に先約がみえたの。どうやらふたりも、上を目指して上がってるみたいだったから追いついて声をかけてみた。

振り向いたのは、真っすぐな眼差しでこちらを見るとても賢そうなキツネさんと、すごく楽しそうに笑うトカゲさんだったのよ。

ふたりもこの上には何があるのか知らなくて、確かめに行くから私も一緒に行こうって言ってくれてね、だから時々お話しをしながら行くことにしたの。

でもね、その時は何も思わなかったけど、今思うと私たちは口で会話をしなかった。考えた事がそのまま伝わって、頭の中に・・・いえ心の中に答えがかえってきてたの。不思議ね・・・。


ふたりが私の話をしてって言うから、私は家族のこと、あと自分の夢のこと、悲しくてつらいこととか話してみたの。

キツネさんは、賢明な瞳でこちらを見て、言ってくれた。

「もっと、その心を家族に話してごらんよ。そして君はすごく直感が働くみたいだね。不安がらずに、したいと思ったことをしてごらんよ。」

ってね。
そしたら、トカゲさんがしばらくして、

「キミがしたいと思ったりサ、楽しいことを考える時サ、もうその願いはサ、どこかに形となってサ、用意されていてサ、キミが来るのをサ、待っているんだよねー。」


ちょっとね、この時私は何言ってるのかわかんなくてね。ふ〜ん、くらいな気持ちだったのよね。
もちろんこの、ふ〜んは頭の中で言ったんだけど、全部伝わってたみたいよ。トカゲさんはこの後しばらく、 ふ〜んふぅ〜ん〜。ってまねをして見せたもの。

そんなことして登っていたら、途中で気が付いたのよね。

なんかいくら登っても、疲れるわけでもないし、逆に体と心がどんどん軽くなっていってるって。

そしていつ終わるのかと上を見上げた瞬間、眩しい光が目に入って一瞬何も見えなくなったの。

しばらくして目をそぉっと開けたらね、キツネさんとトカゲさんがこっちを向いて座っていたの。
すごく誇らしい顔でこちらを見て、もう私に何も話しかけてこなかった。

ふたりの間にすごく大きな椅子があってね、そちらに目をやると、何やら光っていてよく見えなくてね、少し近づいてみたのよね。

よーくよぉーく光の中を見てみると、大きな耳とヒクヒク動く鼻が見えてね。
あら?うさぎ?って思ったの。そしたらまた心の中に声が聞こえてきてね。

「あなたには、わたくしがうさぎのように見えるのでしょうが、わたくしは本当は姿などありません。」

「わたくしは、この山そのものなのです。あなたのことももちろんわたくしは知っていて、ここへ来るまでもずっと見ておりました。」

って言ったの。
私びっくりしちゃって、おそるおそる聞いてみたわ。

「じゃあ、あなたは神様・・・なのですか?」

って。そしたらね、

「神であり、神ではない。なぜなら山そのもの、命そのものなのですから。あなたであり、あなたでないことも。」

なんて言うから、もう驚いちゃって何も言えなくなってたのよ。

そしたら、その光のうさぎは、ここへ登ってくるまでにこのふたりと話したことを、実践しなさい。怖がらなくて良い。って言ってね、目の前からみんなすーっと消えたのよ。

そこからまたどうやって戻ったかといったらね。

私の背中に見たこともないレースでできたような、白くて小さな羽が生えて、ゆっくりゆっくり下まで戻ったの。

その間、言われたことを考えたのよね。
私やっぱり私の踊りを、みんなに見てもらいたい、踊りがしたい。ずっと家族の負担になると思ってきたけど、帰ったら正直に話をしてみようって心に決めたの。

そこからの記憶が無いのだけど、私は気づいたらおうちのベッドで寝ていたの。目が覚めて家族のところへ行くと、みんなお姉ちゃんおはようって笑ってくれてね。それでみんなに、勇気を出して、私は踊りをしたいってこと伝えたのよね。

お父さんもお母さんにも、困って反対されるんじゃないかって思って、下を向いていたら、

「前から踊りが好きでやりたがっているんじゃないかってことは、思っていたよ。でも、言い出さないから本気ではないんだと思ってたんだ。ごめんよ、今までわかってあげられなくて。」

って言われて、あまりにも予想外でびっくりして顔をあげたら、涙が溢れて嬉しさも爆発したわ!


それからは、家族の仕事はみんなで分担してできるようになって、私は踊りに集中する時間が増えて・・・今、みなさんの前で踊っていると言うわけです。

この湖の真ん中の小高い山は、生きているように見えるのではなく、本当に生きている神の山だったのよ。私たちの中のにも、その神様は宿ってるのよね。

また山が真っ赤なドレスをまとってオシャレする頃、会えたら良いわねぇ。心の中でいつもそう話しかけているの。きっと聞いてると思うわ。

みんなも心の中で話しかけてみて。

きっとその声は聞こえていて、お返事の代わりに、もしかしたらポッケに真っ赤なもみじの葉のプレゼントが入っていたりしてね♡


おわり



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