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栗山監督ホームラストゲーム~2021シーズン ライオンズ25回戦

F 1x - 0 L in札幌ドーム 対戦成績13勝9敗3分

色んなサヨナラの詰まった本拠地最終戦だった。
10年もの間指揮を執った栗山監督、
現役引退を発表した谷口雄也選手、
そして今シーズンの本拠地開催。
試合そのものもよもやのサヨナラゲームとなった。

志願して登板した上沢は他を寄せ付けない圧倒的存在感をマウンドで放っていた。
野球を始めたのは中学生(それも軟式)、
プロ入りはドラフト6位、
決して優遇されてきたわけでない上沢が、確実にエースの階段を上っている。
到達したと言ってもいい。
クオリティ高いチームメイトの物まねをし、
ひとつ後輩の大谷翔平とベンチでいちゃいちゃし、
選手生命を絶たれかねない大けがをしながら奇跡の復活を遂げ、
昨年からは選手会役員にも名を連ね、
プライベートではイクメンで、
ファンフェスでは自虐ネタで盛り上げてくれる気さくなキャラクター。
でもマウンドでは、投げるたびにどんどん存在が大きくなっていく。
いつから上沢はこんなにすごい選手になったのか。
ここ数年のチームの低迷が彼をそうさせた部分は大いにあるに違いない。
そして彼自身が日本一に絡めなかった悔しさが成長させるのかもしれない。
今年、連敗を止めるのはいつも彼だった気がする。
ピンチを迎えても抑えきる。最少失点で凌ぐ。
開幕戦と那覇での試合以外、上沢が崩れたところを見ていない。
最下位争いをするチームに於いて12勝を挙げ、勝利数、防御率ともにリーグ3位につけた。
上2人は首位バファローズ。
チームが如何に上沢頼みかということがわかる。
そんな上沢が同期入団の栗山監督本拠地ラストの試合で今季一番ともいえる見事なピッチングで
8回2/3を投げ、強打のライオンズ打線をわずか2安打に抑えた。
点を取られる気がしなかった。
3人で抑えるのが決まりかのようにサクサクとアウトを重ねて行く。
降板後、10年で一番いいピッチングができたと語ったと各紙が書いている。
見ていた私もそう思う。
本当にすごい投手になりました。
8回2アウトから、ファイターズが誇る鉄腕・宮西が、
ずっと使い続けてきた登場曲ではなく、監督が好きなさだまさしの曲でマウンドへ上がった。
栗山監督自ら上沢に降板を告げに行き、登板した宮西にボールを手渡した。
「あんなにウルウルした目で言われたら、こっちも感極まった」そうだ。
グラブが震えていた。
14年連続50試合登板。岩瀬仁紀投手の記録にあと1年と迫った。
3球でピッチャーゴロに打ち取り、マウンドを降りる顔がアップになる。
唇を噛みしめ涙をこらえる表情。
ファイターズファン思わずもらい泣き。
9回、1年間守護神を務めてきた杉浦がマウンドへ。
先頭をフルカウントから歩かせてしまう。
代走には盗塁王を狙う源田。
続くブランドンへの3球目、源田が盗塁を試み、
一時はセーフの判定もリクエストで覆り1アウトランナーなしとなる。
おそらく杉浦はこれで楽になった。
ブランドンをセカンドゴロに打ち取り2アウト。
ラストバッターは代打・森。
6球目を振らせ空振り三振。
本拠地ラスト、負けはなくなった。

一方の打線。
内容としては先発・與座から5安打放つものの、
要所を抑えられ、飛んだところが悪かったような当たりが多かった。
この日は前述の宮西もさることながら、登場曲に注目が集まった。
先頭・淺間は日向坂46の「キュン」で最初の打席に入った。
高濱は剛力彩芽「友達より大事な人」で、清水は嵐「Hero」で。
「キュン」は前日引退を発表した谷口雄也の、ファイターズファンの間での呼び名である。
可愛すぎるスラッガーと言われ、元々は「谷口くん(きゅん)」からきている。
剛力彩芽似と言われたこともあった。
ファンフェスでの女装は圧倒的可愛さで優勝した。
当人はかなり男臭い性格なのだが。
Heroは谷口が去年から使う登場曲。
ずっとずっとヒーローになることを夢見てきた。
96年組はファームで谷口と共に汗を流した経験がある。
思い入れがあったのだろう。
その谷口はスコアボードに0が並ぶ中、一体どこで出場するのか注目された。
7回裏2アウトランナーなしでその場面はやってきた。
球場のボルテージが上がる。
ファイターズはレギュラーでない選手の方が人気があったりする球団なのだ。
涙をこらえながらの打席、ライオンズ2番手・森脇の初球をレフトへ運んだ。
「追い求めてきた逆方向への打撃を最後に表現できた」と1塁を駆け抜けたあとさらに涙する。
ファインダーを覗きながら、私ももらい泣き。

続く清水が倒れ、得点には繋がらなかったが、
ベンチには健闘を称えるチームメイトの姿が。
同期の西川が笑顔の抱擁で迎えた。

ファイターズファン、ここでも涙涙である。
同期の絆は深い。
特にこの年のドラフトは珍しく大学生が多く、
高校からの入団はこの2人だけだったのだ。
「(西川)遥輝がいたからここまでやってこれた」と谷口は語る。
切磋琢磨しながらやってきた2人の抱擁は、ファンにとって画像を見るだけで泣ける1枚である。
8回まで0が並ぶ中、球場はどんどん異様な雰囲気が濃くなっていく。
正直やることが多い本拠地ラストだったのだ。
勝って5位浮上を狙わなければならず、
谷口を出場させねばならず、
宮西を登板させねばならず、
勝利して監督に花道を作らねばならず。
勝つこと必須の状況でスコアレスドローの状態が続いて9回裏を迎えたとき、
正直ライオンズはやりづらかっただろう。
ファイターズはファンも試合を作るのだ。
8回裏に公文を登板させた辻監督は9回に武隈を上げた。
どちらもファイターズや北海道に所縁の選手である。
そういう心遣いと言うか意識と言うか、辻監督のスマートさが際立つ。
演出に手を貸してくれてありがとうございます。
先頭の近藤が四球を選び、代走にルーキー細川。
高卒ルーキーながら、冷静に準備をするところに大器の片鱗を感じた。
ピッチャーが田村に代わり、続く高濱はバントするも打席前で大きくバウンドし、
おそらく球場全体が「あっ」と思ったはずだが、キャッチした捕手・柘植は2塁へ送球し、それが大きく逸れオールセーフとなる。
ここで王に代わってバント要員石川。
初球内角に食い込んでくるストレートを当てるもファウル。
是が非でも3塁側に決めねばならない場面、恐らく当ててでもという意識があったのではないか。
石川、鬼の形相で見事3塁手に捕らせるバントを決める。
このバントが明暗を分けたと言っても過言ではない。
ものすごいプレッシャーの中、自分に与えられた仕事をきっちりこなした。
ベンチは歓声で出迎える。
続くバッターは渡邉。
ライオンズは申告敬遠を選んだ。
1アウト満塁、この場面で代打・松本。
松本もまた近藤や上沢と同じように栗山監督の同期である。
1球目、内角よりの甘めのストレートをファウルすると、外角低めに2球ボール。
球場全体の集中力がどんどん増していく。
田村は投げづらかっただろう。
4球目が高めに浮く。3ボール1ストライク。
サヨナラの空気に負けたと言っていい、5球目も外角低めのボール球。
よもやの押し出し四球を松本が選び、
3塁ランナー細川がゆっくりとホームを踏んでファイターズがサヨナラ勝ち。
本拠地ラストを白星で飾ることが出来た。

栗山監督と歩んだ10年は本当に色々なことがあった。
ダルビッシュを欠いての元年となった2012年、開幕投手に斎藤佑樹を指名し白星発進を飾った。
4月には稲葉が2000本安打を達成。
そしていきなりのリーグ優勝。
吉川光夫を復活させたことが話題になった。
延長12回0時直前までかかった決着、忘れもしない疑惑の頭部死球(多田野投手の投げた球は頭にいってもいなければ当たってもいなかったのに危険球退場になった)、日本シリーズもインパクトが大きかった。
2013年は大谷翔平の入団。
私は初めて沖縄キャンプを見に行った。
多くの報道陣に囲まれて、後ろ姿しか拝めなかった。
今や大谷の通訳として世界的に(?)有名になった水原さんも入団一年目、
外国人選手に付いて何度も宿舎とグランドを行ったり来たりしていた。
開幕投手は武田勝。
翔平の二刀流に振り回され、シーズンは最下位だったが、未来は明るかった。
2014年はキャンプの頃から「うわさの上沢」と言われた3年目上沢の覚醒があった。
稲葉、金子が引退。シーズンは3位。
CSで宮西が骨折しながら投げたのが印象に残っている。
2015年は投手・大谷の年だった。投手3冠を獲得。
メジャーから田中賢介が帰ってきた。
シーズンは2位。
スタートは良いが後半失速という、試合もシーズンもそんな年だった。
最後の阪急戦士・中嶋(現・バファローズ監督)の引退がこの年。
そして忘れもしない2016年、
初(?)のアリゾナキャンプで始まり、最大11.5ゲーム差からの逆転優勝。
大谷に引っ張られ、周りもノリにノッて掴んだ優勝だった。
翌日、武田勝涙の引退試合。
CSの第5戦には、リリーフで登板した大谷が日本人最速165kmを記録(札幌ドームのスピードガンはやや甘いが)。
カープとの日本シリーズは広島で2連敗した後札幌で3連勝、
西川の逆転サヨナラ満塁本塁打で日本一に王手をかけ、第6戦で頂点に上り詰めた。
シーズンオフには自前の球場を建設することが発表された。
2017年は大谷ラストイヤー。
彼のけがで始まり、チーム全体も調子を落とし、順位は5位。
ドラフトで清宮を引き当てたのもこの年。
飯山が引退。その活躍よりもファンに愛された選手だった。
2018年は変革の年。
大谷、増井、大野が移籍し正捕手争いが激化。
9月、北海道胆振東部地震が発生、全道ブラックアウトの余波をチームも受けた。
日常のありがたさを、試合が出来る歓びを肌で感じた年となった。
若手の台頭はあったものの結果は3位。
石井裕也、矢野謙次が引退。
この年はドラフトで甲子園のスターを次々と獲得した。
未来へ向けての本格的なスタートを切っていたのだろう。
2019年、谷内、秋吉、金子、王が加入。
野村や万波もこの年の入団。
7月には首位に1ゲームまで迫るものの、そこから大失速。
8月は5勝20敗という、今思い出すのも恐ろしい月になった。
最下位だけは何とか免れ5位。田中賢介が引退。
あの頃を知る現役選手は鶴岡だけとなった。
2020年、新型コロナウイルスまん延防止対策による開催延期。
野球が生活における役割を改めて考える年となった。
無観客のスタンドを選手たちはどのように思ったのだろう。
ファイターズは勢いをつけることが出来ないまま2年連続の5位。
ドラフトでは球団初となる道産子・伊藤の1位指名を果たした。
そして、今年。
よもやの球団内でのクラスター発生。
試合の休止を余儀なくされ、ウイルスの恐ろしさと野球のありがたみを心の底から知ることになる。
成績はと言えば、スタートからずっと低空飛行のままシーズンが終わろうとしている。
収穫はあった。
エース・上沢の覚醒。
ルーキーたちの活躍。
3年目野村・万波の成長。
失ったものもあった。
8月に栗山政権でずっと4番を務めてきた中田を暴力行為で出場停止にし、放出。
禍根を残したのか残さなかったのか定かでないが、チームは新しい方向へと進みだしているのは確かだ。

正直栗さんが好きだったことは一度もない。
2012年の開幕投手は武田勝だろうと思っていたところからスタートし、個人的には納得のできない選手の使い方が多かった。
実際は栗山監督というよりフロントの問題も大きかったのだろうと今では思っている。
ただ我々ファンも家族と呼び、北海道が一体となって高みを目指すんだという熱いハートでよく頑張ってくれたと思う。
ようやく眠れるようになるのじゃないか。
ゆっくり休んでほしい。
10年間ありがとうございました。

シーズンはあと2試合。
2つ勝って、最下位脱出!野村100安打!伊藤10勝!
監督とヘッドと投手コーチに有終の美を飾らせてあげましょう。

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