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追いかけっこの私たち


数少ない親友の話をする。

あれは小学4年生の時だったと思う。
休み時間になると、私の使っていた筆箱が時々姿を消すことがあった。

私は不思議に思い、辺りを見回す。

視界の中に1人の同級生の姿がうつった。

彼女の名前は仮にメイちゃんとする。

メイちゃんは笑顔で私の筆箱を持っていた。筆箱の存在をアピールするかのようにわざと見せている。

『あらら』
心の中でつぶやきながら、私はメイちゃんを追いかける。

ここからメイちゃんと私の追いかけっこが始まる。学校中の廊下や教室や時には校庭を走った。先生のいるところでは怒られるといけないので2人ともゆっくりと歩き、先生がいなくなると再び速度を上げてメイちゃんを追いかける。

しかし、私はメイちゃんに追いつけなかった。

メイちゃんは足が速い。私は運動音痴でクラスの中でも足が遅い。メイちゃんが逃げる姿はネコのようだ。私から身をかわし、雲隠れし、そのさまは大変優雅であった。

『追いつけるわけがない』
私は次の授業のチャイムが鳴りそうになると、あきらめて教室に戻る。自分の座席に戻ると、毎回、私の筆箱はきちんと元あった場所に置かれていた。

今だったら「いじめ」と思われるような出来事かもしれない。
でも、当時の私はそんな事も思わずに、彼女の事を「変な子だなぁ」と思うくらいであった。

こんなことを繰り返していくうちに私はメイちゃんとよく話すようになった。

メイちゃんは積極的に私と話したがっているように思えた。下校の通路も私が少し進路を変えれば方向は一緒だったので、歩いてよくお話をした。

彼女は当時人気だった西田ひかるさんに似ていた。
美人で雰囲気は明るい。いつでも笑顔を絶やさない。
成績優秀、体育は何の科目をやらせても卒なくこなす。ピアノやバレエを習い、学級委員を引き受けたりするような一目置かれる存在だった。クラスのどんな女子グループにも人気だし、男子も彼女に憧れている子が多く、思いを寄せている人がいるという噂を小耳にはさんだこともあった。

何でこの人は私と話したいんだろう・・・。
私なんかクラスの中で地味で特徴もない平凡な存在だ。

不思議に思いながらも、私は彼女の魅力に少しずつ惹かれていた。


彼女は他の子と違った。


他の子は今流行りの物の話をしたりするが、彼女はあまり世間で流行っている物には興味がないらしい。

突然「せむしの子馬!」と言ってジャンプをする。

私はなんだろうと思いながら、よく彼女を見つめて笑っていた。

そして、彼女はダジャレを連発する癖があった。

私は彼女のダジャレを聞くのは決して嫌いではなかった。

毎回工夫をこらしていたので「ことばの使い方が上手いなぁ」と関心していたくらいだった。

彼女から教わったことで、今でも私の中に残されていることはいっぱいある。(私自身が実行できているかと問われるとできていないことが多い。でも確かに馴染んではいるのだ。)

お花の水切りの方法
教室の花をいつも率先して彼女は朝1番で手入れしていた。その行動は誰かに褒められるためにやっている訳ではなかった。
音楽を聴くこと
彼女のピアノを聴くと穏やかになれた。彼女は家に遊びに行くといろいろな曲を弾いてくれた。
ことばを大切にすること
「雨ニモマケズ」を覚えさせられた。今でも私は何も見なくとも全部言える。彼女の「ダジャレ」もことば遊びの一環であったと今は思う。
好きな人に感謝の贈り物をすること
彼女は雑貨屋さんに行って、贈り物を選ぶのが好きなようであった。私はこの時初めて雑貨屋さんの存在を知った。
どんな時も自然とともにいること
(喘息で弱い私の体力をつけるためであったと今は解釈しているが)山によく連れていってくれた。山の中で山菜をとったり、水が流れている小川や田んぼを眺めたり、筍を探したりした。
悪口を言わない。仲間外れをしない。
女子というのは一定数の子に限るが、案外派閥を作ったり悪口を言うものなんだなと後から気づいた。メイちゃんはそういう事をしなかったので、私は一緒にいる時はこの特性に気づいていなかった。


小学5~6年生も幸いにして彼女とは一緒のクラスであったが、中学校に入ると私たちは別々のクラスになってしまった。


私は新しいクラスで小学6年生の時に転校してきた女の子(仮にユミちゃんとする)になぜか慕われ始めていた。
ユミちゃんは今どきの女の子で、流行りのドラマや好きな男の子の話、嫌いな人の悪口などを話すタイプの子であった。

私はユミちゃんのグループに所属しながら物足りなさを感じていた。

今ひとつ話題に乗り切れないし、浮いている感じがするのだ。

かといって、メイちゃんがいる隣のクラスに行く度胸はなかった。
メイちゃんの話をするとユミちゃんの機嫌がなぜか悪くなり「メイちゃんと私どっちが好きなの?」と聞いてくることもあった。

私は『何でそんなことを聞いてくるんだろう』と思いながら、いつも隣のクラスのメイちゃんの様子を気にしていた。
メイちゃんは持ち前の明るさで、新しいクラスでも人気者だった。クラスの先生と仲良く漫才のような掛け合いをしている姿を廊下などでよく見かけた。

「元気そうでよかった」と私はその姿を見てひと安心していた。

でも、ぽっかりと胸に穴が開いたような気分でもあった。

『メイちゃんは私がいなくても楽しそうだし、大丈夫。素敵な友達にも囲まれているし、もう私と一緒にいる理由はないんだ。』

私は自分の気持ちに蓋をした。

小学生のあの頃のように彼女を追いかけることができなかった。



メイちゃんと遊ばなくなってから数か月経った。


ある日、私が家に帰ると、メイちゃんが突然家の前に立っていた。

私はびっくりした。

久しぶりに2人で会って、どんな顔をすればいいのか、なんて言えばいいのかわからなかった。

メイちゃんは私に近づき、私を静かに抱きしめた。


私はますます驚いた。


メイちゃんはゆっくりと話し始めた。

小学生の頃、筆箱をとったのは私の気をひきたかったから。

私の前だと本当の自分でいられた。

変な事をしても、ちゃんとおもしろがってくれるのは私だけだった。

みんなの前だと変な事はしないようにしているが、つまらなく感じている。

ユミちゃんと仲良くしている私を見てさみしかった。

ユミちゃんは私の事はあまり快く思っていないような気がする。

今はクラスが違うから、しょうがないと思っている。

私は私で何とか頑張るから、もう少しだけ抱きしめてほしい。


私はメイちゃんを抱きしめた。


私の気持ちだけが追いかけていた訳じゃない。

メイちゃんも私を追いかけていたんだ。


私はあの時の気持ちをことばで上手くあらわすことができない。

頼りがいのある彼女が、この時はすごく小さく感じた。

心臓が高鳴っていた。

鼓動がはやくなっている要因がよくわからず、私の頭は混乱していた。

この気持ちに名づけをするならば
「友情」というものだけでは表現しがたい何かがあったかもしれない、とも思う。


追いかけていた私は、やっと彼女に辿り着いた。


私たちはそれからもお互い違うクラスで、以前と変わりなく過ごしていた。


でも、私はさみしく思うことはなかった。

彼女の姿を見て、視線を交わす。

「頑張ろうね」と私たちは声にならない声をかけあっていた。





たぬきの親子さんの企画に参加しようと思っていたけど、大変ぎりぎりになってしまいました。

私の人生に様々な影響を与えた彼女のお話にしました。

最近会ってないから会いたいなぁと思っています。

たぬきの親子さんありがとうございます。たぬきの親子さんの切ない青春話も心に沁みますので、ぜひご一読下さい。











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