7月17日・パンダのこと
人生で一回だけパンダを見たことがある。
諸般の事情で大学を休学し、暇を持て余していた夏の日、私と友達は、上野動物園でパンダを見るための列に並んだ。数十分か、もっと長いこと並んだ。パンダのいるガラスの檻は広く、奥行きがあった。パンダは、列をなす人々からいっとう離れた、壁際の遊具の上に、こちらに尻を向けた状態で寝そべっていた。
立ち止まることの許されない列がジリジリと進む。パンダは全く動かない。私はガラス越しに、何か面白いことをするよう念を送ったが、ついに動くパンダを見ることは叶わないまま列から押し出された。
仕事中、職場の偉い人に「君はもう、全くもってダメである」という旨のことを言われながら、あの日見たパンダの尻のことを思い出していた。私がもしパンダとして上野動物園に就職できたとしたら、客前で笹を食べたり、タイヤで遊んだり、坂を転げ落ちて飼育員に救助されたり、世間一般の人がパンダに望むことを一通りやってみせるのに。パンダとしてなら、こんな風に怒られることもないのに。
パンダになりたい。
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