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マイナ保険証が普及率100%になる未来はあるのか

前回の記事では、マイナ保険証に関連するトラブルの多さやその複雑さについて言及しましたが、本記事では、なぜマイナ保険証の利用普及が進まないのかを、レセコンベンダーの視点から掘り下げて考察していきます。

マイナ保険証の一本化をめぐっては、さまざまな団体から反対の声が上がっています。例えば、日本医師会(JMA)や日本歯科医師会(JDA)は、システムの変更に伴う業務負担やコスト、特に高齢医師にとっての技術的ハードルを理由に、慎重な姿勢を取っています。また、プライバシーの保護やデータのセキュリティに関する懸念を理由に、日本弁護士連合会(JBA)や一部の消費者団体もマイナ保険証の導入に反対しています。

マイナ保険証に反対する意見が広く取り上げられる中、私のYouTubeのおすすめ動画にも関連する内容が表示されました。それに対するコメント欄では次のような意見が多く見られました。

「開業医がいかに既得権にしがみついているかよくわかりますね。マイナ程度の対応が出来ない医者は廃業した方が患者の為。」

「今時パソコンを使えない医者がいるというのが驚きです。分からないのが悪いんじゃなくて覚えようとしないのが悪いと思います。」

【マイナ保険証】なぜ医師たちは反対?コスト&負担増で廃業も?東京保険医協会副会長&ひろゆき|アベプラ - YouTube

これらのコメントには一理あると感じています。患者側の視点から見れば、新技術に抵抗する高齢の開業医は、変化を嫌う存在として映ってしまうのも無理はないでしょう。
たしかに、日本では医師の高齢化が進んでおり、IT技術に対応できない開業医も多く存在します。しかし、それ以上に、マイナ保険証の導入や管理が非常に複雑であり、レセコンベンダーの視点から見ても、その複雑さが普及の妨げとなっていることは否めません。システムトラブルによって診療に支障を来す可能性があることについては、医師たちの懸念に一定の理解を示すべきだと考えています。


マイナ保険証は仕組み的にトラブルが起こりやすい / 発生した際に早急な復旧が難しい

マイナ保険証を利用するためには、「オンライン資格確認」というシステムを通してマイナンバーカードから保険情報の資格確認をします。
そしてその、「オンライン資格確認」はネットワーク上のトラブルが起こりやすいと考えてます。単純にインターネットに接続していればよいというものではなく、

・国の定める通信回線方法(IP-VPN or Ipsec+IKE)に則ること
・国の定めるハードウェアの仕様に則ること
・国の定める制限されたネットワーク環境を構築すること
・各ベンダーが提供しているレセコンと連携させること、、

https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000575785.pdf


オンライン資格確認等システムの導入に関する システムベンダ向け技術解説書より抜粋

など、技術書を見ていただければわかりますが、セキュリティを担保するために様々なの条件を満たす必要があります。
これに対して各ベンダーが既存のレセコン・電子カルテに対して適応できるように無理やりネットワーク機器を介在させて環境構築をしています。ネットワーク環境はベンダーによっても、同一ベンダーでも医療機関によっても様々であり、サポートをする側としてはとても大変です。何かトラブルが起こった場合に、原因がわからない・復旧に時間がかかるケースも少なくないと考えます。


マイナ保険証が利用できない場合の代替案が煩雑

厚労省は上記のような事態に備えて、

・保険者資格申立書を患者に記載してもらうこと
・マイナポータルから資格情報を閲覧すること
・過去の受診歴等から確認した資格情報にて負担分を受領する

のような対策をするように発表していますが、これが非常にナンセンスに感じます。まず、資格申立書を患者に記載してもらうというのは現実的ではありません。患者数が少ない医療機関であれば影響は少なく済みますが、トラブルがなくても常時混雑しているような、1日100~200名以上来院しているようなクリニックも少なくなく、このような医療機関にとっては
致命的であると考えます。同じく、マイナポータルからの資格情報閲覧も通常の保険証提示と比較して時間がかかり過ぎます。

現場作業で解決可能なトラブルであれば当日中の復旧は可能でありますが、現場では解決できない問題も想定され、そのような場合、過去の受診歴等から確認するといった事象も非常に現場の混乱を招くと予想されます。


現場作業では早急な解決が難しいリスクがある(トラブルが長期化する可能性について)

一時的なトラブルでも当日中に復旧可能なトラブル(ルーターの設定 / 配線 / レセコンの設定 / ネットワーク周辺機器の問題)の場合、混乱は限定的なものかもしれませんが、
即日対応できないようなトラブルが発生するリスクも孕んでいます。

この記事をまとめるにあたって上記の記事を読み、その可能性に気づきました。
技術的で細かい話になりますが、オンライン資格確認の認証にあたって関与するもの(電子証明書の有効期限やインターネット回線種別、医療機関コードの変更による再設定など、)は、ベンダーでも即時対応ができないものも多く含まれています。このようにトラブルが長期化するリスクについての具体的な対策はなされていません。
マイナ保険証が完全に普及した場合、長期的にオンライン資格確認が利用できないリスクを排除すべきであると考えます。


マイナ保険証を普及させるための建設的なアイディア

以上、ベンダー目線でマイナ保険証の普及が難しいなと思う理由を挙げてみました。医療機関側にとっては金銭的負担はさることながら、業務的な負担がかなり大きいと感じますし、マイナ保険証の利用率が100%になった場合、現行の仕組みでは上手く機能しないのではないかと思います。

私が思う解決策の一つは、正常なオンライン資格確認ができない状況下においても、マイナンバーやスマホで簡易的な資格確認ができる仕組みを作ることです。
例えば、マイナンバーカードに直近の資格情報を記憶し、カードリーダー側で読み取り可能な仕組みを作れば、オンラインにより資格確認ができなくてもかなり精度の高い資格確認が可能であると考えます。

現行のマイナンバーカードの作り上、このようなことは難しいかもしれませんが、スマホのデジタル認証アプリに同様の機能を持たせる、そもそもマイナンバーカードの仕様を変えるなどは可能ではないかと考えます。現行多額の投資を行った医療機関側のシステムを刷新するのは困難と考えられため、
これらを生かした新しい対策を期待しています。

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