NovelJam'[dash] 2019参加記(戸森くま)

○さいしょに
 この記事は、NovelJam'[dash] 2019に著者枠として参加した私こと「戸森くま」の備忘録です。
 NovelJam(以下ノベルジャム)とは、お互いほとんど知らない者同士がチームを組み、一泊二日で短編小説を電子書籍として発行する文芸ハッカソンイベントです。この記事をご覧になっている皆さまは、いずれもノベルジャムに関係するか興味のある方かと思いますので、諸々の説明は省かせて頂きます(もっとよく知りたい方はノベルジャム公式https://www.noveljam.org/をご覧下さい)。

○参加動機について
「戸森くま」はノベルジャムに参加するためだけに生まれた名前なので、正真正銘無名かつ実績皆無の作家です。名のある方が多数参加されるイベントなので、運営の方はよく拾って下さったものだとびっくりしました。
 私がノベルジャムを知ったのは山田しいた先生の『乙女文藝ハッカソン』(講談社)がきっかけです。作中のイベントのモデルとして挙げられたことから興味がわいて参加記を拝読したところ、参加者の熱量に圧倒されてしまいました。
 同じお題を出されたとしても、私じゃこんなアイデア思いつかないなあと思う作品もあり、「負けた」と感じてしまった自分に強いショックを受けたのです。
 私は、プロであるかアマチュアであるかは関係なく、自分は作家であると信じています。また、他の方からの評価がどういったものであれ、自分の中でだけは小説を書くことに対して誰にも負けたくないとも思っています。ここで「負けた」という気持ちを抱えたままにしてはいけない、絶対に次の開催時には参加したいと思い、その気持ちをぶつけたところ、運営さんは採用して下さったわけです。

○チームメイトについて
 今回のチームビルディングは編集さんによる著者指名式のドラフト制だったため、著者によるアピールとしてツイッターは必須でした。しかしSNSは完全に初心者だったため、終始使いこなせないまま現在に至っております。これを書いている現在はアワード前なのですが、ノベルジャムは一泊二日の執筆活動だけでなく、参加表明からアワードまでの全期間を通したイベントであったのだな、と今さらのように実感しています。
 私にとって幸いなことに、編集枠はノベルジャム巧者のふくだりょうこさんと組むことが叶いました。が、全体を通して著者からのSNSによるアピールがほとんど出来なかったので、ふくださんにはたくさんのご負担をおかけしてしまったことを反省しております……。
 編集枠のふくださんは、お人柄も手腕もすばらしかったです! ふくださんからすると私は実績もないくせにこだわりは強いし生意気だし、非常にやりにくい著者だったと思うのですが、終始根気強く付き合って下さいました。
 当日組むことになった式さんと岸端さんも非常に良い方で、ご一緒出来て心から良かったと思っています。

 あくまで個人的な感想なのですが、同じ著者枠参加だった式さんは「物腰のやわらかい年齢不詳のアイデアマン」といった印象の方でした。それはもう、ストックしてあるアイデアの量も膨大で唖然としてしまいましたが、イベント中も湯水のごとく新しいアイデア湧いているのが、隣にいるだけでひしひしと伝わってきました。いずれのアイデアもものすごく面白くて、聞いていて「その発想はなかった」と嫉妬してしまうくらいです。

 デザイナーの岸端優奈さんは、作風から感じられるとおり、修羅場になってもずっと優しくて、笑顔が素敵で、どれだけ救われたか分かりません。デザイナーマッチングの際、岸端さんの作例の中にあった鉱石の絵がとても綺麗で、それを見た瞬間に宝石をモチーフにした話を書きたいな、それで一緒に組めたら最高だな、と思ったのです。オパールを題材とした話になったのは岸端さんと組んだからこそであり、短時間で手書きのめちゃくちゃ美しいイラストを使用した装幀を仕上げて下さり、考えられる限り一番の出来になったのではないかと感じています。

 ふくだりょうこさんを先頭に、デザイナーの岸端優奈さん、著者の式さんさん、戸森くまの四名が組み、「チームくま式」が出来上がりました。

○お題『変』発表後
 チームリーダーのふくださんは、おおまかなタイムスケジュールとグランプリへの施策を用意して下さっていました。スムーズにチーム内の協力体制が出来たのは、そのおかげだと思っています。
 チーム名と決定後、みんなで一回会場の外に出て、それぞれが「このノベルジャムに何を求めるか」を話し合った結果、「とりあえず作品ファーストで。後のことは終わってから考えよう!」といった方針に決まりました。


 私がこのチームを「静かだけれど熱いな」と思ったのはこの点です。

 客観的にも、このチームは非常に仲が良かったのではないかなと思います。作品を創る上で意見がぶつかると時ですら、ぶつかるというよりもお互いににじり寄っていく感じでした。みんなが冷静に、お互いに作品を良くするためにはどうしたらいいかという点について団結し、全力を出せたと感じています。
 もちろん、参加者全員が「いいものをつくろう」と考えているのは言うまでもないのですが、特にこのチームは「後のことは後で考えようぜ!」という、ある意味呑気というか、のんびりしていたところがあったので、他のことに頭を悩ませる必要が全くなかったのです。(今思うと、ふくださんはいっぱい考えて下さっていたのですが、とにかくその瞬間は作品を作ることのみに集中させてくれました。)
 書いている最中は、迷ったら即相談、代替案発見、即GO! といった雰囲気で、相当スムーズだった気がします。意見交換の最中、式さんが「これはハッピーエンドなんです」「日常ものなんです」などと言って他のメンバーから総ツッコミを受けたり、私が「殺さないと面白くなくないですか?」などと浅薄かつサイコな発言をしてふくださんをドン引きさせたりもしましたが、それも含めて非常に楽しい時間でした。

○作品について
 今回のお題は「変」です。
 式さんは手持ちのアイデアが軒並み「変」かつ「超面白」だったので、中でもとびっきり「変」な話を選ぼう、という作戦でした。式さんの膨大なアイデアをふくださんがチェックし、良さそうなものの概要を岸端さんと戸森にも教え、どれがいいか意見を言う、といった流れでした。そうして生まれた『多頭少女(左から三番目)の憂鬱』、私には到底思いつかない超「変」な物語で、めちゃくちゃいい刺激をもらいました!


 一方の私は参加にあたり、「内容はその場で考える」という点にこだわっていたので「『変』をモチーフとして使うかテーマとして使うか」というところから考え始めました。ふくださんが式さんのアイデアをチェックしている間に思いついたアイデアを口に出し、チームメイトに面白そうかそうでないかを言ってもらう、といった形でアイデアを選んでいきました。以下に私が考えた作品の候補と、それについて頂いたコメントを挙げます。

①「辞書」の話
「変」の辞書に出てくるひとつひとつの概念で掌編を書き、全て揃って「変」を構成する案
  ⇒ 発想は悪くないけど、この文字数でやるのは難しいのでは?

②概念の戦い
 ①を少し変えて、辞書に出てくる「変」の「概念」同士が、一番上になるように戦う話
  ⇒ まあまあいいかも?

③オパールの母親
 タイムトラベルが可能になった時代、1億年前に調査に出かけた女性の学者がタイムマシンの故障で帰還不可能になる。しかしその女性の幼い息子は、事故後に母親が帰って来ていると語り、不審に思って調査すると、オパールに「変」質した母親の遺体が人のふりをして生きていたという話。よくある飴女房とか、子育て幽霊をオパールにひっかけて。
  ⇒過去への遡行は不可能なはず。SF勢が黙っていないのではないか?

 ここで岸端さんにどれがいいか伺ったところ、「③がいいです。オパールを描いてみたい」とおっしゃったため、他の二案はボツにしました。③の話の筋はありがちですし、タイムトラベルもしないほうがいいという部分は覆らないため、上記のことを踏まえた上で「オパールの変質」に絞って再度考えることにしました。

 結果、「オパールに変質した恐竜の骨の話」にしよう――というアイデアがまとまったのは覚えているのですが、ぶっちゃけ必死過ぎて、何をどう考えたのかあんまり覚えておりません……。
 途中、オパールに「変」わった恐竜、というだけではまだ弱いので、テーマでも「変」を回収することにしようと考えていた気がします。岸端さんにはオパールの絵を自由に描いてもらうことになり、後はどれだけ完成度を上げられるか、というタイムアタックが始まりました。

 実はこの時、会場で機材を借りることになっていた岸端さんにトラブルがあったようです。機材が不調な様子で、こっちは何も出来ないのでハラハラしながら手を動かしていたのですが、途中からスケッチブックに切り替えてオパールを描き始めましたのにはびっくりしました。完成形は絶対綺麗になるだろう手描きの線画を見させて頂いた際には、「この絵にふさわしい小説になるように頑張ろう!」と決意を新たにしました。

○中間提出後について
 プロットの関しては適当に書いたのであまり覚えていないのですが、問題は第一稿でした。指定の時間までに、私は満足のいく部分まで書き終えることが出来ず、途中からは箇条書きのものを提出することになってしまったのです。
 その時点で、ふくださんが見せに行って下さったフェローさんから「このシーン、冒頭にもってきたら?」という意見を受け、ハッとさせられました。
 作中のクライマックスである、オパールの竜の登場シーンです。
 個人的に、起承転結の「転」の部分を最初に持って来るのは抵抗があったのですが、始まる前、ふくださんとやりとりをした際にも「冒頭に衝撃を」と言われていたことを今さらのように思い出しました。私は無名ですし、ノベルジャムはタチヨミで買うかどうかを決めるイベントなのだから、そうするのが正しい。これは受け入れてしかるべき意見だと思い直し、構成を変更しました。
 帰り際に打ち合わせをしてから自宅に帰ったのですが、ふくださんに第2稿を送ることが出来たのは、結局翌朝の6時になってしまいました。(お待ち頂いていたふくださんには大変申し訳なく思っております……)
 ちゃんと休むつもりで家に帰ったのですが、結局一睡も出来ず、三鷹までの電車でも若干酔ってしまいました。岸端さんのデザインがあるので朝一で題名を決める必要があったのですが、ここで私は会場に遅刻してしまったのです。もう、かさねがさね本当に申し訳なかったのですが、会場に着くまでの間に30個ほどの題名案を作り、それをメールでチームメイトにお送りしました。
 会場到着後、ふくださんと岸端さんが候補の中から選んで下さっていた題名案を、さらに小説の内容を知らない観戦者の方にも見て頂き、一番評判の良かった『失せものは夕凪に』を採用することにしました。そこでようやく岸端さんが描いて下さったオパールの絵を見せて頂いたのですが、これが本当に綺麗で、感動しました! 

 最初、題名の「うせもの」は「失せ物」だったのですが、画面的におさまりの良いものにしようと岸端さんの意見を伺い、「失せもの」表記となりました。

○修正について
 この時点で、朝の十時くらいにはなっていたと思います。岸端さんと私がお話している最中に超特急で原稿をチェックして下さっていたふくださんから、えんぴつの入った原稿が戻ってきました。
 その中の一つの指摘を見た瞬間、やばい、と一気に緊張が走りました。

「これ、お父さんいらなくないですか?」

 『失せものは夕凪に』では家族の不和を描いたのですが、「父親の存在感がないので、いっそ登場させなくてもいいのでは」と言われてしまったのです。ここに来て編集さんとの間で意見が対立してしまったことに、私は大いに焦りました。個人的に、ノベルジャム一番の難所だったと思います。

「なんということを! お父さんめっちゃ大事ですよ! 絶対お父さんは削れない! でもふくださんがそう言うってことは、間違いなく違和感があるんだ。どうしよう、もう頭が回らないよー!」

とプチパニックになっていた私に対し、ふくださんは非常に冷静でした。

「じゃあ、この一つ前のシーンにお父さんがいたらどうですか?」

 もう、その瞬間、ふくださんが神さまに見えました。一瞬で解決策を出してくるふくださんすごい! と本気で尊敬しました。


 その場ですぐに修正を加え、ここに来てようやく、『失せものは夕凪に』の原稿が完成したのです。

 その後、誤字脱字や表現の細かい修正などを加えながら(トラブルを乗り越えて)アップし、プレゼンでふくださんが頑張ってくださったり、懇親会があったりしたのですが、燃え尽きてしまったせいか、記憶が曖昧です……。くらげみたいになっていた私に対し、優しくお声がけを下さった皆さまには、本当に感謝の念しかありません。

○さいごに
 書き終った直後、アップした『失せものは夕凪に』を見直して、愕然としました。「書けないもの」に憧れて参加したはずのノベルジャムにおいて、苦労して自分が書いたものは、結局「いつも通り」、私がよく書くタイプのエンタメだったのです。
 
 ――ああ、私には「こういうもの」しか書けないんだ。

 そう思って呆然としたものの、一周回って、なんだかすっきりしてしまいました。良い意味で諦めがついたというか、これまでの葛藤が「ないものねだり」の一種だったのだと気付かされたのです。
 今の私の全力の形であり、チームメイトとの協力の結果出来たものであり、すばらしい装幀をして頂いた作品は、単なる「こういうもの」として自分勝手に見下すことの出来ない魅力がありました。
 ここ最近、自分の創作活動に行き詰まりを感じており、そのブレイクスルーとなればという思いもあってノベルジャムに参加した面もあるのですが、参加する前に考えていたこととは違うものの、確かに新たな知見を得られました。
 ノベルジャムは私にとって、「新しいものを獲得する」というよりも、「これまでに積み重ねてきたものを確認する」イベントとなりました。


 アワードでどういった評価を受けるかは分かりませんが、「これまでに積み重ねてきたもの」がやっぱり愛しいと思えるようになっただけでも、自分にとっては大きな収穫であったと感じています。参加して本当によかったです。

 運営の方をはじめ、優しくして下さった各参加者の皆さま、ノベルジャムに関わった全ての方、そして何よりチームくま式の皆さん、本当にありがとうございました! ここに、心よりの御礼を申し上げます。

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