[ゼミログ]演劇と記号

1か月くらいかけてアルトーの「演劇とその分身」を読んだものの、半分くらいなに言っているのか分からなかった熊谷です。最近はアングラと儀式行為について興味が向いています。

さて、2月に入ってから3週かけて「演劇と記号」について議論を行いました。

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1週目は、記号論についてざっくり共有を行いました。一般的に記号については、ソシュールとパースが押さえるべき源流となってくるとは思いますが、今回はソシュールの記号論についての考え方をざっくり理解することから始めました。具体的には「言葉とは何か」(丸山圭三郎氏の同名の本を参考にしつつ)や、「シニフィアンとシニフィエ」、「コミュニケーションにおけるコードやコンテキスト」などについて知ることをしました。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480091451/

このあたりを知ってくると、我々の身の回りは記号で溢れかえっていることが分かります。演劇という観点で言えば、舞台上に置かれたもの、舞台上で(さらに言えば、舞台上に限らず客席などの劇場空間全体において)行われる行為などは全て記号的に解釈できます。

2週目と3週目は、これらの記号論を手掛かりに、実際の作品における記号的表現を探してきて議論を行いました。以下、取り上げられたもののうち特に興味深かったものを紹介します。

ままごと「反復かつ連続」

この作品は、劇場で行われたものとオンライン上で上演されたものの2つがありますが、舞台上に置かれたオブジェクトの具象度が異なっています。これらは、記号の表象の強さが劇場空間と映像空間で異なるからではないかという議論が行われました。所謂、具象舞台と抽象舞台における、美術やセットの記号的強さや、その機能性については複数の例で議論が行われ、非常に興味深いものでした。

ミュージカル「テニスの王子様」

2.5次元舞台において、照明と音響を用いることで、本来そこには存在しないもの(上記の映像ではテニスボール)を観客が理解できるのは、まさに記号的な表現であるのではないでしょうか。2.5次元舞台は、その性質上、そのまま舞台で行えないものも多く(舞台上でテニスやバレーを実際に行うことは出来ない)、これらを表現するには記号的代替が多く使用され、またそれが非常に効果的に機能する例であると言えるでしょう。

範宙遊泳「うまれてないからまだしねない」

この作品では、プロジェクターを用いて記号である「言葉」を舞台上に投影することによって、「実体として存在はしないが視覚的には見える」ものが登場し、これが「実体(身体)を持つ役者」と比較されることによって、役者の存在感であったり、虚構的存在をより効果的に演出することが出来ているのではないかという議論が行われました。

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全3回を通して、演劇を記号的にみると新たな発見や、表現行為としての特徴が見えてくることが分かりました。一人の演出家としては、自身の作品においても、記号的観点から客観視することは重要なプロセスになり得ると改めて感じます。

そろそろ、年度の終わりが近づいてきて、本ゼミも来年度の運営のことを考え始めています。新規生を募集することにもなりそうなので、SFCなどに在籍していて、演劇やパフォーマンスの分野興味がある方は是非ご連絡下さい。

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