俺はおどんろをどうすればいいんだ

おどんろ、なんだかんだで3回行ってしまった。
風桶を引きずったまま何となく観た1回目はあまり響かず、ただ推しの男装とメガネ姿の希少性に釣られて2回目を観、そこでやっと「あれ?これもしかして、私の推しが主役を演っているのでは?」「わりと都合の良いように解釈できる余地があるのでは?」と気付いた。
それが名古屋の1回目公演。
これは観ておかなければ!となった時にはもう千秋楽だった。
しくじった。
2022年上半期一番のしくじりかもしれない。
だが後悔していても仕方がない。
もう二度とないのだから、記憶にある分だけ、観て聞いて感じたことをまだ鮮明な内に咀嚼しなくては。

焦燥感に駆られるままにこうしてキーボードに向かっているが、何をどう書けばいいのかわからない。
この劇団の作品の特徴として、台詞がなくダンスのみで物語が進行していく構成になっている。
しかも群舞。
ある程度の視線誘導はあるものの、どのキャラクターに注目するのか、そのキャラクターの表情や動作、設定をどのように解釈するのかは人によってかなり違うだろう。

私の中のおどんろは私の中にしかない。
このことが、今とにかくとてもつらいのだ。
映像化しないのでもう誰かに頼み込んで観てもらうことはできないし、観てもらったとしても「わかる〜〜〜」とはなってくれない可能性の方が高い。
もし仮に、既に観た方が「わかる〜〜〜」となってくれて、それが幾許かの救いになったとしても、その共通認識としての「良さ」はもう二度とふたたび享受できないのだ。

何を書いているのかわからなくなってきたが、つまり、この下に書かれていることは、僻地のとある病棟の角部屋で、己の幻覚を誰とも共有できずに爪を噛んでのたうち回る狂人がいつかどこかに届くと信じて壁に書き残したメモだと思ってもらいたい。

読むなそんなもの。

でも本当にあったんです、確かに観たんです。
メガネリーマンの推しが主役を演る様を!!!

あらすじ?

とりあえず私が観たおどんろを書く。
もうこの時点でかなりの解釈が入り込んでしまっており、全然あらすじではない。
細部も順序もぐちゃぐちゃですが、まあ記録ということで、、、
要約が下手くそ過ぎてふざけた文字数になったのですが、なんとアコーディオン表示ができません!
たすけて!
とっっっても読み難いです。読む気がある方がもしいらっしゃったら大変申し訳ありません。

-TAITO区では、令和になって発生し出した謎の生物、通称NEO妖怪による犯罪が頻発していた。
犯罪といっても人を転ばせたり悪臭テロを行ったりといったイタズラ程度のものに過ぎないが、彼らの人智を超えた不思議な力のせいで警察でも身柄を拘束することができず、人々の悩みのタネとなっていた。

うだつの上がらない窓際社員の萬代正一は、今日も会社で虐げられていた。
エベレストより意識が高い社長の下、スマートでクリエイティブな同僚がエフェクティブにアジェンダにコミットする中、データ入力や発注作業、掃除といった地味な雑務に追われては、その生産性のなさにディスリスペクトされる日々。
いつものように少なくない残業を片付けて振り返ると、家から持ってきたはずの傘が無くなっている。
仕方なく鞄を雨よけにしながら駅に向かうと、ゴミ箱の周辺に大量のビニール傘が打ち捨てられている。
無理矢理ゴミ箱にねじ込まれたもの、ゴミ箱に入り切らず地面に置かれたもの…。
その中に、見覚えのある黄色い柄のビニール傘が一本混じっている。
萬代が今朝家から持ってきた、あのビニール傘だ。
骨組みからビニールが外れ、無惨な姿になっている。
オフィスの誰かが傘を盗み、壊してここに捨て置いたのだ。
安堵と諦めが混じったため息をつくと、萬代は傘を拾い上げた。
なんということはない、骨組みの先端のキャップが数個外れてしまっているだけだ。
骨組み自体がひしゃげてしまったり、ビニールに穴が空いている訳ではない。
キャップを嵌め直すと、ビニールは元通りしっかりと広がり、傘としての機能を果たすようになった。
この傘を無断で持ち帰ってここに捨てた人間はオフィスの人間でしかありえない。
意識が高く、テキパキと仕事ができて、頭の回転も速いであろう人間が、何故こんなに簡単な修理ひとつできなかったのだろう。
疑問が浮かんだ瞬間に答えが出て、萬代はもう一度ため息をついた。
できなかったのではなく、やらなかったのだ。
キャップを嵌める際にレンズに飛んだ水滴を、同じく湿ってしまったシャツの袖で拭う。
たかだか数百円のビニール傘に手間をかけ、そのせいでスーツやシャツを濡らすより、退勤ラッシュの車内で濡れた傘を抱え続けるより、一旦捨てて、もう一度新しいものを購入した方が断然スマートだ。
要領がよく、スマートで、頭の回転が早いから、まだ使える傘を諦めるのだ。
横たえられた無数のビニール傘の持ち主達も、皆そうやってここに傘を置いて行ったのだろう。
それでも俺は
そんなだから俺は
萬代は何かに意地を張りたくなったような気がして、冷たい柄をギュッと握った。

萬代には趣味があった。
ゲームと妄想だ。
どちらも暴力的なもので、車で人を轢き倒して胴体から真っ二つにしたり、同僚の携帯を叩き割ったり、社長の左胸から心臓を取り出して捻り潰すというものだ。
もし本当にそんなことができたなら、たぶんきっとスカッとするのだろう。
挨拶すら小さ過ぎて無視され、同僚と違って運動習慣もない萬代にそんなことができる訳がないのだけれど。
萎びた中年男性を絵に描いたような萬代とて、現状に満足している訳ではない。
社長や同僚は日々雑務を愚直に繰り返すだけの自分を壊れたレコードのように見ているところがあるが、どんなにキラキラしていなかろうと、きちんと仕事はしている訳だし、無遅刻無欠勤だし、仕事を翌日に持ち越したこともない。
萬代が居なければ誰がオフィスに散らばったゴミを拾い、細々とした雑務を誰が片付けるのだろう。
そこまで軽んじられる謂れはないはずだ。
と胸を張って言うには、事実できないことが多すぎる。
英会話もJAVAもCSSもできないし、ジムにも通っていない。
他の、自分より若い同僚達のように斬新なアイデアを出したり、それをテキパキと形にできる訳でもない。
武器になるようなものが何もない。
雑務の3割は萬代がオフィスでの存在理由を失わないように自主的に始めたものだ。
仮に萬代がやらなくなったとして、業者を、いや、アルバイトひとり雇えば代替可能な業務である。
なんなら無駄に勤続年数が多く、労基法に守られて無駄なコストを喰う萬代よりもアルバイトの方が使い易いのでは?
阿多利くんが最近よく自分の仕事を肩代わりしようとしてくるのは、水面下では既にno more萬代プロジェクトが進行しているからでは?
阿多利くんめ、好青年のフリしてエグいことしやがって。
俺の傘借りパクしたのお前だろ。
絶対に仕事なんかシェアしてはダメだ。
もう誰も信用できない。畜生。なんなんだこの人生。
コントローラーを握り直し、ポリゴンで出来た人体に向かってポリゴンでできた車を走らせた時、外で強烈な閃光が瞬いた。
萬代が恐々ドアを開けると、そこには一匹のNEO妖怪が立っていた。
子供のような背格好のそれはずぶ濡れになっていて、黄色い長靴から滴る雫が廊下のコンクリートにしみている。
生気の感じられない青白い肌は明らかに人間のものではない。
萬代が何もできないで立ち尽くしているうちに、それは侘しい1LDKに侵入し、慄く家主を抱き竦めた。

(この抱っこちゃんは萬代の直した傘がNEO妖怪化したもの、通称傘児童くんだ!
実は萬代のビニール傘を借りパクしたのは天堂社長。
彼は仮にも人の傘を、ビニールが外れたといって駅のゴミ箱に放り棄てたのだ。
無下に扱われた恨みから、NEO妖怪としての傘児童が生誕!したのだが、その後幸運にも元の持ち主の萬代に回収され、修理してまた元通り使い続けてもらえた。とても嬉しかった!その影響で、世にも珍しい人間に懐くタイプのNEO妖怪、傘くんが爆誕したのである!)

登場組織と登場人物(オープニング)
・NEO妖怪チーム
妖太郎
長袖半ズボン。
エリゴルゴン
ゲロトカゲ。
二千GENJI
カニササレ。
たぴりす
ピンク。
BENZO
下ネタ。
傘児童
オトモアイルー。

・瀬賀寺チーム
瀬賀三四郎
マイヤン。

・天堂製薬チーム
天堂社長
ロン毛。
萬代
幸薄メガネリーマン。
阿多利
こち亀でいうと中川。
邪礼子
アジェンダ。
祖煮博士
博士。

・不思議犯罪課チーム
株根警部
レイバン。
那夢子
新米ちゃん。
湖南
ウーピー。

ジャッキー。

(天堂製薬のCMが流れる。社長がとにかくイケイケで、髪がサラサラなのである。)

雨が降ろうと槍が降ろうと、社会人には仕事がある。
家にNEO妖怪が上がり込んで居座ろうと、いつもと変わらず始業の30分前には出社するのが天堂製薬の壊れたレコード、萬代という人間だ。
いつものようにオフィスの隅で居るような居ないような扱いを受け、全てを振り払うように液晶だけを見つめる萬代に寄り添う小さな影。
家に幽閉して置いてきたはずの傘児童がついてきちゃったのである。
社内規則やTPOなど知りもしない彼はお決まりの如く色々やらかし、結果的に萬代はセクハラ誤発注埋め合わせ営業おじさんと化してしまった。
具体的に言うと、好き勝手動き回る傘くんの存在を隠蔽しようと女性社員に詰め寄ったことを社長に告発され、それを否定している内に傘くんがサンプル段階のクソマズイ新商品を冗談みたいな個数発注してしまったのだ。
ゴミのような存在からゴミへと昇格した萬代は、新商品を抱えて方々へ飛び込み営業をすることになった。

一方その頃。
ここはタイトー署。
不思議犯罪課の愉快なメンバーはNEO妖怪を逮捕すべく一生懸命だった。
特に新米警官の那夢子はそれはもう一生懸命だったのである。
彼女は今日もなんかそれっぽいキャノンみたいなテーザー銃的なアレを携えて街をパトロールするのだった。
あと警部の眉毛は太く、シスターはキルビルみたいだった。
ジャッキーもいた。

金を貰ったって誰も飲まないような新商品がぎっしりと詰まったダンボールを抱えため息をつく萬代の横で、傘児童はニコニコと嬉しそうだ。
なにせNEO妖怪、「お前のおかげで!」と言ったところで通じるような生き物ではない。
細長い身体を更にげっそりとさせて、萬代は街へと向かった。
商材の不味さに加えて萬代の口下手で嘘をつけない性分も大いに手伝って、山のような新商品は面白いように減らなかった。
断られ続け、それが飛び込み営業なのか精神を鍛える修行なのか分からなくなってきた頃、萬代は街の外れにある寺院に辿り着いた。
人気もなく侘しい寺はそれでもだだっ広く、調度品もそれなりに手入れされているようだ。
宗教法人は税金を免除されるようだし、懐に余裕もあるだろう。
というか俺を助けて欲しい。
半ばヤケクソになった萬代は本堂へ乗り込んだ。
いかにも世襲しましたといった容貌の住職は、話半分に萬代を追い返そうとしたが、萬代の後ろにへばりついている傘児童を見つけると目の色を変えた。
萬代が「すいませんすぐ追払いますんで」と言う前に、住職は萬代の腕を掴んで本堂の奥へと引っ張っていった。

ここらへん記憶が曖昧なのだが、なんやかんやでそれを那夢子が見ていた。
あのマイルドヤンキーに捕縛されている萎びた中年男性に張り付いているのは間違いなくNEO妖怪。
絶対に逮捕してやるんだから!
那夢子はふたりと一匹の後を追った。

住職、名前を瀬賀三四郎というらしい、が萬代と笠児童を連れて行ったのは、本堂の奥にある寂れた屋敷だった。
蔦に覆われ、半ば朽ちかけて見えるそれはどこか異様な雰囲気を放っている。
住職はマイルドヤンキー特有の包容力とザラザラとした気易さでひとりと一匹を中へと招き入れた。
そこには、TAITO区中のNEO妖怪が集結していた。
瀬賀は警察に追われる彼らを匿っているらしい。
大変な人物と関わりを持ってしまった。
どうやってここから脱出するか萬代が思案し始めたころ、バズーカのマガジンを装填するような音が響いた。
那夢子だ。
NEO妖怪に照準を合わせて、引き金に指をかけている。
真っ直ぐな目で妖怪を睨む彼女に、三四郎は慌てて弁明する。
こいつらにも事情がある。
人間の為に作られたものが人間の都合で捨てられ、忘れ去られていく。
その過程で軽んじられたモノたちが怨みで妖怪化したのがNEO妖怪。
俺たち人間がもっと物を大切にしていれば、NEO妖怪は生まれなかった。
例えば、妖太郎はファービーやたまごっちといった玩具から、SNS、ルーズソックスと行った幅広いジャンルのものの恨みでできたNEO妖怪。
タピリスはタピオカミルクティーの、エリゴルゴンはエリマキトカゲのぬいぐるみの、BENZOは和式トイレのNEO妖怪で、それぞれ大好きだった持ち主に裏切られた悲しい記憶を語っていく。
二千円にも色々あった

まだ生きているのに、彼らなりに一生懸命持ち主に尽くしているのに一方的に役立たずの烙印を押され、チャンスも何も与えられないままゴミ扱いされる。
身に覚えのある理不尽に萬代は深く共感し、萬代正一の人生について語り始めた。
学生時代には自分なりに大切にしていたツギハギだらけの学生服をクラスのみんなにバカにされていたこと、密かに想いを寄せていた女の子には最悪の誤解をされ、ゴミのような目で見られたこと。
なんとか就職した企業では昇格が決まった途端社長が代替わりし、ポジションごと白紙になったこと。経営方針が180度変わった会社では社長のサンドバッグになっていること。
今も(わけのわからん謎生物に懐かれたせいで)クソマズドリンクの飛び込み営業をしていること。
話し終える頃には、萬代はNEO妖怪達にひしと抱き締められていた。

それぞれの境遇に感化された那夢子は銃を下におろし、事情も鑑みず逮捕だけに躍起になっていた自身の無思慮を涙ながらに謝罪した。
彼女はNEO妖怪+萬代を抱きしめて激励すると、絶対に味方になると宣言した。
単純な子である。

妖怪たちは萬代に異様に懐いた。
会社についてくるほどに。
そしてお約束通りドタバタと暴れ回った。
なんやかんやで一悶着あり、オフィスに残されたトカゲのしっぽ及び瀬賀寺のお札(妖怪を無力化する)が、天堂の一番やべー奴、祖煮博士の手に渡ることになった。

博士が分析したところ、エリゴルゴンの体液はものすごく向精神系作用があるというか、飲むと肉体的に著しく強くなるなにかそういったアレを含んでいた。
開発中のエナジードリンクの原材料にNEO妖怪を使うことに思い至った天堂社長は不思議事件課に出向き、妖怪逮捕に技術力を提供する代わりに、生体の利用を許可するよう申し出た。
最初は渋っていた株根警部も、天堂の技術力と逮捕への情熱から、協力することを受け入れた。

失くした尻尾を探して彷徨っていたエリゴルゴンは天堂製薬が開発したテーザー銃みたいなもので動きを止められて普通に捕まった。
エリゴルゴンは天堂製薬のなんか地下っぽいところで雑に飼育され、哀れに思ってちぎりパンを分け与えた阿多利くんとの間にはなんか友情が芽生えた。

那夢子は一生懸命なタイプだった。
自分の至らなさに気付かせてくれたNEO妖怪たちと仲良くなりたくて、辛い想いをしてきた彼らに何かしてあげたくて、終業後瀬賀寺に出向いてはせっせと差し入れをしたり、カレーを振る舞ったりしていた。
悲しいことにnamcoの舌はバグっていたので兵器レベルの激辛カレーができてしまったが、試行錯誤の果てになんとか美味しいものを振る舞うことができた。
人間を一番信用していない妖太郎も、彼女の一生懸命さに少しづつ心を開き始めていた。

萬代と傘児童は親子のような、ペットと飼い主のような、奇妙で親密な関係を築きはじめていた。
というか、傘児童がびっくりするぐらい萬代に懐いていた。
元々無下に扱われていたトラウマがあるのか、傘児童は目に映るものほぼ全てに対してウサギやリスのように臆病だった。
それがなぜか萬代にだけ人懐こい笑顔を向け、腰や腕にベタベタとまとわりついて離れないのだった。
そのまっすぐな愛を、萬代も少し困惑しながらも受け入れ、ビニール傘だった時と同じように大切に傍に置いた

良いことは続かないもので、突然寺に警察が乗り込んできた。
ここのところ様子がおかしかった那夢子をジャッキーが尾行して、瀬賀寺に妖怪達が匿われていることを突き止めたのである。
事情を説明しようとする那夢子には目もくれず、警察はNEO妖怪達を捕縛。
妖太郎を除く全ての妖怪たちが天堂の手に渡ってしまった。
芽生えかけていた妖太郎から那夢子への信用も地の底に落ちた。
弁明する那夢子を振り解き、妖太郎はテーザー銃のダメージが残る身体を引きずりながら仲間を追いかけて行った。
あと三四郎もなんか捕まって天堂で監禁された。

何も知らない萬代は、いつものように傘児童をお迎えに来て、荒廃した寺の様子に愕然とした。

ここも記憶が曖昧。
妖怪達が連れて行かれたのはどこか、誰かから聞いたのか聞かなかったのか、、、

萬代はすぐに天堂製薬に向かった。
天堂製薬では、妖怪がなにかそういった装置に入れられ、多分生命力的な何かを吸収され、エナジードリンクの原料にされていた。
酷い光景に慄いた萬代は傘くん達を解放するように社長に頼み込むも、拒否され社員証を剥奪され、会社を摘み出される。
失意の中帰宅した萬代。
土砂降りの外とは違い、萎びた1DKは嘘のように静まり返っている。
いつも痛いくらい腕を引っ張って暑苦しくくっついてきた小さな生き物の影も形もない。
「まあどうせNEO妖怪だし」
「いうて物だし」
萬代は、これまでの人生の全てについてそうしてきたように、傘児童や他の妖怪達を諦めようとした。
社員証を剥奪されて実質クビになった今、彼に天堂製薬の方針に逆らう権利はない。
それでも
だからといって
ではどうすれば
萬代は夢遊病のような足取りで瀬賀寺へと向かった。
荒廃した蔦だらけの屋敷は静まり返っていて温度がない。
一瞬走り回る妖怪たちの声が聴こえた気がして萬代は顔を上げた。
そこには冷たく朽ちかけた木の壁があるだけだった。
屋根を叩き、雨樋を伝い、排水溝へと流れる雨の音が思考を遮る。
そういえば、傘児童が萬代を訪ねてきた時も土砂降りだった。
あの臆病で小さな生き物は、萬代を見るなり満面の笑顔で飛びついて来たのだ。
全力で抱き竦められた時の息苦しさ、カーペットに落ちた水滴、腰に回された小さな腕の感触を思い出す。
傘児童は、あの子は、一度は無惨に棄てられたのに、ほんの少しの、誰でもできるような修理をしただけの萬代を信頼して、心から慕ってくれていたのだ。
妖太郎も、たぴりすも、エリゴルゴンもみんな人間に辛い想いをさせられたのに、萬代を抱きしめてくれた。
取るに足らない自分を仲間だと言ってくれた。

ああだこうだと理屈をつけて諦めている場合ではない。
今の彼らには俺しか居ないのだ。
もう彼らに人間を諦めさせたくはない。
萬代は、生まれて初めて腹を括った。
これが腹を括るということなのだ、とその時初めて実感した。

天堂製薬のなにかそう言った秘密的な場所。
妖怪たちが檻に捕らえられている。
どうにかして侵入した萬代が檻に駆け寄ると、傘児童はただ嬉しそうに微笑んだ。
勿論そのまま脱出とはいかず、奥から現れた天堂社長と租煮博士がスタンガン機能が追加された特殊警棒的なやつで萬代を嬲った。
どうか妖怪を解放してくれと土下座して懇願する萬代に執拗に電流を浴びせ足蹴にする社長の様子に流石にドン引きし始める阿多利と邪礼子。
その時、怒り狂った妖太郎がその場に現れた。

ここら辺も記憶が混濁している。

別ルートで那夢子も天堂製薬に侵入しており、縛られていた三四郎を解放、妖太郎と萬代に加勢する。

阿多利と邪礼子も手伝って妖怪達が檻から解放される。
傘児童をしっかりと抱き締める萬代。
もう離さないぞ!とばかりにそれはそれはぎゅっと抱きしめるのだが、なんやかんやで傘児童は再び博士に捕らえ、エネルギー吸引機的なアレに入れられ、生命力を吸い取られてしまう。
萬代が助け出した時にはもう手遅れだった。
萬代に抱き抱えられた傘児童は弱々しく眼鏡に手を伸ばすと、ビニール傘の姿に戻ってしまった。
ビニール傘を抱えたまま放心する萬代。
内心芽生えた罪悪感を打ち消すように「たかがモノだろ!?」と喚く社長。
ドン引きする面々。
そしてメガ進化する妖太郎。
爪が異様に発達し、身体中に目玉が浮かび上がったメガ妖太郎は怒りに支配されている状態で、瀬賀寺のお札もテーザー銃も効かない。
怒りに任せて周囲の全てを破壊していく。
社長も、三四郎も、那夢子も博士も彼を止められない。
萬代は丸腰で妖太郎に近づき、何度殴られても弾き飛ばされても立ち上がり、全力で妖太郎を抱擁した。
初めて会った日、傘児童が萬代にしてくれたように、妖太郎をきつく抱きしめた。
那夢子がそれに続き、三四郎が続き、みんなで妖太郎を抱きしめた(除:社長と博士)。
何かそういった暖かい力で元の姿に戻った妖太郎。

皆が安堵したのも束の間、今度はビルが倒壊し始めた。
皆が一斉に逃げ出す中、傘児童から抽出したエネルギーのタンクを奪い合う社長と博士。
萬代は思いっきり社長を殴ると、早く逃げるように促した。
念願の復讐であるが、少し前まで夢想していたようには全くスカッとしなかった。
思いっきり殴った拳は痛み、顔を抑えて項垂れる社長を見て少しも心が晴れなかった。

倒壊するビルから逃げ出す面々。
瓦礫に阻まれ、崩落する天井に押し潰されそうになる度、妖怪たちが身代わりとなって人間を守った。
すっかり瓦礫と化したビルを前に放心する人々。
妖怪たちはみんな人(と尻尾)を守って崩落に巻き込まれ、消えてしまった。

後日談
あの一件で人望を完全に失った天堂社長は阿多利も邪礼子も失った。博士だけがいつもと変わらぬ笑顔で彼の傍に留まってくれた。
博士を強く抱きしめ、新たな再スタートを誓う社長。
手始めに瀬賀寺で坐禅修行をすることにした。

不思議事件課はブルーだった。
あんなに鳴り止まなかった電話も、今は置物のように音を立てない。
最近は猫探しなどをしている。
おそらく近い内に解散させられるであろう。

萬代と阿多利は脱サラして修理屋兼リサイクルショップを始めた。
萬代の早くはないが丁寧な仕事ぶりと阿多利の人当たりの良さも手伝って、それなりの生活をしていける程度には繁盛していた。

崩壊現場から見つかった?ファービーを修理し、那夢子に手渡す萬代。
ふたりの傍を、確かに妖怪たちが駆け抜けていった気がした。
雨は上がり、柔らかい陽射しが店に差し込んでいる。
萬代は修理が終わった傘を棚に戻すと、空を見上げて微笑んだ。

おわり

とりあえず私が観たおどんろはこんな感じである。
本当に???そんな話だったっけ???
大いに認知が歪んでいると思われるし、前後や細部がめちゃくちゃ怪しい。
でももう確かめようがないからしょうがない。友達もいないし。

とりあえず私がインターネットという石版に深く刻んでおきたいのは、萬代さん、ええぞ。ということと、舞台上で対立する塩梅キャラサイコー!ということである。

キャラクター像?

前回に倣って、私が幻視したキャラクター像を書いていくことにする。

萬代
天堂製薬の窓際社員。
なぜか社長直属のチームに入れられ、歳下の”意識高い系”の同僚たちに日々「ふーん」という態度を取られている。
社長である天堂には、そのクリエイティブではない仕事ぶりから敵視されており、半ばサンドバッグ扱いされている。
生まれてこの方不幸体質、らしいが、学生服にツギハギするほど貧乏な出自から(恐らく)国公立高大に進んで大企業に入社しているので、本人の努力はあれど割と幸運な方なのでは…。
(学生服がツギハギなのは別に貧乏だったからではなく、元々物がかわいそうになって中々捨てられない性格だったのかもしれない。こちらの方が物語の筋には沿っている気がする。)
日常的に同僚の頭を叩いたり社長の心臓を取り出してキルアゾルディックする空想に耽り、帰宅するなり車で人を轢き倒して胴体を切断するゲーム(GTA??)に耽る健全な中年男性。
日々成長を続けるノリノリな社内でひとりノリノリになれず軽んじられる自分と、少しでも機能不全を起こすと粗末に処分される道具達を重ねてしまい、修理して使い続けてしまう。
ビニール傘を大切にした結果そのNEO妖怪である傘児童にはちゃめちゃに懐かれ、会社全体を巻き込んだ大事件の中心人物になっていく。

天堂社長
現大企業天堂製薬のCEO。社長だけど「社長」って呼んだら怒りそう。
サラサラヘアーにそこそこ甘いマスク、スタイリッシュな意識の高さから多数のフォロワーを産み出している。
意識の低さや生産性の無さを蛇蝎の如く嫌っていて、佇まいからして昭和を引きずっている萬代を半ばサンドバッグ扱いしている。
会社を更に成長させ続ける為、新商品であるエナジードリンクの開発に躍起になっている。
苗字が社名と一致しているにも関わらず萬代が採用されてしまっているので、創業者という訳ではなさそう。
前社長の親族で、周りは経営者ばかりの環境で育って、経営論とか帝王学とかを頑張って学んで、留学行ってMBAも取って、地元の中小企業だった天堂製薬を堂々たる大企業にした説。
余裕があるようで実はいっぱいいっぱいなのか、後半では時折捨てられた子犬のような顔をすることがある。

おどんろはおもしろおかしいNEO妖怪と人間のハートフルなお話で、テーマとか構造とか、そういうことを気にしながら観る出し物ではない。
のだけれど、私は己の快楽の為に萬代と天堂の"強さ"のお話だと思って消費している。

ある規範の中での強弱からの解放のお話として

例えば、Toxic Masculinity (有害な男らしさ)という概念がある。
こちらは社会的/伝統的な行動規範において、「男らしい」とか、「男たるもの」と形容される行動や態度の中で、他者を抑圧したり、行為者本人の心身の健康を損なうといった悪影響を及ぼすものを指す言葉だ。
例えば、

・男のくせにメソメソ/ナヨナヨするな(男性はネガティブな感情を出してはならない)
・男たるもの強くなければならない(弱くあってはならない)
・男同士でケアをし合ってはならない(ホモフォビア)
・女性を物のように扱ってこそ男である

というようなものがこれに当てはまる。
このような規範は、それらに縛られる男性自身が困窮した際に、周囲に相談したり助けを求めることから遠ざけ、本人の周囲の環境や、心身の健康状態を悪化させる原因となる。
また、これらの規範に準拠しない男性は「男らしくない」「女々しい奴」とされ、いじめや嘲りの対象となる。

萬代も天堂社長もこの規範に縛られているように見える。
萬代はキッパリとしていて時に暴力的な、"男らしい"振る舞いができず、いじめられても言い返せない、意中の女性にも遠慮して話しかけられない、ガラクタに感情移入してつい使い続けてしまう自分自身を「ダメなやつ」だと詰り、それができる"理想の自分"を空想した。
残業の多い萬代を案じた阿多利からの助け舟も突っ返した。
(これにはオフィスでの存在理由としての仕事を取られたくないという事情も多分にありそうではあるが。)
一方天堂社長は、この規範にほぼ完璧に適合している。
ポジティブなビジョンを大声で語り、役に立たない人間に同情することなくきっぱりと叱責し、障害となるなら暴力的な手段を使うことも厭わない。邪礼子から向けられた思慕の念を利用し、不要になれば突き放す。

"男らしさ"という規範の中で強者と弱者として固定されていたふたりの関係性は、偶然にも一本の傘を共有したことでひっくり返ることになる。
天堂社長が"男らしく"借りパクし、壊して見捨てたビニール傘は萬代の"女々しさ"によって傘児童へと姿を変えた。

子供のような傘児童には社会規範などある訳もなく、"頼りない""役立たず"の、"代わりはいくらでも居る"萬代に全幅の信頼を寄せ、どんな状況下でも嬉しそうに彼にくっついて周る。
(萬代さんが檻に駆け寄った時、それまで怯えていたのに萬代さんの顔を見た途端に「にこーっ!」と満面の笑顔になったのがすごかった。これからどうなるとか、そんなヒョロヒョロ頼りになるのかとかではなく、一緒に居るだけで大丈夫という世界観。この絵(オットー・ネーベル/避難民)を思い出した。)
全幅の信頼を寄せられた萬代は、徐々に主体性を取り戻して行く。
男らしさの規範から離れた、できそこないでもグズでも役立たずでもない、傘児童の信じる萬代として。
傘児童のお迎えの為に残業を少なめに切り上げるようになったし、社長に足蹴にされても諦めず食い下がることができるようになった。
だが、"傘児童には自分しかいない"ということに気づくのが遅れた為、彼を失う結果となってしまった。
一方の社長は規範の中での強者としての振る舞いを先鋭化させ、ついに一線を超えてしまうことになる。
ある構造の中での強者は、強者であり続けなければならない為に脆くなってしまう。
傘児童を殺してしまった天堂は、内心抱いた罪悪感を押し殺し、暴力的に計画を続行しようとする。
失敗を認めて引き下がり、弱者に成り下がることには堪えられない弱さを彼は抱えていた。

終盤で思いっきり社長をブン殴る萬代だが、殴った拳の痛みと、頬を抑えて項垂れる社長の姿に苦い顔をする。
これまで”一人前の男”として従わなければいけない規範に従うことができない自分を責めていたが、別に従いたくなかったのだと気づく。
そんな規範に縛られ、「弱い自分よりも、もっと上手くできる人間が居るはずだ」と目の前の現実から目を逸らしてしまったから、傘児童には自分しか居なかったことに気づけなかった。
天堂社長という規範の中の強者を圧倒した萬代は、同じ強者に成ることを放棄し、阿多利と協力して修理屋を営むことになるのである。

また、有害な男らしさという規範が感情の表出を制限しているのに対し、妖怪や心霊現象といった超常現象が、理屈に合わない人間の恐怖や罪悪感(=感情)の象徴であるという点も、萬代と天堂の辿るルートに理由をこじ付けるのに大変に都合が良い。
捨てられる物に共感してしまうという自身の感傷性を捨て切れず、悩みながらも保ち続けた萬代と、強さの為に内心の不安や罪悪感を抑圧し続けた天堂。
妖怪という感情の象徴が、どちらに牙を剥くかというと、圧倒的に後者である。
だからといって天堂社長が妖怪に何かされる訳ではないし、彼も別にものすごく物を粗末にするかというとそうでもないのでこの話自体無駄なんですが。

舞台上で対立する塩梅コンビ、サイコー!

悪魔が天使に傅いて赦しを乞うやつ、みんな好きじゃないですか。
牙があって、爪があって、圧倒的につえー奴がフワッフワの理屈だけは通ってる奴に頭を垂れるやつ。
塩野拓矢演じる、器用ではちゃめちゃにかっこよくてめちゃくちゃに強いけど、途中で道を踏み外してずぶ濡れの子犬みたいな顔になりつつどうしたら良いか解らなくて暴れ回る、みたいなキャラが、梅澤裕介演じる、不器用で朴訥で大した取り柄もないけれど芯だけは通っていてブレることはなく、何があっても芯を通すことを手放さない、みたいなキャラに圧倒される展開はそれなんですよ。ギガントくんとイインチョちゃん然り、吉田兄弟然り、今回の天堂と萬代然り…。
それぞれの器用さと不器用さ、強さと弱さが綺麗に凸凹になっていて、物語の展開に併せてそれが反転する、規範がひっくり返る気持ちよさ。
中の人の踊り方も対照的で、どんな曲でも優美に柔らかく踊りこなす塩野キャラと、細長い手脚をぶん回して踊る梅澤キャラ。
どちらがより"踊りが上手い"かというと、圧倒的に前者なのに、お芝居の上では追い詰められてもいっぱいいっぱいでも綺麗に踊れてしまうことが却って脆く危なっかしく映ってしまい、どんな時でも一生懸命な動きに"素朴な強さ"が見える局面がある。
単なるダンスではなく、お芝居だからこそ味わえるこのカタルシス。
サイコー!
無理をしない程度に毎秒対立してて欲しい。

この怪文書でももう散々のたくったのですが、塩野キャラって“作品序盤の規範の中では最強”なことが多くないですか?しらんけど。
序盤で最強で、中盤で最強で居るために空回って道を踏み外して、それを認められないからクライマックスに向けて暴走していく、みたいな。
規範の中の強弱に縛られている。
一方の梅澤キャラは(多分)最強であった試しがなく、塩野キャラを頂点に頂く規範に最初からあんまり興味がない。それよりも自分の中の倫理とかペースを基準にして行動していく。
誰がどう言おうと、どんな目で見られようと「これはこれ!」っていう自分だけの規範を別に持っている。
つまり、不器用で頼りないようで実は自立している。
(テスタロッサなんかは特に“自立”に執着してそうだしコンプレックス抱えてそうだけど、自立って要は依存先を複数持つことなので十二分に自立できてると思う...。)
ひとつの規範の中で強さに溺れる塩野キャラをそこから引き上げて助けてあげられるのは、そんな梅澤キャラなんだよなあ(みつを)、というのはあまりにも論理の飛躍ですが、塩梅キャラの対決時において、梅澤キャラが塩野キャラを打ち倒して「新たな最強」になるのではなく、目を覚まさせたり、引っ張り上げたり、無自覚でも助けになる方向に行くのがとっても良いと思います(小並感)。
今回も萬代さんが殴ってやらなかったら天堂はあのままガノンドルフみたいに本社ビルと心中してたんじゃないかな。。。。殴られて折られてやっと心中の罪悪感を曝け出すことができて救われたんじゃないでしょうか。しらんけど。
萬代さんにそんな気は全く無かったかもしれないけど、マイペースな人間って、そう在ることができない人間にはめちゃくちゃな脅威だし、救いにもなり得るんだよなあ…。イイ…。
テストステロン型のコミュニティの中でしんどくなって崩壊していく人間が、オキシトシン型の手段を自分で選び取ることができる人間に(結果的に)支えられてちょっと肩の力を抜いて生き直していけるようになるやつ、ものすごく良くないですか。。。。
強いから弱くなるし、弱く居られるってことはめちゃくちゃ強いってことなんですよ。。。。はあ。。。。

萬代さん、ええぞ!

あと、ダンスに関しては『ジョジョラビット』の
"Dancing is for people who are free. It's an escape from all this."
(自由な人間は踊るのよ。全部から解放されるの(かなり意訳))
という言葉が個人的にすごく好きで、今回の萬代さんという、いかにもくたびれた中年男性が微笑みながら踊る様がものすごく刺さりました。
(この言葉も、ナチス政権という圧倒的で暴力的な有無を言わせぬ規範の外の世界を生きることを「自由」と言い換えている訳です。ひとつの規範に縛られないことの象徴がダンスなのですね。)
表現が難しいのですが、梅澤裕介という役者さんの一兵卒的で素朴な佇まいが好きで、きっとこの人のおじいさんもお父さんもこんな背格好をしていて、それなりの人生を送って来たんだろうな、みたいな。
決してモブ顔ではないのですが、“善き小市民”のルックスをしているというか。もし徴兵されて人を殺せと言われたならなんやかんやと言い訳をして薄目を開けて途中まで従うけれども、土壇場になってやっぱりできなくて怯えながらも断ってしまって殺されるんだろうな、みたいな、“普遍的な善意”みたいなルックス。
そういう見た目の人が、現代の軍服であるスーツを着て、普通の末裔として、それでも踊っている様がすごい刺さって…。
踊りとして上手い人は他にいくらでも居るけれども、この人が踊るから意味があるという想いを想起させる役者さんの性質が、萬代さんとものすごくマッチしてとても最高でした(語彙力3)。

梅棒作品の魅力のひとつに、「自分の人生を自分ごととして生きている登場人物たちのエネルギー」というものがあるように思う。
今回で言うと那夢子のような、自分の快/不快や信念に素直で一生懸命で、外的な刺激に対して全力で反応するような人が沢山出てきて、その活き活きとした、赤ちゃんが全力で泣いているようなエネルギーに心が洗われるというか。。。
悪役も悪役で悪く在ることに一生懸命で、ちゃんと自分を生きている的な。

ピカイチからしか観ていないライトファンもライトファンなのですが、今回の天堂製薬の面々のような、悪役という程振り切れていないけれど、不道徳にもそれなりに薄目を開けてニコニコできてしまうような、特別な悪意もなく傘を借りパクしたり、部署の中でひとりだけを集中放火する社長に阿ることができてしまうような登場人物ってあんまり出てこなかったんではないだろうか。
内心色々思うことがあっても、その場の保身のためにヘラッと笑えてしまえるような。自分自身を誤魔化しながら生きている普通の大人たち。
ハンナアーレントのいうところの「凡庸な悪(=個々が思考や判断を放棄し、外的規範に盲従することによって発生する、陳腐で、どこにでもある悪)」的な。
そんな凡庸な悪が蔓延する場所で、自身もそれに不器用に従いつつも、土壇場でやっぱり抵抗を選んでしまう、鈍臭い取るに足らない個人として、推しという役者さんがぴったりで、見応えがあって嬉しいという気持ちだった(語彙力無いマン)。

推しの、"凡庸で小市民的な善"という印象がどこから来るのかについて、文章化に堪えられるような理屈を生憎持ち合わせていない。
佇まいがそう、としか。

隆起した鼻根によって高い位置で固定された眼鏡と分厚く垂れ下がった瞼が大きくてクリッとした目を隠すので、目を見開いて熱心に何かを見つめている顔がそうでない時の何倍も幼く見えるから?
肉付きの薄い身体に対して骨格が比較的がっしりしているので、後ろ姿になった時に背中が広く見え、それなりに色々背負っているように見えるから??
反り腰ぎみで、常にどこか一箇所に必要以上の力が入っているような、関節同士を凧糸で繋げた人形のようなぎこちない姿勢や動きに、ある種の融通の効かなさや頑固さ、素朴な不器用さや一生懸命さが見えるから???

そもそもこれを書いている人間は、遺伝的にあの手のナンプラー顔(鼻梁と眉骨が隆起していて、濃いというより若干アクのある、強いて言うなら醤油顔)を好んでおり、こと梅澤裕介に関しては顔面大正義すぎて視界に入った瞬間にドライアイが改善する程なので、彼の外観や佇まいに対して私以外の人間に共感を抱いてもらえるような、広範に適用可能な理屈を捏ねるということ自体が不可能なのかもしれない。
生成りの布とか、土のついた牛蒡とか、素焼きのお皿とか、再生紙で作られたボール紙みたいな、素朴な"善さ"の象徴みたいな。。。。。。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?