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一杯のコーヒーを飲む間に読む短編小説#2

「時のかけら」

ある日の夕暮れ、散歩がてら公園を歩いていると、私は突然、遠い過去の記憶が蘇る場所に足を踏み入れた。

それは、幼いころに訪れたことのある小さな池のほとりだった。水面に映る夕陽が、美しいオレンジ色に輝いていた。思わず立ち止まってその景色を見つめていると、私は10歳の頃に出会ったある少女のことを思い出した。

彼女は、池に浮かぶ小舟に乗っていた。金髪に青い瞳、まるで絵本から飛び出してきたような美しい少女だった。彼女は私に微笑みかけ、言葉も交わさずに小舟を進めていった。あの出会いは、まるで夢のような幻だった。

それから20年が経ち、私は成長し、大学を卒業し、社会人として働いていた。だが、あの謎めいた少女のことは、時折心の片隅にある場所で、ふと思い出されることがあった。

夕暮れの池で立ち尽くしていると、私の背後から「こんにちは」という声が聞こえた。振り返ると、そこにはあの日出会った少女が、まるで時が止まったかのように立っていた。

驚く私に、彼女は微笑んで言った。「あなたと再び出会えると信じていました。」

私は戸惑いながらも、「あの日以来、ずっと君のことを思い出していたよ。君は一体誰なんだ?」と尋ねた。

彼女は、神秘的な微笑みを浮かべながら、「私は時の精霊です。あの日、あなたがこの池に落とした大切な時計を見つけ、それを守ってきました。」

彼女が手に持っているのは、私が幼いころに亡くなった祖父から受け継いだ、大切な懐中時計だった。彼女は、時計を私に渡し、「時計を持っている限り、私たちはいつでも会えます」と告げた。

私は、感謝の言葉を述べ、彼女に懐中時計を受け取った。「ありがとう、これを返してくれて。でも、どうして私に会いたかったんだ?」と尋ねた。

彼女は目を細めて言った。「あの日、あなたが時計を落とした時、私はその瞬間を感じ取りました。時計はあなたの祖父からの大切な贈り物であり、あなたの成長と人生の節目を刻んでいました。私は、あなたが大切にしているものを守り、いつか返すことで、あなたの人生に幸せと感謝の気持ちを届けたいと思ったのです。」

私は言葉に詰まり、彼女に感謝の気持ちを伝えた。そして、彼女と共に池のほとりで過ごす時間は、まるで夢のように過ぎ去った。

その後、私たちは時々、池のほとりで再会し、お互いの人生や時計に宿る思い出を語り合った。彼女の存在は、私にとってかけがえのない時間を過ごす場所となり、心の支えとなっていた。

やがて、私は恋人と結婚し、子供が生まれた。私は子供に、祖父から受け継いだ懐中時計を見せ、「この時計は、私にとってとても大切なものだ。いつか君にも渡す日がくるだろう」と話した。

その頃、時の精霊である彼女は、私の人生の中で見えなくなっていた。しかし、心の中では彼女に感謝し、時折思い出すことがあった。

時が流れ、私が年老いていく中で、ある日再び彼女と出会った。彼女は変わらず若々しく、美しい姿で現れた。

彼女は微笑んで言った。「あなたの人生が幸せで満ちていることが、私には分かります。これからも、時計を大切にしてください。」

私は涙を流し、彼女に感謝の言葉を伝えた。「ありがとう、あなたがくれた時間は、私の人生にとって宝物だ。」

そして、私たちは別れを告げ、それぞれの時を刻む道を歩んでいった。私は、彼女と過ごした時間を心に刻み、祖父の時計と共に、その記憶を大切にしていくことを誓った。そして、私はその懐中時計を次の世代に受け継がせる決意を固めた。

数十年後、私は孫に囲まれて、穏やかな人生を送っていた。ある日、私は孫たちに時の精霊の話を語り聞かせ、彼女との出会いや別れ、そして懐中時計の意味を伝えた。孫たちは目を輝かせ、その話を聞いていた。

そして、運命の日がやってきた。私は最愛の孫に、祖父から受け継いだ懐中時計を渡すことにした。孫は時計を大切そうに受け取り、「おじいちゃん、ありがとう。これを大切にするね」と微笑んだ。

その晩、私は夢の中で彼女に再会した。彼女はいつものように美しく、神秘的な微笑みを浮かべていた。

彼女は私に言った。「あなたは素晴らしい人生を送り、時計を次の世代に渡すことができましたね。これで私の役目も終わりです。」

私は涙を流しながら、彼女に感謝の言葉を伝えた。「君がいたから、私は幸せな人生を送ることができた。本当にありがとう。」

彼女は微笑んで言った。「私も、あなたと出会い、時を刻むことができて幸せでした。さようなら、大切な友よ。」

その夢から覚めると、私は涙を流していた。私は彼女との別れを悲しんだが、心の中では彼女が見守ってくれていることを感じていた。

時が経ち、私の孫たちも成長し、懐中時計は次々と受け継がれていった。そして、ある日、私のひ孫が池のほとりで、美しい金髪の少女に出会った。

時の精霊は、時を超えて、私たちの家族に幸せと感謝の気持ちを届け続けていたのだ。彼女との再会と別れは、永遠に続く時のかけらとして、私たちの心に刻まれていくことだろう。


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