幻覚の作用

虚空をふわふわ舞ってたら
からすがいきなりやってきて
「そんな余裕はねえ、ここは虚空だぞ…??飛べんのなら溶けんかい…!!」
ってくちばしでぼこぼこにされた。ひどい。
幼い亀の轢死体を土に埋めようとおもったら
それは自殺と再生を繰り返す八胞体になって
「ぜったい忘れないよ」とつぶやいて帰った。
昨夜、針のような黒い二本脚だけで、覚束なく立っている白い球体が横一列に綺麗に並んでいる群れをみた。
あの子が嬉しそうに瓶に入れて海に流した手紙を、もう3000年もほったらかしている。あの子は毎日海に来て、今日もまた来てる。そろそろ返事を書かないと。どれだけ喜ぶだろう。喜ぶ顔が見たいな。でも、また返事するまで3000年くらいかかってしまう。そのあいだずっとあの子は苦しいだろうな。やっぱり書くのはやめておこう。
「首絞めて」って言ったから首絞めていたら、彼女は死んでしまった。
「首締められるのってそんなに幸せだったんだ」
生まれ変わったら蛇になって、また絞め殺したいよ
用水路沿いのたんぼみちを散歩していたら、水面から「でゅぽんっ」って
心臓みたいな形の天使がでてきた。
「おまえ…おれのことわすれんなよ…」
と言い残して、また「でゅぽんっ」って帰っていった。
近所のクソ餓鬼に「人類は一体どこへ向かっているのだろう」って相談された。
ムカついたから「どこにも向かってねえよ、わけもなく生まれたから生きてんだよ、サルトル読めやサルトルッ」ってぶん殴ったら星の子になって、昼の空に浮かんで消えた。紀元前1年の話だ。あーむかつく。
さっき電車に乗ってたら、孕んだ女の人の胎から
「なあ…『じつぞん』ってなに…?」
って胎児が聞いてきた。
手紙を書いてあげて、母親の子宮に投函して
読ませてみたら案の定、溶けた。
自溶した。だからやめとけって書いたのに。
ヒッチハイクしてたら、軽トラに乗った人に「この、角砂糖落としが!」
ってブチ切れられた。とりあえず謝っといたけど、あれはなんだったんだろうか。
クリスマスツリーの星がむかついたから
正二十面体で磔にした。
「さいごのひとくちはじゃがいもがいい」
と言いながらクリームシチューを頬張ってたあいつ、まさかじゃがいもの精霊になるとは思ってなかったんだろうなあ...「いま火星の軌道上」って夢の中で言われて起きた...
回転遊具で嬉しそうにまわったあの子
どろどろに溶けた溶けた
幼稚園にいるとき、クレパスを使って庭の風景の絵を描いた。隣にいたあの子は先生に話しかけられていた。その内容は聞こえなかったけど、その直後に
「太陽なんて何色だっていいじゃない!」
と叫ぶ声がきこえて、先生が燃やされていた。ほかの先生がかけつけるころには、その先生は燃え尽きて灰になっていた。
オレンジ色のすきとおる袈裟につつまれた
野宿者に、きいろい花をもらった。
散歩してたら、犬を連れた女の子に
「てめえは井の中の蛙じゃねえか」
って言われたからさすがにぶちぎれて、
「じゃあおまえは井の外の何なんだよ」
ってどつきまわしたら、実はその子、カエルだった。
手を振って帰ろうとしたら犬がその子喰って血だらけで笑った。
Q. あなたはまだ井の中にいますか?
知らない街を散歩していたら、知らないおじさんが自転車でぼくの横を駆け抜けて言ったことには、「“記憶”と、“記録”は違うんだよバカヤロウ!!」ぼく、追いかけた。それは大量生産された「ビートたけし」のクローンだった。世界はより良い方向に向かうだろう、か。
コーヒーカップに嬉しそうに飛び乗ったあの子、今もずっと回りつづけている。
空っぽの遊園地に、ときどきご飯を届けに行っても止まろうとはしない。
「観覧車じゃだめなの?」
「ふざけるなよ。永久機関でなければならないことぐらいわかるだろ」
「シーソーじゃだめなの?」
「いいよ。片方が死ぬまでならな」
カフェで隣に座っていたアバズレに、
「いちばん光るものか、にばんめに光るもの、どちらかやるから選べ」
と言われた。そのとき、きづいた。いちばん大切なものにきづいた。
子どものころ、つらいことがあったらいつも近くの森で泣いていた。
そしたらかわいい子ぐまがやってきたから「くまさん…」って安心して泣き止んだ途端に、「泣くな。くまだからって慰めてくれると思ってたらあかんで。つらくても自分でなんとかしいや。自分でなんとかして初めて、他の人が助けてくれるんやで。最初から人任せにしていてたらあかん。厳しいかもしれんけど、まずは自分でなんとかするんや。わかったか?」と、肩を叩かれた。ありがとう。
昼寝から起きてカーテンをあけたらもうこんな時間で、うす暗くなっていた。色褪せた英国紳士たちが電線の上を散歩していた。夕闇がよく似合う町に生まれてよかった。
「愛しいきみへ」
それだけ書かれた手紙、びりびりに、やぶられていた。
太陽をはじめてみた彼女、ひとこと「遠い火事だね」と
ひとごとみたいにいいやがって。
ひさしぶりに墓参りに行ったら、七代上くらいのばあさんが語りかけてきて「ラブソングばっか歌ってるやつは死んでしまえ」って伝言をもらったので書いた。
森の妖精だと思ったら、たんぽぽだった。
「別にたんぽぽが、妖精ってことでもよくない!?」
とキレられ、強めに殴られた。
「カフェのことをカッフェって言うんだったら、
 パフェのことをパッフェって言ったっていいじゃない!なによ!」
って、何も言ってないのに隣でティラミス食べてる女の子にぶん殴られた。
なんなんだよ......
なんか、駅前でティッシュ配ってたからもらおうと思って
近づいたらビンタされて
「おまえ...『同様に確か』らしいな...?」
って言われた。しばらく観察してたら
普通にティッシュもらえる人と、
ビンタされて同じこと言われる人の二種類に分かれてたけど、
なんなんだよこれ...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?