Raspberry Pi用クラスタエンクロージャを設計/製作してみた話

はじめに

前置き

筆者は3Dモデリングや製品設計の実務経験がなく、独学かつ趣味の領域であるということを理解した上で読んで頂きたい。

動機

Raspberry Pi というシングルボードコンピュータをご存知だろうか。
紙タバコのパッケージくらいのサイズでフルサイズのLinuxが動作する、ARMベースのコンピュータである。
省スペースかつ省電力、しかも1台55米ドル!(RaspberryPi 4B 4GBモデルの想定価格。国内だと実売1万3千円程度)

Raspberry Pi 4 Model B 外観図 (出典: raspberrypi.com)

簡易サーバとして動作させるだけのハードウェア・ソフトウェアが揃っているため、自宅サーバをx86なPCサーバからRaspberryPiに切り替えた。

しかし、CPUの能力は限定的で、メモリも(一般的には)増設不可能。
そのため、イマドキの重量級Webサービスをいくつも同居させて動かす、といったことは不得手だ。

かつて、戦国武将の毛利元就が自身の著書「三子教訓状」で、「多くの矢をひとつにして折おりたらんには細き物も折がたし」と説いたという。
(いわゆる「三本の矢」の逸話の元ネタとされる)

つまり、1台で厳しいなら何台も動かせばいいじゃないということだな?! というところに落ち着いた。


問題点

だがここで問題がある。

いくら小さいボードとはいえ、いくつも並べて動かすとなると、それなりのスペースが必要となる。

具体的には、

  • Raspberry Pi 本体

  • 電源アダプタ(USB-C、USB-micro B)

  • LANケーブル

  • イーサネットスイッチ(モノにより4台以上を接続可能)

上記4アイテムを揃え、机や棚に並べる必要がある。

だが、これはこれで平面的にスペースを取ってしまうため、本末転倒となってしまう。

電源アダプタ問題はPoE-HATを使ってイーサネット経由で給電することで削減可能だが、その他はそうはいかない。

市販のケースに入れて積み重ねればいいじゃないとも考えたが、排熱の観点から一般的なケースでの積み重ねはあまり良くないと考え、却下とした。
(CPUが熱くなりすぎるとサーマルスロットリングが発動し性能が落ちる)


では、どうすればよいのか……

理想のケースがなければ作ればいいじゃない

ということで、3Dプリンタを用いて試作してみること1年弱。
その軌跡をまとめてみることにした。


要件定義

ケースを設計するにあたり、要件を洗い出した。

  • Raspberry Pi を複数台、高密度で収容できること

  • 過熱防止のため、アクティブ冷却システムを備えること

  • 装置の脱着が容易であること

上記項目は必須として

  • USBストレージ(2.5インチ SATA SSD/HDD + SATA→USBケーブル)も同じように収容できること

  • 組立時に接着剤を使わないこと

  • 3Dプリント時にサポート材を使わなくてもよいこと

  • できるだけ部品を共通化し、モデル数を減らすこと

  • 見た目がイケてること

を任意の達成目標とした。

設計・試作

第1世代: トレイタイプ

第1世代 トレイタイプ
  • 幅80mm、高さ88mm、奥行き145mm(トレイ張り出し+15mm)

  • 印刷部品数 5

  • サポート材 不要

  • 接着剤 必要

Raspberry Pi (PoE HAT付)を2台収容可能なモデル。

Raspberry Pi をトレイに固定するタイプのため簡単に脱着でき
密閉式の壁パーツ(青色)を使えば直線的なエアフローを確保できるため、高い冷却性能が期待できた。
また、別途ピンを使って横に連結可能な仕組みを備えていた。

しかし、構造的に弱く、組立に接着剤が必要という弱点があった。

過去にこのケースの紹介記事を書いたので、詳しいことはそちらを参考にしていただきたい。


第2世代: ブロックタイプ

第2世代 ブロックタイプ
  • 幅80mm、高さ88mm、奥行き126mm(ボード張り出し含まず)

  • 印刷部品数 6

  • サポート材 必要

  • 接着剤 不要(完全に固定するためには必要)

Raspberry Pi を3台収容可能なモデル。
2.5インチHDD/SSDにも対応した。

Raspberry Pi の四隅にステーをネジ止めするタイプで、ブロックの要領でスタックできる。

しかし、印刷時にどうしてもサポート材が必要となってしまう、積み重ねただけではしっかり固定できない、という問題の他
接着剤を使って固定してしまうとRaspberry Piの取り外しができなくなるという致命的な欠点があり、お蔵入りとなった。

ただ、ブロック状で自由にスタックできるというコンセプトは悪くないと考えており、構造的にブラッシュアップすれば使えるレベルまで持っていけるのではないかと少し思っている。


第3世代: ブレードタイプ

第3世代 ブレードタイプ
  • 幅180mm、高さ139mm、奥行き118mm(トレイ及び冷却ファンの張り出し含まず)

  • 印刷部品数 6

  • サポート材 不要

  • 接着剤 不要

トレイにネジ止めし、ブレードの要領でシャーシに差し込むタイプ。
2.5インチHDD/SSDにも対応。
部品を差し込んだりツメで止めたりすることで、接着剤なしで構造が出来上がる。

全部で10個のスロットがあり、RaspberryPiは2スロット占有、2.5インチSSD/HDDは1スロット占有する。
また、下部にPoEスイッチ用のスペースを用意しており、必要なものすべてを収容可能。

部品のバリエーションとして、穴あき天板(RaspberryPiの側面I/Oポートにアクセス可能)、ショート側板(PoEスイッチが不要の場合)を用意している。

ただし、ブレードのツメが弱く、ブレード印刷時のウォール厚を増加させたり、インフィルを高めたりと工夫が必要。
また、ブレードの取付時にうまくはまってくれないなど、若干のイラッとポイントは存在する。

モデルデータについてはThinkverseにアップロードしてあるので、興味のある方はぜひ試して頂きたい。


おわりに・将来の展望について

現在、実際に第3世代ブレードタイプを運用しているが、今のところ不満点はない。
これについては、割といいものができたのではないかと自画自賛しているところだ。

第3世代ブレードタイプ 運用状況 2台を重ねている

ただ、2023年3月末現在、Raspberry Pi の入手が困難な状況が続いており、フル稼働させたときの能力の評価ができておらず、改善点を見いだせずにいる。

また可能であれば Raspberry Pi ヘビーユーザの方々にテストして頂き、意見をもらうことができればと考えている。



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