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伝書鳩の逆襲〜職場の仲介役が感情を持った話〜

◆『伝書鳩』の仕事


私が6年間の社会人生活の中で、何度も行ってきた仕事内容の一つだ。


伝書鳩の仕事とは、上司Aさんから上司Bさんへの伝言内容を聞き、Bさんに伝えるだけの簡単なお仕事だ。
でも私はこの仕事が大嫌いだった。


Aさんからの伝言内容は、Bさんにとって不都合な内容であることがほとんど。そのためBさんに内容を伝えると、舌打ちをされたり、愚痴や文句を吐き捨てられたりするなど、分かりやすくストレスを表現してくる。
こうなることが分かっているから、Aさんは伝書鳩を利用するのだ。
これにより、Bさんの怒りの矛先は、発信元のAさんではなく、伝書鳩へと向かってくるのだ。


Bさんが怒ってしまうのは、内容を原文ママ伝えているからでは?という意見もあるだろうが、当時その対策はきちんとしていた。
自分のフィルターを通し、別の言葉に変換していた。さらに、機嫌をうかがい、最良のタイミングで、柔らかい表現を使いながら、落ち着いて伝えるようにしていた。
しかしこれにより、怒りレベルが100になるところを40に抑えられたとしても、そこに怒りの感情があることには変わらない。
しかも、その怒りを受ける必要がなかったはずなのに、なぜか伝書鳩が怒りを受ける羽目になるのだ。


◆プライドに首を絞められる

これについてAさんに意見を言うと、
「あなたが言ったほうが聞く耳を持ってくれる」
「あなたが言えばみんな従う」
「あなたがいることで仕事が回る」
など、都合の良いことを言って誤魔化されるのがオチだ。
Bさんに話が伝われば、伝書鳩がボロボロになるのは構わないというのか。
いや、ボロボロになっていることにすら気づいていないのだろう。
伝書鳩にされる人間は、嫌な役回りを頼まれても嫌な顔をしないからだ。だからこそ都合よく使われる。
それならば嫌な顔をして断ればいいというだけの話なのだが、私の場合それもできなかった。


当時私は、自分が関わるからには何か結果を残したいと思っていた。
私が伝書鳩をすることで、仕事が円滑に進むようになったと周りから評価されたかったのだ。
ただ伝えるだけの役割である、本物の伝書鳩になりたくなかった。
伝書鳩なりのプライドを持っていたのだ。
でも、そのプライドが自分の首を締めていることも分かっていた。
そんな自分がすごく嫌いだった。


◆伝書鳩のストレス軽減法

さて、ここまでは過去の話。
ここからは今の話だ。
社会人3年目頃から考え方が変わった。
「どれだけ気を使ってもどうせ40は怒られるのだから、いっそ気を使わず伝えて100怒られた方が、自分の精神衛生上良いのでは…?」と。


ということで、次に伝書鳩の仕事がきたとき、私はBさんに対し気を使わず、言葉も選ばず、原文ママに伝えてみた。
するとBさんは、案の定100怒ってきた。しかし私のストレスは、なんと100減ったのだ。


今までは、「Aさんの代わりに気を使って伝えたのに、何も悪くない私が怒られた」という理不尽さに辛さを感じていた。
しかしこの対処法により、「怒らせる言い方をしたから怒ってきた」というシンプルな状況に納得がいき、自分のストレスが一気に軽減した。
どうせ損をするなら頑張らないほうが気楽だと分かった瞬間だった。


ちなみにここまで、Aさんに対する感情を書いていないが、それは当時、私を直接怒ってくるBさんだけを悪者にしており、Aさんのことを何も考えていなかったからだ。
上記の対処法でBさんへのストレスが軽減されると、思考が正常に働くようになり、伝書鳩の災難の元凶がAさんであることに気づいた。
立場上、Aさんの指示には従わなければならないが、部下に悪役を担わせる非情なAさんを守る義理などないと考えられるようになったのだ。
そう思えば、仕事を放棄したことに対し悲観的になる必要は一切なくなる。
というか、こんな仕事で評価されなくたっていい。つかこんなもん仕事でも何でもない。もっと悩むべきところで悩んだほうが良い。
こうしてまたひとつ、自分を救う考え方ができるようになった。


◆吹っ切れた伝書鳩

こうして今では、伝書鳩の仕事がきても、ハイハイオッケーどうなっても知らないよ〜と適当にこなすことができるようになった。
それでも時折、上司が伝書鳩に運ばせているものは、ただの『言葉』ではなく『爆弾』ではないだろうかと思うときがある。そうなると伝書鳩というより、『運び屋』と言ったほうが正しいのかもしれない。


運び屋もとい伝書鳩は、今日もAさんから爆弾を渡されるかもしれない。
でもそんなクソみたいな爆弾は落っことしてやればいい。
爆発した地上を眺めながら、高笑いして空を飛んでやる。

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